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俺が銀髪美少女に幸せにされるまで  作者: 結城ナツメ
銀髪美少女は俺の胃袋から幸せにする
7/40

胃袋が捕まり始めたことに、彼は気付かない

「まさか私なんかの料理を食べて泣いていただけるなんて、思いもしませんでした…。お口にあって良かったです」


 涙が収まり、俺が落ち着いて食べれる様になってから、天津川がそう言って来た。

 兵頭は天津川の情けで、彼女から唐揚げを分けてもらって泣いているから、しばらく二人で会話を繋ぐことになりそうだ。


「……悪いな。気持ち悪い反応して。久し振りに物食って美味いって思ったから、つい感動してしまった…」

「いえ、そんなことないですよ?美味しい物を食べて、思わず涙が出ることだってありますよ。……ですが、“久し振り”というのはどういうことでしょうか?もしかして、相当生活が苦しいんですか?」

「……………いや。特に不自由はねぇよ……ただ、俺の舌が無駄に肥えているだけだ」

「あ。そうなんですね……ふふっ。そんな三澄さんに絶賛していただけるなんて、凄く嬉しいです」


 天津川の質問に対して、味覚障害のことを話そうか一瞬悩んだが、誤魔化すことにした。……なんかこの笑顔を見てると、余計申し訳なく思っちまうな…。

 だけど彼女とは知り合って間も無いんだ。それに俺は天津川と付き合うつもりはない。だったらわざわざ教える必要は無いだろう。


 こうして天津川の弁当を食べているのは、俺が前に助けた時のお礼として受け取ったからだ。

 少々思わせぶりな反応をしてしまったので気が引けるが、人としてその辺の線引きはしないとダメだろう。

 ……俺が言うのもなんだがな…。


「それにしても、なぜ三澄さんは私のことを忘れていたんですか?こんな目立つ髪をしているのに…。いえ、百歩譲ってそれは良いです。ですが同じクラスなのに存在を認識していなかったのは、さすがに酷いですよぉ…」

「……………」


 頬を膨らませて拗ねるように言う天津川。さすが美少女。そんな顔をしても可愛いとは…。

 俺は一旦、きんぴらが入った玉子焼きを口に入れて、考える素振りをする。……これもいいな、ポリポリしてて。


 彼女の疑問は最もだ。深刻とまでは行かないが、俺は記憶障害のせいで天津川のことを忘れていたし、クラスでも認識……というよりも、ただ見かけてもすぐに忘れていたんだと思う。

 だがそれを伝えるのもまた気が引ける。俺は今、天津川の弁当を食べて幸せを感じている。しかしそれも一時的な物。

 今日明日にはそれを忘れてしまうだろう。それを知った彼女は、恐らくまた悲しむだろう。


 ―――自分のやってることは、無駄だということに。


 付き合うつもりが無いのは、主にそれが理由だな。女の子をこれ以上泣かせるのは、いくらなんでも最低過ぎる。たぶん葵にもそう怒られる。


「……俺は人に興味が無いんだ。話したこともない奴の顔と容姿を覚えられないし、憶えてられない」

「……………じゃあ、これでもう忘れることはありませんね」

「はぁ?なんで……っ!」


 誤魔化した俺に対し、天津川は微笑みながら言う。その表情を見て、思わず心臓が跳ねた。


「三澄さんは迷惑に思うかもしれません。ウザいと思うかもしれません。それでも……私は三澄さんと、仲良くなりたいんです。ですから、これからもお昼を一緒に過ごすことを許してほしいんです。……ダメ、でしょうか…」



 不安そうに聞いてくる天津川。だけどその表情からは、この想いは絶対に譲れないという意思を感じた。


 ―――本当に、物好きな奴…。


 ここで彼女を拒絶するのは簡単だ。だが、拒絶したところで諦めないだろう。

 なんせクラスメイトが見ている中、大胆にも告白して来るような奴だ。本人は違うと言ってるが…。

 とにかく、そんな奴が簡単に諦めてくれるはずもない。だったら、天津川の気が済むまで付き合ってやった方が、本人も納得するだろう。その方が面倒事も少なそうだ。

 その内ちゃんとした告白をして来た時にでも断れば良い。どうせその時には、天津川との記憶なんてほとんど忘れてる。


「わかったよ。天津川の好きにすればいい―――」


 そう考え、返事をしようとすると胸にズキッと痛みが走った気がした。

 本当にそれで良いのかと言うように。


「……なんだ?今の」


「ほ、本当ですか!私、これからも三澄さんと一緒にお昼を食べてもいいんですか?」


 胸の痛みに疑問を抱いていると、天津川が俺に迫りながら言う。俺まだちゃんと返事してなかったと思うけど…?

 ていうか近い近い!あと少しで唇が触れてしまいそうなくらい近い!


「天津川、近い…」

「はっ!す、すみません!?嬉しくてつい、距離感を見誤ってしまいました!」


 顔を真っ赤に染めながら謝る彼女を見て、思わず苦笑する。心臓に悪いとはこのことだな…。

 ……なんかいい香りがしたな…。


「……まぁこんな俺でいいなら、これからよろしくな。天津川」

「あ……はい!こちらこそよろしくお願いします!明日も頑張って、三澄さんに美味しいお弁当を作ってきますね!」


 俺がよろしくと言うと、天津川は俺の手を両手を使って握りながら答えた。

 ていうか明日も作ってくるのね…。まぁ正直言うと、少なくとも彼女の料理は好きになってしまった。だから有難く受け取ろうと思う。

 ……あとで食費くらいは渡さんとな。


 ……………そういえば、女の子の手って意外と柔らかいんだな。


「……………え。何?もしかしてやっぱりお付き合いする感じですか?おめでとう二人とも!俺は全力で応援するよ!」

「テメェはやっぱり黙ってろ!」

「ぎゃあー!?理不尽っ!?」


「……ふふふっ。お二人は本当に仲がよろしいんですね」


 しばらく手を繋いだままだった俺らを茶化してきたバカに制裁を下す様子を見た天津川は、微笑みながらそう言った。

 どこが仲良しだ、どこが…。

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