(お料理作ったら凄い泣かれて、凄い感謝されるのですが、なぜでしょうか!?)
短め。
俺は小学校の頃に、いじめられていた。そのことが原因で精神が壊れてしまい、記憶障害になった。
だがそれと同時に、味覚障害にまでなってしまった。
記憶障害なら、いじめられていた時のことを忘れる為の一種の自己防衛のようなものだと推測出来る。
でも味覚障害については理解出来ない。精神科の先生が原因を教えてくれたかもしれないけど、もちろん記憶障害持ちの俺が憶えていられるはずもない。
……異物混入でもされたか?
まぁとにかく、俺は味覚障害まで負っていたんだ。何を食べても味がわからず、人間の三大欲求である食欲を満足させることが出来ない。
腹は膨れても味が感じられなければ、ただ生きる為に必要な面倒な作業みたいな感じだった。仕事をするよりもストレスになりそうだ。
だから少しでも飯が楽しめるように、食感があるものを食べて来ていた。それなら多少は食欲も満たされていた気がしたから。
だが俺は今、食感だけでは決して満たされない感覚を味わっている。
(唐揚げって、こんな味だったんだ…。全然憶えてねぇけど、どこか懐かしさを感じる。衣はザクザクで、俺の好きな食感だ。それが唐揚げの味をさらに引き立てているのがわかる)
ちょっと口の中に刺さって痛いけど、ザクザク食感の唐揚げのいい所でもある。
ああ……ダメだ。涙が止まんねぇや…。いくら久し振りに食うからって、ここまで大袈裟な反応をしては不自然だろう。
「葵…」
「え?なに、お兄ちゃん」
「これ……美味いな」
「っ!」
ある程度涙が落ち着いてから、俺が美味いと言うと、葵は目を見開いた。
俺の口から、美味いという言葉が出た。一見普通のことのように見えるが、俺にとってはそれが普通ではないことを、葵はここにいる誰よりも知っている。
自分が食べている物を、何度も俺と共有してきた葵だからこそ、俺から美味いという言葉が出たことは衝撃的のはずだ。
「お兄ちゃん。それって、食感?それとも……」
だが直接俺の口から聞かないと安心出来ないのか、そう聞いてくる。
だから俺は、正直に答えた。
「味だ。唐揚げの味に、美味いって思ったんだよ」
「……………」
俺からそれを聞いた葵は、ぽろぽろと涙を流し始めた。
だが事情を知らない兵頭たちは、さらに困惑してしまう。いや、兵頭だけは葵と同じように、驚いた反応をしている。
どこで知ったのか、コイツは俺が記憶障害であることを知っていた。だったら味覚障害のことを知っていてもおかしくない。
「お二人とも、どうしたのですか?さっきから様子がおかしいですよ…。なぜそんなにも、泣いたりしてらっしゃるのですか。もしかして生活が厳し過ぎて、普段は美味しいご飯を食べられてないとか?」
「いやいや天津川さん、二人は江月監督の子どもだよ?生活が苦しいとか、そんなのとは絶対無縁の家庭でしょ…」
最初は久し振りの天津川の料理に感動してるだけだと勘違いしていた小鳥遊も、流石におかしいと感じ始めている。
やばいな…。江月おばさんが母親であることを知っているとなると、最近は生活が苦しいなんて言い訳も通じない。無理にはぐらかせない状況になってしまっていた。
「ひっぐ……ひっぐ……お兄ちゃん、よがっだぁ。よがっだよ~…」
なんとか涙を止めようとしていた葵だが、遂に堪え切れず、滝のようにだばーっと涙を流し始めた。
「ちょちょちょ!?葵ちゃん本当にどうしたの!?私たちには何が何だかサッパリなんだけどー!」
「ティッシュ、ティッシュはどこにありますか?あ、床まで濡れてしまっています…」
「じゃあティッシュだけじゃ足りないかもね!」
「はぁ……僕もうこれ、隠し切れない気がしてきたんだけど…。どうするよ三澄?ちゃんと説明しないと、二人とも納得してくれないと思うぞ?」
もうこれ以上はどうしようも出来ないと諦めてる兵頭。
確かにこんな異常な光景を見ては、貧困以外の理由で説明することなんてほぼ不可能かもしれない。誤魔化せるような話題も浮かばないし。
「ありがとうございますっ!ありがとうございますっ!天津川さ~ん!」
「どうして急にお礼を言われてるのでしょうか!?」
「マジでどうしてなんで!?」
うわぁ。女子三人が凄いパニックになってらぁ…。
どうすれば収拾つくんだ、これ…。
「……………味覚障害のことだけでも、ちゃんと説明する。それくらいなら、あまり傷付けることはないだろうしな」
「まぁ、それが無難か…」
しばらく考えた末、俺は二人に味覚障害のことを話すことにした。
真面目な話は次回に持ち越し。
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明日『陰キャ男子高校生と天真爛漫なアイドル』の投稿して、明後日『俺が銀髪美少女に幸せにされるまで』を投稿します。




