第102話 愛しい義妹の成長に
第6特殊校舎の5階にある、喫煙者用のテラス。屋内でないにも関わらず、屋根や壁がしっかりしていたり、専用の魔法を掛けられているのもあってそう簡単に雨粒が入り込まないここは煙草を吸うのに丁度良い。
どうせ陛下の事だ、俺の為にここを作ったのだろうが。
この建物に囲われている中庭が見えるように設計されているのも、恐らくそういう事なんだろう。俺が授業をしながら、煙草を吸えるように。
こんな所に居る時点で、俺以外の誰かが中庭で授業をしている時に限るんだろうが。
「ティア。」
「……下から這い上がってくるな。俺は慣れてるが他が見ると卒倒する。」
「どうでも良いよ、僕がしたいようにやるんだから。」
「……。」
「イルグから多少は聞いてるだろうけど、ケリューカ家とリューンジュ家はそれぞれ完全制圧した。……ま、ある程度は予想してたみたいだよ。」
「騎士団か。」
「うん、向けてきた。まぁ僕らの敵じゃないけどね、あんな民兵。正規帝国軍に比べれば赤子のような物だし、簡単に殲滅して今は危険物だけ取り除いて大掃除してる。……けど、幾つか問題があって。」
「問題。」
「ギルガですらも破れない封印が幾つかあるんだよ。だから、ティアに解いてもらいたくて。」
「分かった。どうせこの後、ガキ共を連れてそっちに行く。」
「うん、知ってる。でも……僕はちょっと嬉しいんだ、今。」
「……。」
「だって、あのティアが。僕達のティアが僕達以外に興味を持ってくれる事も。ここまで肩入れする事も珍しいでしょ?……それがどうにもティアの成長に思えて、どうにも嬉しくて。でも、寂しくて。」
「……心配しなくても俺は親離れをする気はない。……………………兄離れも。」
「本当?」
「あぁ。」
「そっか。でも、だからと言って話題を逸らさせる気はないよ。」
ちっ。気付いてやがったか。
すっ、と手すりからぶら下がるのを辞めて隣に降り立つついでに人の胸ポケットから煙草とライターを抜き取るジーラ。
俺の記憶が正しければ
「げほっ、ごほっ、う、うぅ苦!? ティア、まだこんなの吸ってるの!?」
「死ぬまで吸う。」
「……まぁ、葉巻じゃないだけ良いのかなぁ……?」
「葉巻は持ち運びがめんどくさい。」
「まさか経験済みだとは思ってなかったんだけど。……はぁ。それで? 何か譲れない事でもあったの? あのお気に入り達。」
「……重ねた。陛下に助けてもらって嬉しかった時の事を、トルニアとセディルズに。」
「……成程。それは色々と納得かも。」
「笑いたきゃ笑え。」
「ううん、笑わない。……立派になったね、ティア。今やティアは、誰かを救える人になったんだ。誇って良いと思うよ?」
「……………………言っとけ。」