第126話 後は結果待ち、だな
「……ジーラ。少し、とんでもない事実に気付いてしまったんだが。」
「うん、どうしたの? もしかして解析終わったとか?」
「終わったには終わった。」
「それも十分凄い事だと思うんだけどま、まぁ良いや……。それで?」
「これ、仮に改良したとしてもどうやってその研究成果を確認するんだ? この島に七漣星以外の部外者、及び王城非関係者のあのガキ共が居る以上、ここで実験する訳にもいかないと思うんだが。」
「あぁ~……。ちょっと待ってね。特務執事に頼んで電話用意してもらうよ。ティアはそのまま、一応研究続けてて。それか、僕の分の解析もお願い。」
「前者は了解したが、後者は普通に楽したいだけなんだよなぁ……。まぁ良いが。」
ようやっとあの謎過ぎる資料共を読み易い形に解読出来たのは良い物の、ここからこの内容を頭に叩き込みつつ、新しい形態。形式を生み出す段階へと移行する。これが一番大変だったりする。
どうにも阿呆な理由から時間を膨大に無駄にした気がする物の、まぁそれを口にした所で何の解決にもならない事は明白だ。
特務執事、要は俺達七漣星にのみ従い、身の回りの世話をし、応じる事を目的として用意された特殊な使用人達だけがこの島に来ている訳だが、元々彼らはかなり優秀で。俺がまだあの屋敷でガキ共と生活する前は本当にかなり世話になっていた。
当然ながら、今は俺の頼みでガキ共の相手をしてくれているセバルズはその特務執事の統括に当たる。
勿論、女性は特務侍女も居るには居るのだがまぁ彼女達は今頃、屋敷の世話や管理。その他、陛下達から色々と任務を課せられているのもあって忙しい事だろう。それでも、どれだけ自分が忙しくても呼び出せば直ぐに来てくれるのはかなり助かるが。
別に男女差別という訳ではない。
ここにはしっかりとした事情があり、男性は特に執事である関係であるのもあって特務侍女よりも遥かに特殊な戦闘訓練を積んでいる。その関係もあっていざという時に柔軟に動いてもらう為、あまりかつかつのスケジュールを入れないように推奨されているだけに過ぎない。
なので特務侍女の中にはそれなりに厳しいスケジュールだというのに、ゆっくりする時間を確保出来るぐらいに優秀な人だって存在する。
ここも可能な事なら多少でも改善を図りたい所なんだがなぁ……。
「ティア、イルグが向こうで実験に応じてくれるって。」
「そう、か。俺の分も謝っといてくれ。」
「“どうせティアなら遠慮するだろうけど、もし言ってきたら好きにやれって言っといてくれ”って。」
「……読まれたか。」
「ティアは僕達にとって、可愛い可愛い妹みたいな物だからね。ある程度の事は全部分かるよ。」
「それもそれでどうなんだ……。まぁ良い、イルグが応じてくれるなら長らく待機させ続ける訳にもいかないだろ。さっさと実験出来るレベルにまで完成度を上げるぞ。」
「うん。」
都合の良い協力者も得られた事もあり、これの解析。更には拡張及び改善に対するモチベーションはまぁ……それなりに上がる。
まだまだ分からない事は多く、何となくだが直感的に「ここを弄るとやばそうだ」ぐらいは分かる為、その感覚を大切にしながらも作業を始めている。
念の為に元ある安全装置を更に強化しつつ、機能の向上を図っていく。
何事にも多少の欠点が存在しているように、完璧なんて物はこの世に存在しない。故に、少しでもこの調整によって引き起こされる新しい欠点をそこまでダメージの少ない物になるよう調整しなければならない。
まぁ、それもやらないと分からない訳だが……。
「……おし。とりあえずこれで良いんじゃないか。」
「準備完了?」
「あぁ。後はこれを黑鴉経由で王城に届けて調律システムに反映してもらおう。……これで少しは良くなると良いんだが。」
「ティアのやる事に失敗はないよ。」
「それはない。」
とはいえ、送ったからと言って直ぐに結果が出る訳ではない。
まず向こうにこれが届けば機器に変更点が反映され。一度色々空回させて安全確認を行ってからようやっと人体実験に入る。
しかし、長いのはここからだ。調律システムを起動後、しばらく何もしないでイルグを調律システムに置いた上で24時間~240時間程稼働させなければならず、その間研究員達はモニタリングを行わなければならない。
この240時間というのは過去に8日間もの間、ずっと調律システムを稼働しなければならない程に変更点。調整点が多かった事があった為、少なくともそれプラス2日分はまともに。安全に機能してくれなければこれの実用性はない。
しばらくは連絡待ち、か……。
「てぃ~あ。」
「……なんだ。」
「僕と一緒に出掛けない?」
「………………砂浜か。」
「海に浸からなくても良いからさ、そこで読書とかさ。」
「……分かった。」