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俺が銀髪美少女に幸せにされるまで  作者: 結城ナツメ
銀髪美少女は俺の胃袋から幸せにする
6/40

味は感じないけど―――

『陰キャ男子高校生と天真爛漫なアイドル』

こちらの作品の最新話を投稿する予定でしたが、最新話のデータが吹っ飛んでモチベが下がったので、こっちを投稿。


泣く…。

 天津川の大胆告白(本人は告白してないつもり)の騒ぎで喧しい教室から抜け出して、俺と天津川、ついでに兵頭と一緒に、俺が普段世話をしている花壇の所に来ていた。ここにはベンチがあるから、ここで飯を食べる奴もちょいちょいいるみたいだ。

 兵頭は最初、俺たちにいらぬ気遣いをして二人っきりにさせようとしてたが、俺がこんな銀髪美少女と二人っきりでいる所を見られたら、また面倒なことになるのは目に見えている。だから無理矢理連れて来た。


 今でも奇異な視線を向けられてるけど…。


「本当に僕も一緒で良いの?天津川ちゃん」

「はい。ご飯を食べる時は、人数が多ければ多いほど美味しくなりますから。それに……まだそんな関係でもないのに、いきなり二人っきりでお食事するのは、周りの方々からあらぬ疑いを掛けられてしまいますし…」


 兵頭の質問に、顔を赤らめながら答える。そんな様子を見た周りの男子連中は思わず見惚れ、彼女と思しき女の子から足を踏まれてる奴がいた。

 まぁ男子の反応は仕方ないだろう。綺麗な銀髪を持つ天津川は、たぶん学園内屈指の美少女だろうからな。

 ……あれ?そういえば昨日、兵頭から天津川の可愛さはどれくらい凄いのか聞かされたような…。


「どうかしましたか?」


 俺が考え事をしていると、天津川が心配そうに顔を覗いて来た。


「いや、天津川がどれくらい可愛いのかって話を兵頭から聞いたような気がしてな。ちょっと思い出そうとしてた」

「へっ?」


「おん?それって天津川ちゃんがミスコン一位取った話か?」

「ああ。それだそれ」


 モヤモヤした頭の中がスッキリして、兵頭に指差す。

 そうか、ミスコン一位かぁ……てことは、一年にして学園で一番可愛い女の子に選ばれたってことだよな?そりゃ周りの男子も見惚れるわな。


「まぁ、天津川くらい可愛ければ納得だな」

「はうぅ…。そんな、三澄さんに、可愛いだなんて…」


 俺に可愛いと言われた天津川は、顔を両手で挟むようにして抑えながら、照れた様子を見せる。

 ……………コイツ、マジで俺のことが好きなんだな…。以前助けたことを思い出したが、まさかそれが要因でここまで惚れ込むものなのか?


「二人とも~。やっぱ僕は教室に戻ろうか?そんな堂々とイチャイチャされたら砂糖を吐きたくなるよぉ」

「ダメだ。お前がいないとたぶん会話に困る」


 兵頭と飯を食ってる時はいつも兵頭が話題を振って来るから、それに適当に相槌を打つだけで良いが、今の天津川と二人っきりじゃ気まずい雰囲気が漂うだけだ。


「僕もこんな甘い空気の中、一緒に弁当食べたくないんだけど…」

「友達になってやるから助けろ」

「わー。こんな形で友達になっても嬉しくないなぁ…」


 我儘な奴だ…。テメェの願いを叶えてやったってのに。

 まぁ友達になってやるって言っただけで、一緒に遊ぶ関係にまでなるとは言ってないがな。


「はぁ~。わかったよ、付き合うよ。そんじゃ、早いとこ弁当食べちゃおうか。昼休みが終わっちゃうよ」

「はっ!そうですね!では三澄さん。改めて、こちらを食べていただけないでしょうか?三澄さんの胃袋を捕まえる為に、一生懸命作りました」

「……………ああ、そう?じゃあ有難くいただくわ」


 照れ状態から戻った天津川から、少し間を開けてから弁当を受け取る。


 俺はもう天津川の告白じゃない告白にはツッコまないぞ…。

 ……もしかして天津川って、「好きです。付き合ってください!」以外は告白に入らないと思ってるんじゃなかろうか?


 そんなことを考えながら、俺は弁当箱を包んでいる風呂敷を解いて、蓋を開けて中身を見てみる。

 弁当は二重構造になっていて、上の段には白いご飯。下の段には色とりどりのおかずが入っていた。


「うおーっ!?天津川ちゃんの弁当美味そう!」

「ありがとうございます。……その……三澄さんの為に張り切っちゃいました…」

「かぁ~。可愛すぎる!あの三澄にこんな可愛い女の子がすむぐっ!?」

「わー!わー!わー!だ、だだ、ダメですよ!その言葉は私が、そのぉ~……き、来たるべき時に言わなくてはいけないんですから!」


 顔を真っ赤に染めながら、兵頭の口を押えて俺をチラ見する天津川。

 ……………コイツ、天然とかそういうの通り越して、ただのアホの子だろ?

