第104話 いつも傍に、いつでも傍に
……さて。
「ここがケリューカ家?」
「あぁ、そう聞いて……あ。おーい、ジーラ~!」
所詮は騎士団、されど騎士団だったようで、俺達が本気でしごいた帝国兵達とそれなりに良い戦いをしたらしい。
何処へ視線をやっても赤い染みに黒い染み。中にはこんな街中で重火器をぶっ放したようで、多少地面が抉れていたりもする。
何だ、ここは戦場か?
「相変わらず派手にやってるのね、師匠達の直下部隊は。」
「ま、前よりも血の気が多いような……。師匠、これやったのって黑星部隊?」
「……みたいだな。おい、親玉。街中で大砲持ち出したこの阿呆部隊は何考えてやがる。」
「いやぁ、新任体育教師が先輩方のご挨拶に遅れる訳にはいかないだろ?」
「他の部隊に押し付ければ良かっただろ……。それか、指揮権だけ他の七漣星に任せれば良かっただろ。」
「いやぁ、新任体育教師が先輩方のご挨拶に遅れる訳にはいかないだろ?」
「答える気はないってか。よく、よ~く分かった。」
「……? 七?」
「俺も同じ所が気になった。先生、先生達の所属してる部隊は確か、陛下を足しても6人なんじゃなかったか?」
「い~や? 陛下を抜いて7人だけど?」
「え? で、でもそれやったら数……合わんくない? 隊長の陛下、副隊長のドリューさん。隊員にエルディさんとルールゥ先生、ベク先生とグレイブ先生やろ……?」
「イルグ?」
「おん、喋った。」
「はぁ……。」
「所がどっこい、それは “表向きな” 情報でな? 俺らが普段隠密機動と呼んどるそれの正式名称は七漣星。陛下を除き、俺もティアもジーラも含め、全部で7人の隊員が。通称、影星って呼ばれる特殊な幹部がそれぞれ独自部隊を持ってるんよ。」
「その1つが……その、黒星部隊?」
「そーいう事。」
「でも……何で漣、なんだ?」
「ん?」
「七漣星の真ん中。何で、漣なんだ? 星と海は……離れている気がするが。」
「It’s good Question! それもこれも、俺ら七漣星にある最も代表的な共通点を表してるんだ。」
「共通点。」
「―――一度しか、気配を晒さない事。接敵して直ぐ、必ず攻撃を外さない位置に来た所で初めて、俺達は自分達の気配を晒す。そうする事で相手の恐怖を煽り、絶望の表情を見る為に。水面が揺れたその頃にはもう全てが終わっている事からそう名付けられた。ちなみに、星と海はそれぞれ面白い関係性があってな。少なくとも七漣星では全ての目を奪い、注目を掻っ攫い、何処までも輝かしい星と。……それに目を奪われて足元が疎かになってる馬鹿を、深海奥深くまで何1つ差別なく呑み込んでいくその大喰らい的な所から七漣星ではよく海や星に関する言葉が使われる。」
「そ~いう事。まぁ要は俺ら七漣星の影星は全員、暗殺職特化。勿論俺みたいに派手な事が出来る影星もおれば、ティアのようにたった一撃で全てを一掃出来る超火力も居るがぁ……その数はかなり少ない。」
「じゃあ……あれ、なん? 七漣星って、その影星それぞれが持っとる独自部隊も全部ひっくるめた名称って事?」
「そ。」
「で、でもおかしい、おかしいよ、ベク先生。数が合わないよ。残りの2人は……?」
「そういえば……私達もあ、会った事ないかも。ね、ディール。」
「言われてみれば……確かに。師匠方、これって聞いて良い内容なの?」
ちらり、と俺の影へ視線をやれば案の定。やっぱりここに居たらしい。
大方、話を聞いて思わず気持ちが高ぶったのだろう。ゆらゆらと、明らかに影らしくない動きをしてはここに居る生徒達の恐怖を煽っており、流石に驚いた彼らが警戒態勢には入るものの、だからといって行動を移す気はないらしい。
それに気を良くした双刃の毒雅が顔を出す。
あの人によく似た、顔つきではあるが全く違うこの双子。
片方は北方の雪原を思わせる白銀の髪に、彼の残酷な雪原の上に拡がる雲1つ存在しない蒼天の瞳。耳には彼の有名な、ノルデンのエルフらしい耳がちらついて。
片方は雷鳴を伴う曇天を思わせる漆黒の髪に、戦場に流れた血を全て吸い上げたような黒紅の瞳。耳には彼の有名な、ダークエルフらしい耳がちらついて。
そんな双刃が、楽しそうに。愉しそうに嗤う。
……ったく。
「ギル。ニーナ。」
「初めまして、ティアのお気に入り達。」
「初めまして、ティアのお気に入りさん達!」
「か、影から人が!?」
「え、何々何!!?」
「え……?」
「あ、れ……? リシェラ、この子達。」
「う、うん。陛下の……ご弟妹じゃ?」
「「「え?」」」
「よく知ってるね。凄いね、お兄ちゃん。」
「まぁでもあの2人は四大大公家の人間だよ、ニーナ。」
「あれ、そうなの?」
「まずは挨拶から始めてくれ、2人共。」
「分かった。」「はーい!」
「初めまして。僕はギル・メルギア=シェルティア。」
「ニーナ・メルギア=シェルティア! いつもお姉様がお世話になってます!」
簡素過ぎるだろ。
「はぁ……。まぁ2人は本人達が言っていた通り、陛下の実妹と実弟だ。何方も暗殺職に特化していてだな、大抵は2人合わせて双刃の毒雅と呼ばれてる。」
「僕達の役目はお姉様のお気に入りたるティアの護衛を勤める事。」
「ティアを護って支える事! ……でもごめんね、ティア。私達が離れてる時に限ってティアが体壊しちゃったり、死にかけたり。」
「気にしてない。むしろ、ほぼ常に俺の傍に居る方が異常だろうし。」
「……僕達が嫌い、と?」
「……ティア、私達を捨てるの?」
「急にそのスイッチを入れるな。お前達にも自分の時間があっても良いのにっていう話をしてるんだ、俺は。」
「で、でも師匠。そのお2人……目の色も、か、髪の色も、種族も違うよ?」
「ネビュレイラハウロ帝国の皇族の家系は大昔、とあるドラゴンに呪われた。それもあってドラゴンの魔力と血を受け継ぎ、異形と異常である事を運命づけられた事から同じ血縁者でもこうして目や髪、種族が変わる事はよくある。だから何もおかしな事ではないさ。……で? 話して良い内容なのか?」
「構わない。別に、都合が悪くなれば記憶を消すだけ。」
「うん、ニーナもお兄ちゃんに賛成! まずい事になったら臨機応変に対処すれば良いの!」
「……そう。なら喋るが七漣星残りの2人は今、遠征中だ。」
「遠征……?」
「じゃあ、いつか帰ってくるん?」
「あぁ。陛下のお爺様と、俺の……師匠が。」
「し、師匠!? せんせの!?」
「……あぁ。もうしばらく帰ってこない事を願う。」