第118話 こうでもしないと遊ばないだろ、お前は
「おっ、ティア。最近は……ってあんまり休んでなさそうだな。」
「失敬な、これでもゆっくりしてる。良いから、何か用事があってきたんだろ。」
「ティアのその仕事熱心な所は誰に似たのやら。」
お前ら全員だろうな。
あの里から。……地獄のようなあの里から解放され、陛下達に救われてからの日々の中で仕事をしていない人を見る機会の方がとてつもなく少なかった。
何処を見ても必ず仕事をしている人ばかり。仮に仕事をしていない人、といってもそう呼べる人達は皆、自分がやらなければならない事を全て終わらせた上でゆっくりしている人ばかり。
そういう……家庭環境と言って良いのかどうかは分からないが、少なくともそういうのがあったからこそ俺は「やる事を済ませてから遊ぶ」習慣が就いた。少なくとも、そうでなければ遊んでくれない。構ってくれないという状況が多かったのも、そういう風に学んだ理由なのかもしれないが。
しかし、あの頃から「何で大人は仕事をするんだろう」と思わなかった俺が居なかった訳ではない。むしろ、ずっと思っているぐらいだった。
王宮に居る人の殆どはやりたいからこそそこに居る人が多く、自分がやりたい事をやってお金を得ているという何をやらせても幸せそうな奴ばかり。
その為、仕事は楽しい物なのかもしれないと思っている幼い頃の馬鹿な自分も居た。
結局の所、なるようになって。仕事を本当に楽しいと思えるのはかなり一握りだと知った時の俺は、それなりにショックを受けてたが。
「で?」
「我らが陛下に許可を貰ってきてな、別荘行ってきたらどうだって言いに来たんだよ。」
「先に本人の了解を得ず、いきなり陛下の許可を取ってる辺り提案じゃなくて新手の命令だよな。それ。」
「行きたいだろ? 久しぶりに。」
「そのままゴリ押す気かお前。」
「別荘……?」
「おう、そうだ。俺ら七漣星は時々、2チームに分かれて別荘に行くんだよ。……まぁとか言って、何人かは夜中にこっそり別荘にポータル利用して飛んでたりするけどな。」
「そうだな。夕食時とか、庭に出たら当たり前のように居たりするな。」
「食堂とかな。」
「……笑ってるけど、大体お前なんだからな。」
「いやぁ~楽しい事に目がなくてよぉ。」
「……それで? 今回、俺達が行く事にされてしまっている別荘は何処なんだ?」
「夏と言えば海だろ。」
「………………確か、高校には “林間学校” という物も存在したはずだが。」
「まぁまぁそう言うなって、ティア。今回ティア達が行く別荘は比較的鮫の被害が少ない第6別荘島。……あいつらも、お前に会いたくて仕方ないだろうよ。潜水とまではいかなくても、砂浜に行くぐらいはしてやれって。」
「第6別荘島……か。まぁ確かに、あそこならまだ安全か。」
「少なくともあそこは天候の被害も、海洋生物の被害もこれまでに1度も確認された事がない。ま、その分人里から結構離れてたりはするけど、元々人嫌いのティアには丁度良いんじゃねぇのか。ここの所、結構大変だったみたいだし。」
「それは……そうだが。」
「使用人はこっちで良い感じに選出しとく。……あっちもあっちでお前に会いたがってたぞ? 最近は城内で見ないからって。」
「……あぁ。」
「第6……。そんなに沢山別荘があるのか?」
「大体国内に20個強はある。」
「それ、別荘って言うのか? 殆ど拠点みたいなもんだろ。」
俺もそう思う。
「ま、ある意味研究所みたいな所はあるかもな。何処もかしこも立ち入り禁止区域に指定されてるし、何より王城と同等レベルのあらゆる結界とセキュリティが敷かれてる。だからこそ、ゆっくり出来るってもんよ。」
「少なくとも今回行く事になってる島は完全な孤島。周囲をかなり特殊な結界で幾つも囲われていてな、王家が所持している専属の船でなければその周りを縄張りにしてる海洋生物や魔法生命体共に沈められる事になる。」
「「「え。」」」
「出たわね、師匠の謎に動物に好かれる現象。」
「し、師匠、魔法生命体にも……か、海洋生物にも、好かれるもんね。」
「……鮫に好かれるのだけは勘弁願いたいんだがな。」
「そういえば……師匠が鮫嫌いっていう話はよく聞くけど、その理由って知らないのよね。何でなの?」
「……答える気はない。」
「まぁとにかくティア、こいつら連れて3日後に第6別荘島に行って、夏休み潰してこい。な?」
「……………………。…………まぁ、2か月はそこで潰してやる。」
「おっ、おっ!? もしかしてあのティアが夏休みに島以外で遊ぶ理由を」
「うるさいっ、他に要件は。」
「いいや?」
「じゃあ俺は作業に戻る。」
「そ~言うなって~!」
……そういえば。
「お前は……来るのか、第6別荘島。」
「いや、俺はちょっと用事があるもんでな。お前らにはジーラが同行する。」
「……そう。」
「お前とあいつなら、一番相性も良ければ “海と夜は敵なし” だろう?」
……。
「……あぁ、そうだな。」