親子だね~…
これを読んだ読者は「えっ?君がそれ言う?」と言う(たぶん)
三澄さんのお家で夕食を済ませて、帰宅したあと。
私は自室にこもって、枕に顔を埋めていました。
「やってしまいました…」
先ほど、三澄さんから味覚障害のことを聞かされた時に、つい聞いてしまいました。
恐らく彼が一番気にしている、デリケートな部分を。
三澄さんがリビングに入ってきた時に、私と小鳥遊さんを見た時の視線が、まるで知らない人を見ているかのように見えた……というのは被害妄想かもしれません。
ですがこの間の、私が勇気を出して声をかけた時の三澄さんの姿と被ってしまい、ずっと心に引っかかっていました。
去年の入学式の日に、私は三澄さんにナンパから助けてもらったことがあります。そんな印象的な出来事があったのに、三澄さんは私のことを憶えてくれてませんでした。
ちゃんとお礼をしなきゃと声をかけようとしても、何故か胸が苦しくなってそれが出来なかった私も悪いとは思います。……思えばあれからずっと、三澄さんのことが好きだったんですね。
ですが、なんだかしつこく言ってますし、言われてるような気がしますが!私の頭はロシア人の母から受け継いだ、銀髪ですっ!顔はともかく、そんな特徴的な容姿を忘れるだなんてあり得ません!
……あり得ません、よね?なんだか自信がなくなってきました…。
ですが兵頭さんも小鳥遊さんも、普通は忘れるはずがないとおっしゃっていました。
それに小鳥遊さんも同じような経験をされています。
それらのことが、ずっと頭の中に引っかかっているところに、リビングでの三澄さんの反応。
あの時三澄さんが話しかけたのは、兵頭さんだけでした。それが私と小鳥遊さんを避けていたようにも見えて……
「とはいえ、それが気になったからって簡単に踏み込んでいい理由にはなりませんよね…。もしかしたら嫌われたかもしれません…」
はぁ~…。駄目ですね私…。
好きな人に振り向いてもらおうと行動した結果、全てが裏目に出ている気がします…。
しかも今回は偶然会った葵さんの許可があったとはいえ、半ば押しかけるような形でお家にお邪魔した挙句、恐らくとても失礼なことを聞いてしまいました。
恋は盲目とは言いますが、流石にこれは反省です。大反省です。猛省です…。
振り返ってみると、如何に自分が愚かなことをしたのかわかります。なぜ私は三澄さん絡みになると、こんなにもポンコツになってしまうのでしょうか…。
そうやって自己嫌悪に陥っていると、不意に後ろから何かを啜る音が聞こえてきました。
「ズズーッ。もぐもぐもぐもぐ」
「お、お父さん!?入るならノックくらいしてください!」
振り返ると、パスタを食べているお父さんがそこにいました。軽くホラーです…。
「ごくんっ。したぞ、ノック。だけど全然返事が返ってこないし、ドア開けても気付かないし……一体どうしたんだ?例の三澄君とやらに振られたか?」
「ふ、振られてなんかいません!ですが……嫌われたかもしれません…」
「ふ~ん。それって振られたも同然じゃね?知らんけど」
「ふぐぅ…」
「苦虫を嚙み潰したかのような表情」
うぅ~。やはり私は、とんでもない大失敗をしたんです…。
ここからでも入れる保険なんてあるんでしょうか(遠い目)
「まぁ何をしたのか知らないけど、少なくともそうやって落ち込んだままなのはいけないと思うぞ。ジーナのように面倒くさいことになるだけだ」
「お母さんですか?お母さんも落ち込んだりするのですか。あんな落ち込んだり、悩みとは無縁そうな、自由が服を着たような人が」
「やだこの子今さら反抗期かしら?自分の母親に向かって酷い物言いだ。友奈の気持ちはわかるけど、アイツだって人間だ。悩みの一つくらいあったさ。逆に言うと、その一つしかないんだけど…。俺が知る限り」
お母さんは本当に自由人です。どれくらい自由かというと、アニメに影響を受けて夜中にいきなりラーメンを食べに行くような人です。しかも三件ほど梯子してきたらしいです。これには心の広いお父さんも引いてました。
確かタイトルは『ラーメン大好き…』……忘れました…。
そんな思い立ったら即行動するような人に、悩みがあったなんて。
「どんな悩みだったんですか?」
「聞いたら呆れるぞ。それはな……どうやって俺を落とすか、だ」
「へ?」
どうやってお父さんを落とすか…?つまり恋の悩み?
あのお母さんが、お父さんをどうやって捕まえたらいいか悩んだって……え?
「てっきりお母さんは、お父さんのことに猛アタックをしたのかと思いました」
「全然。むしろお前と同じだったよ。前に言ったろ?『親子だね~』って。あれはジーナと同じ理由で惚れたって意味だけじゃなくて、初々しい友奈の様子も含めて、『昔のジーナみたいだな~』って意味でもある」
「そ、そうなんですか…。あのお母さんが、初々しい……そんな可愛いお母さんは想像出来ません…」
「まぁ、基本俺の前でしかそんな様子は見せないからな。ちなみに今も、俺と二人っきりの時は初恋の女子みたいな感じだぞ」
ダメです。全然想像出来ません。
お母さんはなんていうか、言葉では説明しづらいのですが、『周りの目なんてどうでもいい。私は私だ。好きにやる!』って感じの人です。
やはりお父さんをどうやって捕まえるか悩んでいたなんて、とても信じられません。何がなんでも自分の物にしてやるって奔放するイメージしか湧きません。
「あれ?でもどうしてお父さんが、それを知っているんですか?まるでお母さんから直接聞いたみたいな……」
「ああ。だってアイツの恋愛相談を受けたの、俺だし」
「?????」
「うん。まぁそうなるよな。俺もそうなった」
すみません整理させてください。
えっと……お母さんはお父さんのことが好きだった。そしてお父さんをどうやって捕まえようか悩んでいた。ここまではいいです。いくらお母さんでも、やはり一人の女の子だったということになるんですから。想像出来ませんけど。
ですがそれを、お父さん本人に相談?どういうことでしょうか…?
