第3話 言ってられるのも今の内だろうが
「そんじゃあまぁまずは連絡事項から始めるか。」
「いつになくやる気なさそうなんだが。」
「教卓に肘突いてるし。」
「せんせ、つまんなそう。」
「本第2学期では文化祭、音楽祭、参観、ハロウィン、夜煌晩、ハーベストに魔煌祭。クリスマスとお前らがもっと楽しみにしてるであろう第2期定期試験がある。」
「全く楽しみじゃないんだが。」
「上げて落としてきた。」
「でぃ、ディール。師匠……い、いつになく楽しそうだね。」
「まぁ、元々師匠は私達が困ってる所を見るのも。それを私達が乗り越えるのを見るのも楽しんでるから。」
余計なお世話だ。
それにしても、やっぱりこれだけ広くてこれだけ立派な教室にも敷地にもたかが数名程度が独占するのもどうなのだろうか。いや、別に陛下のやる事に文句を言う事でもないが。
何ならこの馬鹿でかい敷地は書類上俺が保有者になっている事もあり、俺が許可しない限りは足を踏み入れる事すらも許されないんだとか。これでは宝の持ち腐れになってしまう。
だからといって生徒数を増やそうなどとは全く思っていないのだが、だからこそこの余ったスペースを使って何か出来ないかとは思う。
まぁ、今考える事ではないか。
「それと、他にも連絡事項がある。今学期よりお前達には5つ、新しい授業を受けてもらう。」
「新しい……授業?」
「先生がやってくれるのか!?」
「やらん。」
「……何か、一気にやる気がなくなったんだが。」
「それでどんな授業なの、師匠。」
「1つは魔法薬学で、ハウゲルって言う男の先生が担当してる。魔法薬ってのはお前らが魔法を使う以上、必ず必要になる消耗品。勿論店でも買えはするが当然ながらその質や量、用途によって値が張る。……幾らお貴族様のお前らでも金の無駄遣いは戴けん。ここでしっかり魔法薬について学び、いつかお前らが魔法薬師になる時の為。又は、何かしらの理由で外を歩いたり旅をするようになったり、戦闘をするような職に就く時でも役に立つからな。必ず、真面目に取り組むように。」
魔法薬っていうのは本当に貴重で高価な物。俺ですら買うのを躊躇するような額である事が多い。
勿論街や店には因るが、貴重で高価な癖に物量が少ない事からどの国でもいつも在庫不足。それ故、魔法薬ではなく回復魔法や付与魔法を使ってはいるがそれは人が居るからこそ出来る者。市民の中には魔法を使えない物だって居るし、魔法が使えたとしても魔力消費が激し過ぎて体に負担がかかる場合がある。それ故、魔法薬を作れるだけでも履歴書に掛けるレベルの技術となる。
それこそ、狩りと魔法薬の調合の双方が満足に出来るようになれば自分で材料の調達から魔法薬の調合から出来る為、魔法薬販売許可証さえ取れてしまえば店を持つ事だって出来る。
どれだけ作っても不足する魔法薬はいつの時代になっても、何処の国でも売れるだろう。そして、どの国に行ってもその技術は重宝される。
「次は飛行術学でシューフィルって言うエルフの男の先生が担当してる。先生にしてはかなり珍しい部類でな、実際に話をしてきたらあの人も俺と一緒で生徒によって飛行術学で使用する飛行媒体を生徒に合わせてくれるらしい。中には自分の飛行媒体を持ち込んでも良いそうだからな、自分に合った物をしっかり選んでこい。」
「ひ、飛行媒体……?」
「何だそれは。」
「ほ、箒、とか……じゅ、絨毯、とかの……そ、空を飛ぶ為のど、道具のこ、事。」
「うん。人によって変わるみたいだけど……せんせ。せんせは何使って翔ぶの?」
「……俺は飛行術がそれなりに苦手でな。あまり翔ばん。」
「え、そうなのか!?」
「あ、あのせんせに苦手な物が……。」
「でも師匠、今は自分の翼で翔べそうだけど。」
「し、師匠の屋根を跳んで移動する技術……とか、魔法式で疑似魔法生物を作り上げてと、翔ぶ姿もかっこいいです。」
「そんな事まで出来るのか!?」
「相変わらず凄いなぁ、先生……。」
「……前に言ったろ、俺は高い所が駄目なんだ。だから翔ぶ前にさっさと自分の意思とは関係ない所で勝手に翔んでくれる疑似魔法生物が丁度良いんだよ。目的地と着地方法さえ設定しとけば寝てても良い訳だし。」
「いや、普通に大変だと思うんだが。」
「……全然楽じゃないわよ。それ、システムを1つ作るような物だから。」
