第119話 いざ行かん、海の旅
コバルトブルーの綺麗な海。日光に照らされてキラキラと輝く水面はまるでその手の宝石を散りばめた絨毯のようで、俺が海を怖がっている理由を疑う者も居るかもしれない。
いや、それはあまりにも短絡的過ぎるか。
何事でもそうだが、安全面をしっかりと考慮した上で。はしゃぎ過ぎないように注意すれば、海という物はそこまで脅威となりえない。……基本的には。
ビーチだってそうだった、俺が恐れている鮫だって必ずしも水中に張られている鮫侵入防止用ネットの類が必ず破られる訳でも。必ず通過されてしまう訳でもない。
その他にも、見たら直ぐに警察に一報を入れなければならない危険生物の類が必ずしもここに居る訳ではない。勿論、居ないとも限らないが。
現実逃避はともかく。視界の端でガキ共が騒ぐ中、彼らの視線の先へと目をやれば俺にとってはあまりにもいつも通り過ぎる光景が拡がっている。
海の上に浮かぶ、小さな船。勿論それは “海に比べれば” という前提で小さいと称してはいるが、これでもれっきとした魔導駆逐艦。従来の船舶とは異なり、魔石や魔鉱石を燃料に。つまりは、魔力で動いているのもあって魔法師、魔導士が居れば一生燃料が尽きる事はなく。同時に、環境汚染も一切行わない画期的かつ自然に優しいこの船に乗って第6別荘島へと向かう。
その分生産は大変なのだが。
一応は軍用というのもあり、セントリーや魔法砲台なのも幾つか積んである。セキュリティ上、予め乗船する者の生体認証及び魔力認証を済ませていなければ起動しない仕組みになっており、うっかりルシウス達が興味の赴くままに作動させてしまうような事はないようにはなっている。
今回は撃たずに済んでくれる事を願おうか。
「ぉお~!! 先生、あれが今回俺達の出る船か!?」
「え、でか。待って待って。先生、あれ漁船とかクルーズ船とかでもなくて、マジの戦艦みたいなもんやん。え、何あれ。」
「……巡洋艦?」
「ちょっと貴方達、街中なのにはしたないわよ。師匠に恥を掻かせる気?」
「でぃ、ディール。折角の夏休みなんだから、そんなにつ、つんけんしなくても……。」
「……まぁ、初めて見る物にははしゃぐもんなんじゃないか。普通の子供は。」
「ティア、もう疲れてるでしょ。」
「……暑いんだよ。俺はさっさと宛がわれた俺の部屋の窓から外を眺めながら煙草を嗜みたいんだ。」
「いつも通りだなぁ、本当に。」
「ジーラ。」
「分かってる、あの子達の見張りでしょ? 僕が喜んで引き受けるよ。」
「……ん。」
正直な話をすると、今日を馬鹿みたいに楽しみにしていた某2人組が朝5時に起きてきた所為でかなり騒がしく、とんでもなく眠い。
それこそ、少しでも気を抜けば睡魔に敗北してしまいそうなのも相まってずっと煙草を吸っているのもあってそれはもう不機嫌に見えるだろう。別にどうでも良いのだが。
にしても、この真夏日に。この日光の元で日傘だけ差して歩いてもアスファルトから照り返してくる日光を弾く事は難しい。
無論、魔法を使えば何とか出来なくもないが、だからと言ってこんな街中でむやみやたらに魔法を使うのは七漣星規定により禁じられている。
生活魔法なら……って言ってもこれは俺のオリジナルだし、結局は物に魔法を付与するのが限界なんだよなぁ。
「やっぱり師匠、夏は天敵なのね。」
「あぁ。俺は夜の民だからな。暑いのは勿論だがそもそも日中は弱いんだよ。」
「てぃ~あ。その単語、あんまり口にしない方が良いよ。」
「稀少種狩りの件か? 馬鹿言え、俺があんな奴に攫われる訳がない。」
「まぁそこは否定しないけど。」
「レベン・コレクター……? って何々?」
「稀少な民族や種族を何処からか攫ってきて、闇オークションで競売に出す悪人共の総称。近しいので持ち主を殺して得た物品、遺物を扱う貴重品狩りってのも居るが、やってる事は一緒だ。」
「この街にもあるのか? その……闇オークション会場は。」
「許可せんぞ。」
「だ、誰がそんな所に行きたがるかっ!! 俺が言ってるのは根絶出来ないのかっていう話だ。」
「したい、というのが正確な答えだな。お前達も分かっているように、人の数だけ犯罪という物は横行する。だからこそ、この手の物は根絶するのが難しいんだ。」
「ティア、ゴキブリホイホイみたいな魔法作れたりしない?」
「その前に、犯罪者を正確に。確実に特定出来る魔法の方が欲しいな、俺は。」
「……それこそ無理だと思うんだけど。」
「お前が求めてる水準と全く同じ魔法を提案したんだが?」
まぁ、ともかく。
「とりあえず船に乗ろう。……ここは人が多くて好かん。早く人目も日光も避けられる場所に行かせてくれ。」