第122話 好かれても苦労が多く
第6別荘島。
元は、俺達七漣星と陛下だけが利用する “個人的な私物” として設けられたここはかなりの広さを誇っており、しかして一番近い人の生活圏までは船で大体5時間を要する位置にある。
しかも、この島の周りの海流はかなり独特な流れをしており、それもこれも我らが〈月詠の魔女〉ミティアラ・ポラリスがそういう風に “海流を曲げた” からに他ならない。
何なんだよ、海流を曲げたって。頭おかしいだろ。
しかし、そんな頭がおかしいと思えてしまうぐらいにぶっ飛んだ事を軽々とやってしまうのがあの師匠だ。個人的にはあの師匠に不可能な事なんて、それこそ人を蘇らせたり、不老不死の方を手に入れたりとかのそもそもが無理難題及び絵空事ぐらいしかないと思っている。
それこそ、あの人が本気で怒ったら海を干からびさせる事も。逆に、この世界にある全ての大陸を海に沈める事も出来てしまうのではと本気で俺は懸念している。
島の構成はかなりシンプルで、形状は瓢箪状。魔道駆逐艦が停泊している桟橋から見て一番奥の大きな陸にそれはもう大きな屋敷が立っており、手前の方は完全に遊び場となっている。
作り自体はしっかりしている物の、見た目としてはかなり簡略的に作られたキャンプ場のような物。屋根と炊事場、そして木製の長椅子とテーブルがあるだけのシンプルな造り。
そんな島を、この桟橋を始発点に2つの陸。1つの島を大きくぐるっ、と囲うようにして再び桟橋を終着点に鮫侵入防止用魔法網が覆い。一部、俺達がやってきた帝国とは反対側の方を黒曜石製の海壁が囲っている。
まぁ、海壁と言っても水面程度までの高さしかないのだが。
そんな島へ、意気揚々と乗り込んでいくディールに。それを追い駆けてキャンプ場エリアではしゃいでいる様子のリシェラ。
一方、男子陣。ルシウスは今回初めて、自由な夏休みを体験するトルニアとセディルズの傍を離れる気はないようで、意外にもディール達の方へと走っていく事はないらしい。
問題のトルニアとセディルズは……それなりに、自分達のやりたいように楽しんでいるようで。何方も桟橋の近く、俺が居るのもあって余計に集まっている海洋動物達と戯れている。
「キュイッ!」
「あぁ……。久しぶり。」
相変わらず器用な事に、体の3割程だけを水面下に残して身を乗り上げ、頭を撫でるように求めるイルカが愛おしい。
たまにはと、そっと桟橋に腰掛けるようにして座れば我先にと群がってくる。
まぁ久々だからなぁ……。
「おぉ~……!!」
「え、すご……! そ、そんな懐いてくれるん!?」
「せ、せんせ。ぼ、僕も、僕もイルカの頭撫でたい。」
「頼めばさせてくれると思うぞ。……ほら、今回はあいつらの為に来たんだ。多少甘やかしてやってくれ。」
「キュイッ、キュイッ!」
「ちなみに……ルールゥ先生。」
「どうしたの?」
「甲板から見てた時に思ったんだが……ここ、結構とかかなりレベルじゃないぐらいに深いよな。そ、その、俺も海に行った事ぐらいはあったがこんな船の上から見る海は初めてで……。あんなに深いもんなのか? 海というより、奈落の上を浮いているような気分だったんだが。」
「あ、確かに。俺は海来んのも、見たのも初めてやったけど……あんな感じなん?」
「ぼ、僕もあんなに海が綺麗だとは思わなくて……。でも、何でも見えるって凄く怖い事なんだなって。」
「あ~……。君らもティアとおんなじタイプかぁ。まぁでも確かに、ここらへんの海域は他の海域に比べてかなり深いよ。まぁ……それもティアが一役買ってるんだけどね。」
「「「え?」」」
「……。」
「ど、どういう事なん……?」
「実はあの海溝、昔からある物……ではあるんだけど、自然生成された物じゃないんだよ。海流に削られたとかそんなんじゃなくて、ティアに懐いた海洋の魔法生命体が居てね? ティアに会いたいがばっかりに、遠く離れた海だったり。後は、中には自分達が本来住んでいる世界から渡ってきた魔法生命体。本来は深海で生きているのに、わざわざ上がってきた生き物達が通った結果に出来た物なんだ。」
「え……え!? せ、先生に会う為だけに地形変えたって事なんですか!?」
「……せんせって、罪作り。」
「作りたくて作ってるんじゃない。」
そう、これが俺が海を嫌う幾つかある理由のうち、代表的な物の1つ。
理屈としては分からなくもないのだが、こんなただでさえ覗き込むだけでも怖い海溝から巨大生物だったり。見た事のない生き物が一直線に上がってきたら普通は怖い。
中には体を完全に透明に出来る個体などもおり、泳いでる時に振り返ったらそれが居たとかで軽くパニックを起こした事が何度もある。
懐いてくれるのは一向に構わないのだが、アプローチの仕方をもうちょっと考えてほしいと苦言を垂れるぐらい許してほしい。
とは言っても、あいつらにとっては普通に出てきてるとか。仕方ないじゃんとか言われそうな事ばっかりなんだよなぁ……。
「だからこそ……あれなのか? 先生が夜と海と相性が良いって言うのは。」
「まぁそうだね。海に居れば色んな魔法生命体や海洋動物達が勝手にティアを護ってくれるし、ティアのお願いを無条件に聞いてくれるから。」
「……危険な何かが近寄ってきてたりとか、後は場合によっては色んな所で食べられる物を獲ってきては持ってきてくれたりするから食費もかなり軽くなるし、何より海はまだまだ謎が多い。俺が頼むだけで大人しくしてくれるんだから、色々と研究も捗ったんだよ。」
「だからミティアラ様にも魔女にならないかって誘われるんじゃない?」
「……分かってはいるが、やりたくないって。魔女なんて柄じゃないし。」
「せんせ。せんせは……午後はどうするの?」
「釣りか、こいつらとじゃれるか。」
「……釣りなんてする必要あるのか?」
「好きなんだよ、放っておけ。」
「ちなみに、釣りしてる間は皆もティアに気を遣って追い込んだりしてくれるよ。」
「え、かしこ。」