 たぶん兵頭が「好き」って言葉を言おうとしたから口を塞いだんだろうけど、お前もう何度も俺に告白してるんだぞ。好きって言動で示してるぞ。今更それを気にしても無駄だろ…。


 流石に自分の気持ちが相手に伝わってないなんて考えはないだろうが……マジで天津川の世界観がわからな過ぎる…。


「まぁいいか…。にしても、本当に俺が好きそうな物を作って来たんだなぁ」


 おかずのラインナップは、唐揚げとその下に千切りしたキャベツとレタス、その横にミニトマトとブロッコリーが添えられている。そして彩りを考えたのか、玉子焼きも入っていた。

 しかしこの玉子焼き、ただの玉子焼きではないようだ。俺が食感のある物が好きと言ったからか、玉子焼きの断面からごぼうと人参が入ってるのが見える。恐らくきんぴらだろう。

 これは……かなり朝早くから弁当を作っていたのではないだろうか?


「天津川、何時に起きて作ったんだ、これ?」

「えっと……確か六時ですね。あ!全然気にしないで大丈夫ですよ?いつもその時間に起きて準備をしてますので」

「そ、そうか」


 いや、だからといって、こんな素晴らしい弁当を作ってもらったと思うと、悪い気がしてしまうな…。いくら俺でも気にしてしまうわ。

 でもせっかく作ってくれたんだ。有難くいただくとしよう。


「それじゃあ……いただきます」

「はい。いただいちゃってください」


 天津川の笑顔を横目に、俺はまず唐揚げに箸を伸ばした。

 冷めてるはずなのに、摘まんだだけでサクサクしてそうというのが伝わってきた。それだけで天津川の料理スキルが高いことがわかる。味も相当良いんだろうな。

 まぁ俺に味覚なんて無いけど……そう思いながら、唐揚げを口に入れる。すると―――


 サクッ!じゅわ~…。


「ッ!?」


 そんな感触が、口の中一杯に広がるのを感じた。それだけじゃない。唐揚げの香ばしい匂いが、鼻を容赦なくくすぐって来てるのがわかる。

 じゅわ~っとした感触は、恐らく油と肉汁だ。だけど味覚が無い俺はその感触がどうも苦手だった。あのべたっとした感じが口の中に残るのが嫌なんだ。

 だけどこれは違う。記憶は朧気だけど、自分で作った物やファミレスで食った物とは明らかに違うというのがわかる。サラサラとしていて、口の中に不快感をほとんど感じない。

 寧ろ唐揚げの香ばしい匂いを口一杯に広げる為に、良い役割を担っている気がする。


 その感覚は、俺が今まで感じた事がないものだった。……いや違う、感じたことはあると思う。でも、思い出せない……心の底から来る、この満足感は一体…。


「……………なんだ、これは…」


「み、三澄さん…?」

「お、おい三澄!どうした!?」


「え?な、なんだ。そんな慌てて」

「そりゃ慌てるだろ!だってお前今―――泣いてるんだぞ!?」


 兵頭の言葉を聞いて、自分の頬に手を当てる。兵頭の言う通り、俺は泣いていた。


「一体どうしたんですか?もしかして、お口に合いませんでしたか?」

「い、いや……違うんだ…。寧ろその逆だ。めっちゃ口に合ってる。ただ、あまりの衝撃に、言葉が出ないというか…」


「はぁ?おいおい何言ってるんだよ。口に合ってるんだろ?しかも涙を流すくらいに。だったらそれって―――」


 天津川の言葉にどう返したらいいかわからず、軽く混乱している俺に兵頭が言った。

 その言葉は、今の俺とは縁遠くて、だけど本当はずっと欲しかった言葉だった。


「めちゃくちゃ美味しい(・・・・)ってことだろ?」


 ―――美味しい。その言葉を聞いて、俺の目からまた涙が流れていくのを感じた。

 味なんて感じなくて、食事という行為は自分が生きていく為だけの面倒な作業だと思っていた。


 味を感じないのは変わらない。でも、今のこの感覚に相応しい言葉は―――『美味しい』という言葉以外に見つからないと思った。


「マジかよ、あの三澄が涙を流す程なんて……なぁ、ちょっとそれ俺にも分けてくれよ」

「っ!ダメだ!」


 俺の唐揚げに箸を伸ばして来た兵頭から弁当箱を遠ざけて、それを拒否する。


「えー!一個くらい良いじゃねぇかぁ~」

「ダメな物はダメだ。これは―――」


 もう一度唐揚げを口の中に入れて、その感覚を楽しむ。


 サクッ!じゅわ~…。


 美味しい……そうか。これが美味しいって感覚か…。

 味は感じないけど、この音、この匂い、この心地良い食感……凄い心が満たされていくこの感じは、美味しい以外に何があるのだろうか?


「……これは、誰にもあげない。あげたくねぇ…」


 俺は久し振りに感じたその感覚を、一つ一つ大切に嚙み締めて食べ進めていった。

 ……そういえば食事で笑顔になったのも、久し振りな気がする…。

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泣いて寝る…。

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