「生憎、地頭はそれなりに良いんでね。」
特に、魔法に関しては。
ルシウス達も経験があるだろうが、魔法というのは詠唱者の心を読み、詠唱者の心に正直だ。
当然ながら普段からあまり動揺せず、パニックを起こしにくい俺にも怖い物ぐらいはある。それを前にすれば俺も動揺もするし、パニックも起こす。
その為、平静を保てている内に魔法を展開してしまい。更にはその魔法を維持するのに必要な魔力を予め込めておけば後は俺の意思とは関係なく事を進めてくれる。
それこそ、強制的に止めなければならない事態にならない限りは。
「次は相殺学。これは……ほう、珍しい。ラミアのイージスという先生が請け負っている。女性ではあるんだが、まぁ……基礎中の基礎だな。炎には水、水には雷、雷には土といった風に魔法の相性について学ぶ授業だ。これは死ぬまでずっと役に立つからな、しっかりと学ぶように。」
「相殺、か……。確かに役に立ちそうだな。」
「まぁ……そうね。私も結構厳しくされたわね。」
「命に関わるからな。」
「それは……確かに。」
「次……はあんまり納得してないんだが、呪学。メルグルという男の先生が担当していてな、呪い全般に関する授業をするらしい。」
「珍しいな、先生が曖昧な返事をするなんて。」
「何か理由あるん?」
「……呪いっていうのは本来、それを行使する目的が人を害する物であれば如何なる規模であれどもかなりの重罪になる。勿論全く知識がないよりは良いだろうが、授業の仕方によっては……まぁ、あの目障りな体育教師の二の舞になる可能性は高い。何だったらあの一件以来俺には自由に教員を間引く権利を貰ってる訳だが……それでも少しきな臭い感じはするな。」
「なら先生、俺達に教えてくれ。」
「せやな。俺らの方でどんな授業なんかちゃんと見てくるから、そこは任せてや。」
「なら任せようか。次が最後、魔法生物学。……お前ら、この授業は絶対にさぼるな。」
「え?」
「さ、さぼるな?」
「そんなに重要なの……?」
「あ~……。何か、ある程度予想が付いたかも。リシェラ、どう?」
「う、うん……。もしかしてだけど、か、かなりの権力者……なの?」
「いや、正直どうやってこんな人を引き摺り出してきたのか聞いてみたいぐらいなんだが……魔法生物管理機構会長のシャーテル。この人が直々に授業をする。」
「え、魔法生物研究しとる本物の学者が!!?」
「し、しかも会長って。何でトップがこんな所に……。」
「俺が聞きたい。」
魔法生物管理機構会長 シャーテル。
このネビュレイラハウロ帝国でも名を知らない者は居ない程に知名度のある人で、魔法生物の研究の第一人者。普通に考えて多忙であるはずのその人がここに来るなど、それこそ考えられない。
「……まぁ実際、燐獣もその魔法生物に該当する。お前らも魂結を結ぶぐらいだ、役には立つ。しっかりと聞くように。」
「あぁ、分かった。」
「そういや……ディールとリシェラはどうなん? 何と契約してるん?」
「わ、私達は」
「悪いが、四大大公家は代々当主が燐獣を引き継ぐ事になっている。要は俺の煉掟と同じで、お前らみたいにいちいち燐獣を呼び出す必要がないんだよ。」
まぁ……しかし。
「お前らが望むなら用意してやらんでもない。」
「ほ、本当!?」
「ほ、ほん、ほ、ほほほ、ほん、ほんと、とと、ほんとですか!?」
「落ち着け、お前ら。特にリシェラ。……生憎、今はオフシーズンだから直ぐに準備してやる事は難しいが、今年の冬ぐらいには出来るかもしれんな。まぁ、こっちじゃなくて屋敷での実行になるかもしれないが。」
「それでも良い、お願い、師匠!」
「お、お願いします!」
「じゃあ冬休みな。次は今学期の俺の授業に関する事だ。」
「ま、まさか……担当が変わるとかじゃないだろうな。」
「俺と同等レベルの授業が出来る奴で、かつお前らにちゃんと配慮出来る奴が居れば考えるな。……さて、冗談はさておき。今学期から授業は実技と筆記の2つに分ける。実技では相性訓練と戦闘訓練を。筆記では今まで通り、俺のやりたい授業をする。」
「実技……と言うからには、先生が直々に相手をしてくれるのか?」
「時々は、に因るな。まぁ今日は説明だけだ。元々始業式の後だからな、明日からに備えておけ。」