第113話 命はいつか、果てる物
「ほんっと男って遅いんだから。」
「わ、私もこ、今回はちょっと……お、怒ってる。お、怒ってるんだから!」
「あ~はいはい。悪かった悪かった。」
「り、リシェラ? その言い方やと全然怒ってるように聴こえへんで?」
「む、むしろ可愛い……というか。」
「か、可愛くないもん! わ、私、私こ、これでも怒ってるんだからっ!」
「……かわええわ。」
「うん、可愛い。」
「お、怒ってるのぉ~!!」
やっぱり子供は1人でもうるさいのにこれだけ集まると簡単にうるさくはなる。まぁしかし、男衆だけだった時に比べれば大分俺とは離れた所で騒いでくれるのでこっちも楽にはなったが。
それでも幸いなのはちゃんと俺の事を考えてくれる2人が間に入ってくれたり。何かと庇ってくれたり、場合によっては2人で解決出来る事。2人が説明出来る事であれば代わりに説明してくれるので無駄に口を開く必要もない。
何処か王城内にて勤務している時によく似た光景ではあるが、こいつらと関わってからという物。そういう環境から掛け離れた所に居た俺としては、懐かしく思うと同時にありがたくも思う。
確か……あ。
幼い頃、と言ってしまえる程に古い歴史を持つこの魔宝店。魔の宝石と書いて魔宝店と営んでいるこの店は俺がこの帝国に初めて来た時からある物で、それはもうこの国でも数少ない老舗と言えるだろう。
先祖代々引き継いでいるのもあり、その腕や業績に対する信頼はかなり高い。
カランカラ~ンっ……。
「店主、居るか。」
「あら、お久しぶりね月光華。」
お前も相変わらずだな……。
「その呼び名は恥ずかしいから良い加減辞めてくれ。俺はそう呼ばれる程綺麗じゃない。……色んな意味で。」
「私はもっと貴方が評価されるべきだと思うけどね。」
「……。」
「分かった分かった。じゃあ、夜煌華ね。」
「もっと酷くなってると思うんだが?」
「夜煌華……?」
「げ、月光華も初めて聞いた……。」
「……まぁ、これは男の子なら仕方ないかもしれないわね。でも、でもよ? 仮にも師匠にプロポーズした事がある身でその程度ってかなり恥ずかしいわよ?」
こいつ。
「え、そんな言われる事なん?」
「そ、そんな告白に近い意味が……?」
「昔は宝石とかの実用性がある物じゃなくて、花に想いを乗せて告白するのが主流だったのよ。ね、リシェラ。」
「う、うん。た、確かに宝石はき、綺麗だし、朽ちもしないからい、今は価値があるかもしれないけどこ、告白には不向きなの。」
「え……?」
「な、何で……? その方が変わらない愛って感じがする、けど……。」
「……貴方達、随分仮初の愛情なのね。」
「「「え。」」」
「それか気持ちが重過ぎて、全く以て真意が伝わってこないわね。」
「は、花と宝石だと花の方が良いの。こ、鉱石は長い時間をか、掛けて作られる物だから愛が成就するまでに長い時間をか、掛けるって事で “今は嫌いだけど頑張って好きになるから” って言うい、嫌々好きになるって意味……なの。で、でも、花は他の非人間族と比べたらに、人間みたいに寿命が短いから命尽きるその時まであ、愛して。短い内にこ、恋をして、あ、愛するって事……なの。だから、愛を告げる時はほ、宝石より花の方がい、良いの。」
「へぇ……。じゃあその月光華? と夜湊華? はどんな意味があるん?」
「げ、月光華は月のま、魔力を多く含んだ花で、ひょ、標高の高い山の上。夜のう、内しか咲かない花、なの。花言葉は偽りなき世界を。真実。御心。月。そ、それでね、夜煌華は夜空、希望、深淵への廻廊、ゆ、揺り籠って意味なの。……だから、先生に合ってると思う。」
「……喧しい。」
「あら、若いのに賢いのねぇ。」
「これでも四大大公家の跡継ぎ様だ。」
「じゃあご立派ねぇ。この国もまたしばらく安泰でしょうね。」
「それはそうだろうな。」