第100話 この阿呆夫妻は……。
「良し、じゃあもう終わりだな? 帰っても問題ないな?」
「ちょっと待ってくれ、ティア。帰る前にもう1つ、連絡事項がある。」
「連絡事項……?」
「あぁ。ほら、前にティアが退職にまで追いやってくれた体育教師が居ただろう?」
「あぁ……あの屑か。」
「あぁ。あれが抜けた席を埋めようと思ってな。」
さらっとあれ呼ばわりしたか、こいつ。
「……俺は座らんからな。」
「いやいや、学年主任様はそのままその席に座っていただいて。」
「十分座り心地が悪いんだが。」
「まぁまぁ。ティアの実力を鑑みればまだまだ足りないぐらいだってば。」
「まぁ、俺の実力で見ればディアルが学園長を失脚する羽目になるが。」
「割と想像出来るから辞めてくれ!?」
「で、その空席が何だって?」
「新任の体育教師が決まったんだ。だから紹介をしようと思ってな。さぁ、入ってくれ!」
幾らディアル達でも多少反省してくれた事を期待しつつ。出来ればそこまで熱血系でない事を願いつつ、がらっと音を立てて開いた扉の先に居たのは……イルグ。
どうにも目の前の出来事が理解出来ず、軽く目をこすってみてもそこに居る人物は変わりない。
「…………………………は?」
「どうも、初めまして。ティアと同じ仕事しながらこっちで働く事になりました、イルグ・ベクです。宜しくお願いしま~す!」
「彼が自己紹介してくれたように、普段はティアと同じく国家の為、帝国の為、陛下の為に陛下の手足としてお仕事を成されている魔法師のイルグさんです。本日より本校の体育教師となります。皆様、是非とも仲良くしてあげてください。」
「宜しく!」
「い……いやいや。は? い、イルグ?」
「おう、どうした?」
「どうしたじゃない。お前、ここで何やってんだ。」
「体育教師。今日からだけど。」
「そうじゃない。いや、そうだけどそうじゃないんだ、分かるだろ、なぁ? なぁ!?」
「ふ、ふふ、ふはは! いやぁほんと、最近のティアは百面相で可愛いなぁ。」
「言ってる場合か。」
すたすたと近寄って頬を引っ張ってもこの脳みそまで筋肉で出来てる馬鹿には伝わらないらしい。いや、流石にそんな訳はないのだが。
〔何考えてる。〕
〔そう怒んなって、ティア。元々兼職してた塾の講師は辞めたし、ちゃんと教員免許も取ったって。〕
〔俺が言ってるのはそういう事じゃ〕
〔ここ最近。……特に、ティアがこの学園に教師として在籍して以来、近隣諸国もざわついてる。俺はそれの抑止力だよ。〕
〔……何でそこまで。〕
〔そりゃあ当然、我等が末っ子が折角俺達以外に面白い玩具を見つけたと来たら全力で支援すんのが、応援すんのが兄貴ってもんだろうよ。それに、在籍中は元々ティアが住んでた地下室に虚を構える事で話も済んでる。時々ティアの授業も見に行くし、お前のお気に入り達の世話も全面的に任せてくれて良いからさ。〕
〔……はぁ。良い、一緒に屋敷に住め。〕
〔え、良いのか?〕
〔でかい癖に部屋だけは余ってる。それに、複数で固まった方がお前らも陛下も楽だろうよ。〕
「んふふ。サンキューな、ティア。」