第6話 平和を憂う
それなりに俺の目論見通りにはなってる、か。
相変わらず、生徒達の成長は目まぐるしい。元よりやる気があるのもそうなのだろうが、学校から帰ってきてもディールとリシェルにしごかれながらも剣術を鍛える生徒達を眺めながら酒を飲むのはかなり気分が良い。
まだまだ実力不足な所はあるが、それでも所々生傷や痣を作るのも一切抵抗がないディール。まずは防御から、と攻撃をさせずに攻撃の流し方や受け方、そこからの反撃の仕方を教えるリシェル。
この2人のバランスは非常に良い。
剣術と言えば大半が攻撃に気を持っていきがちではあるが、それでは万が一、自分よりも剣術的にも。身体能力的にも上を行く相手が敵になった時、何も出来ずに全てが後手に回る可能性がある。
それ故、剣術と言うのは最初に型から入る事が多い。そして、その型の大半は防御にも攻撃にも転用出来る物が多く、がむしゃらに馬鹿みたいに剣を揮ったり。攻撃が最大の防御なんて言う言葉が実力者と臨機応変性を兼ね備えている特定の者にのみ適応される言葉という事を身を以て学んでもらうとしよう。
少なくとも剣術については俺が何かを教える必要はなさそうだな。
俺も一応魔法を使う事が出来はする物の、あくまで実践レベルの剣術を身に着けているというだけの話。得意分野は勿論魔法だ。
決して我儘を言うつもりはないが、こういうのは適材適所。そういう物が得意な奴にさせれば良い。
一応、俺よりも剣術の心得がある者に心当たりはある。ただジーラ達とは違ってそう簡単に色々頼めるような相手ではない。
相手的には頼ってほしいんだろうけど。
「ティア。」
「イルグか。何だ。」
「俺達の可愛い可愛い妹分が元気か見に来たんだよ。」
その妹分の様子を見に来るだけなのにピリピリとした気配を漂わせる不審者を誰が信じるというのだろうか。まぁ、端から見れば不審者に見えるというだけではあるのだが。
こういう時は大抵、俺の知らない所で何かが起きてる時だ。
「……本題に入れ。」
「ティア、世界情勢については?」
「新聞と周りの会話で小耳に入れる程度。」
「なら微妙か。最近、世界中で子供の誘拐が増えてる。」
「子供の……?」
「おう。幸い、この大陸では港町だけで収まってるらしいけど、いつこっちにまで報せが来るか分かんねぇからあいつらに警告しといた方が良いだろうな。」
「……ディアル達には俺から伝えとく。」
「おう、宜しく。後は戦争だな。幸いにも巨竜壁で囲まれてるから中まで火事になる事はないだろうけど、最近は妙な不審火と森林火災が増えてるらしい。原因究明や犯人が居る可能性を考慮して何処の国も協力して調査を進めてるけど今の所は答えが出ていない。」
「……そう。」
「……その延長線で隊長と副隊長をこっちに呼び戻す事になったって、陛下が。」
出来ればもっと遅くに帰ってきてほしかったが、少なくとも話を聞く限りでは2人の旅を中止しなくてはならない程に何らかの自体が起きるかもしれないという予感があるのだろう。
あまり考えたくはないが、それこそ戦とか。それも、あの2人の力が必要になる程に大規模かつ激しい戦争が
……いや、喜ばしい事だろ。何で……何で俺は今、戦を否定した?
俺達は国家を防衛する身。戦と聞けば喜ばねばならない。
敵を倒した数だけ国家に貢献出来ているという自覚を得て、救った自国民の数だけ国家に貢献出来ているという実感を得られる。それが軍人としての役目である。
他国の事は知らないが、少なくともこのネビュレイラハウロ帝国ではそういう風に定められている。それ故、この国の軍人はそうでなければならない。
どうやら平和惚けが始まっているらしい。
「……。」
「幾つかお土産用意してくれてるってよ。」
「……そうか、素晴らしい限りだな。」
「……ティア。」
「……イルグ。もし、俺が」
「戦争は少ない方が良い。」
「え」
「抗命は許されねぇけど、平和を望む事は抗命じゃない。……あいつらと関わるようになって、戦争が起きてしまうのが嫌なんだろ? 別にそれは抗命でもなければ裏切りでもねぇよ。」
「……そう、か。よく分かったな、俺がそれを気にしてるって。」
「んふふ、これでも長い付き合いだからなぁ。お前がそう怯えなくても大丈夫だって。」
「……そうか、信じる。」