第109話 星に重りを
「そろそろ七夕と鎮魂祭の準備か……。」
「ただ単に笹を飾って、それに短冊を掛けて叶うかも分からない夢を願ったり。視えない死者の安らかな眠りを祈るだけの古い儀式が祭りや習慣になったような物をわざわざやるのか?」
「……罰当たりめ。」
「え。」
「 “古い儀式” っていう所までは分かってるのに、どうしてそこまで軽んじれるのかしら。何故現代まで、そうやって姿を変えてまで残り続けている理由を考えるのが自然だと思うけど。」
「わ、私もディールに同意……か、な。その、こ、今回ばかりは……。」
「リシェラにも言われる程なのか!?」
「ちょっと、私に対するその扱いは何?」
「それで先生、詳しく説明してくれないか?」
「……。」
「でぃ、ディール。ディール、落ち着いて。ぼ、暴力、暴力は良くないよ!」
相変わらず仲の良いようで。
「まずはお前らの主観を聞こうか。ルシウスは……まぁ、聞かんでも良いだろうが。後、如何に大切なのかを正しく理解しているディールとリシェラの意見も聞かんで良いだろう。トルニア、セディルズ、答えてくれ。」
「はい、先生。」「はい、せんせ。」
「俺は……まぁ、七夕は昔の風習が残ってる感じ、かなぁ。それか、そういう種族みたいなのがおるにはおるけど、知ってる人は少ないんかなぁとかそんな感じ。鎮魂祭に関しては、大事な人が亡くなった人達にとったら大事な日……なんちゃう?」
「ぼ、僕もトルニアに近い……かな。七夕は僕達民間は習慣程度に考えてるけど、何処かには重要な儀式としてまだ昔のまま残してたり、催してたりしてるとか……。鎮魂祭は、その、トルニアと違って荒魂……でしたっけ? 悪い魂とか、悪さをしてしまいそうな魂をあるべき所へ送るような、そんなイメージです。」
「あ~……。言われてみれば鎮魂祭の方は納得かも。そうやないとお盆もあるんおかしいし……。」
「うん。だからそう思った。」
「……まぁ、まだマシ程度か。」
一応、何故。どうしてと思い立つ事さえ出来ればそのまま芋づる式に答えを導き出せるだけの力はあるらしい。それも実力不足ではあるが。
但し、ここで一番問題視するべきはそのきっかけ。これを自分で見つけられなければ先へ進む事は出来ない。
何事でもそうだが、チャンスという物は待っていて手に入る物じゃない。そして、何か努力をしたらと言って必ずしも報われる訳でもない。
それでも諦めないからこそ、多少諦めが悪い方が得をするという物。それは勉強に至っても同じだ。
本当、何でこいつらはこんなにも詰めが甘いんだこいつらは。
「それで、答えの方は?」
「何方も大事だ。まず七夕の方だが、2人が話したようにちゃんと意味がある。一般的には子供に無垢で純粋な心を持たせ続ける為の道徳的な行事として七夕と呼ばれているが、お前達魔法師や俺達魔導士にとってはその重要性がかなり異なる。魔法業界において、七夕は星の降る刻と書いて、星降刻という年に数回ある非常に深い意味を持つ日となる。」
「星の降る刻……。」
「刻は……刻限の刻から取ってきてるやろうし、“そういう時期” っていう意味の刻やろ?でも、星が降る……?」
「流星群とか……流れ星?」
「7月に?」
「そ、それは……。うぅん……。」
「一応隕石も星っちゃあ星やけど……。」
想像力はあるんだよなぁ……。頭は硬いが。
「星だよ。」
「星……と言われても。隕石なのか? それとも流れ星か、はたまた鉱石か何かか……?」
「星だよ、星。そんな惑星とか隕石とかではなく、星が降ってくるんだ。魔力が結晶化した物、魔結星が。そうだな……金平糖ぐらいの小さな物なんだが、それがそれを集める為の魔法陣の中に墜ちてくれるんだ。」
「え、そんなに楽な事が?」
「楽って言うな、楽って。その為の座標固定はそれなりに疲れるんだからな。まぁ……でも文献によれば、島でその魔法陣を構築した際には魔法陣の中ではなく砂浜に特殊な魔結星が流れ着くらしい。一度お目に掛かりたい物だが……まぁ、しばらくは無理だろうな。」
「その魔結星って、何に使うん?」
「砕いて粉にした物を砂糖として使ったりだな。」
「食べ物なん!!?」
「んな訳あるか、非常に魔力濃度の高い稀少鉱物だ。」
「……先生、酷い。」
「たまには遊ばせろ。」
「……遊ぶって断言してる辺り、なかなかに悪質なんだが。」