「すみません、全く理解が出来ません…。もしかしてお母さんは、相談相手を間違えたとかでしょうか?私たちが外国の方々のお顔が同じに見えるのと同じように、あちらも日本人のお顔が同じに見えるといったような…」
「いや、全然。むしろちゃんと俺だとわかった上で、俺に相談してきたんだ。『貴方を落とす為にはどうしたらいいですか!?』ってな。しかもそれ、ジーナの中じゃ告白としてカウントしてなかったらしいし」
えー…。なんですかそれ?思いっ切り告白してるじゃないですか。
貴方を私の彼氏にしたいです!って…。そんなこと言うのであれば、いっそ『好きです!』って言ってしまえばいいのに…。
「まぁ告白の文化は、日本独自のものだからな。ジーナも勝手がわからなかったんだろ」
「だからって、そんな返って回りくどそうなことをするのは、理解出来ませんが…。それで、お父さんはなんて返したんですか?」
「ああ。俺がジーナと結婚した理由は話しただろ?飯が美味ければ落ちるって答えたよ」
そうでした…。お父さんはお母さんのご飯が美味しいから結婚したって言ってました…。
「ちなみにフォローにならねぇけど、ジーナはいきなりそんなことを聞いてきた訳じゃないからな?しばらく一緒に遊んでる内に、告白をしなきゃ日本人にはちゃんと気持ちが伝わらないってことを知って、それから聞いてきたんだ。好きって言わなければ告白の内に入らないってなるのはおかしいとは思うが」
「な、なるほど…」
「それで話を戻すとだ……どうすれば自分の気持ちが俺に伝わるんだろうって悩んだジーナは、今のお前みたいに枕に顔を埋めてうんうん唸っていたそうだ。結果マイナス方面にばかり頭が行っちゃって、だったらもう本人に好みを聞いてしまえ!って意味わからん考えに陥るんだ。そんな奴ジーナぐらいだろうけど」
「う、唸ってなんかいません!」
「そうかい。でも少なくとも、すげぇマイナスなことは考えてただろ?嫌われたー、どうしよーって」
うっ…。確かにお父さんの言う通りです…。
三澄さんのデリケートゾーンに土足で上がり込んで、傷付けてしまったかもしれないんですから…。
「ズズーッ!もぐもぐもぐもぐ……ごくんっ。俺はジーナ以外を好きになったことないし、あっちから告白された身だから、そういう悩みはよくわからないけど……少なくともそうやってうじうじ悩んだままじゃ、何も解決しないだろ?」
「……はい。そうですね…。明日もう一度、三澄さんと話してみます」
「それがいい。あまりデリケートなことだったら、そのことについては触れずに、今まで通りに接するんだぞ」
「はい。それはもちろん。もう二度と、同じ轍は踏みません!」
「武士かっ。……それじゃ、悩み過ぎてあんま遅くまで起きてるなよ」
「わかってます。おやすみなさい、お父さん」
いきなり後ろでパスタを啜っていたのは驚きましたが、やっぱりお父さんは凄いです。
ちょっと変な人ですが、私の異変に気付いて、悩みを聞いてくれて、自分の意見を遠慮なく言ってくださるので、とても参考になります。
……あれ?ちょっと待ってください。さっきお父さんは、確かに……
私はお父さんの発言が気になり、部屋を出ようとするお父さんを呼び止めました。
「ちょっと待ってくださいっ。お父さんさっき、『お母さん以外を好きになったことがない』って…」
お父さんは今まで、『料理が美味しいから結婚した』としか言っていません。理由はそれだけで、その他は割とどうでもいいとも言っています。
だから『お母さん自身を好きになった』みたいなことは言ってませんし、普段からお母さんに対して少々冷たい態度を取っています。
そんなお父さんの口から、お母さんのことが好きって…。
「はぁ~。なんだ真に受けてたのか……………当たり前だろ?飯が美味いってだけで結婚するかよ。あんな変人と」
「変人」
「でも……そういう変なところもひっくるめて、全部好きになったから結婚したんだ。恋愛ってのは、得てしてそういうもんみたいだからな」
そう言うお父さんの耳は、凄く真っ赤でした。
お父さんは、お母さんは今でも初恋の女子のように初々しいとおっしゃってましたが、それはお父さんにも同じことが言えそうです。
「お父さん……可愛いですっ」
「うっせ」
それからしばらくお父さんと問答してる間に、私のスマホのメッセージアプリに着信がありました。
お気付きでしょうが、友奈がジーナに思ってることはほとんどブーメランです。それも特大の。
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次は『陰キャ男子高校生と天真爛漫なアイドル』を投稿します。
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