泣いてる女の子
ラブコメ8とシリアス2のはずなのに、これだとあらすじ詐欺だと友人に言われました。
後書きに理由を書いてます。
一年の時の夏休みの終わりが近付いていた日の、とあるファミレスにて。
なんとなく一人で昼飯を食いに来たら、嫌な奴と出くわした。
ソイツの名前は三澄乙葉。僕はコイツが苦手だった。
入学式の日に、銀髪美少女の天津川ちゃんと一緒に遅れて登校してきた不良みたいな奴。
なんでも、天津川ちゃんを悪質なナンパから助けたらしいんだけど……性格がな~…。
話し掛けるだけで睨み付けてくるわ、暴言を吐いてくるわで、本当にやべぇ奴だ。
店員に案内された席がよりにもよって、ソイツの隣の席だぞ?目を合わせないようにしよ…。幸い向こうはこっちに気付いてないみたいだし。
……にしても、三澄と一緒に飯を食ってる女の子は誰だ?まだ小学生くらいに見えるけど。
「はい!お兄ちゃん。あ~ん」
「いらねぇよ。ハンバーグなんて食感が無い物」
「あるよ!お兄ちゃんのとんかつ程じゃないけど、ちゃんと食感があって美味しいよ!」
「美味しい?バカ言え。例えハンバーグの食感が良かったとしても、美味しいなんて思わねぇよ」
うわぁ。あれ妹ちゃんか~。あんなのが兄貴とか、僕だったら友達の家に逃げてるね。
……だけどあの妹ちゃん、すげぇ三澄に懐いてそうだよなぁ。家族には優しいタイプなんだろうか。
てか三澄の奴、さり気なくファミレスの料理ディスってるし。せめて家に帰ってから言えよ。僕が頼んだクリームパスタが不味くなる。
やっぱアイツは苦手だな~と考えていたけど、僕は次の三澄の妹ちゃんの言葉に驚愕することになる。
「お兄ちゃん。味を感じないからって、そういうことを言っちゃダメだよ。お店の人はお兄ちゃんが味覚障害だなんて知らないんだから。聞こえちゃったら失礼だよっ」
その後僕は、ずっと三澄兄弟の話に耳を傾けていた。
その話の中には、三澄が記憶障害であるという話もあった。
「私とのあーんを記憶に刻もうよ!」
「どうせ明日には忘れてる。意味がねぇよそんなの」
「こういう地道な努力が、お兄ちゃんの記憶障害を治す近道なんだよ!知らないけど」
「知らねぇなら、んなこと言うな」
偶然居合わせた僕には、凄く重たい話だった。
――――――――――――――――――――――――
「到着ー!さて、三澄家には何を作って差し上げるご予定で?」
「それはずっと考えていたのですが……やはり三澄さんが食感の良い物が好きですから、それに合わせてしまうことになるのですが…」
三人でスーパーに寄って『三澄の胃袋逮捕作戦』で出す料理について、野菜コーナーを回りながら会話する。
天津川ちゃんはずっとうんうんと可愛く唸りながら考え込んでいたのは、やっぱりそういうことか。
「三澄の家族のことを考えてる感じ?」
「はい。それと、やはり食感の良い食べ物といえば、揚げ物などが真っ先に候補に上がって来るのですが……いつもそればかりなので、他に何か無いかと悩んでいたのです」
三澄はちょっとした偏食だ。食感がいいもの……つまりASMRとか、そういう耳を刺激したり癒したりする音が出る物が好きだ。傍から見たら、すげぇ変わってる奴だと思う。
それは仕方ないんだけどね。だって三澄には……味覚が無いんだから…。
「気にしなくていいんじゃない?胃袋を捕まえることが出来れば、本人が何か希望を言ってくるだろうし、全然知らない人のことを考えても意味無いと思うよ。三澄基準でいいんじゃない。ねぇ、小鳥遊ちゃん?」
「そこで私に振るの?……私には色恋についてはよくわからないけど、三澄君が天津川さんのことを好きになればそういうこともあるんじゃないかな。三澄君のご家族のことも、今はそんなに深く考える必要は無いと思うよ」
「だってさ」
「なるほど…。でしたらお2人の言う通り、三澄さんの好きな物を作ることにします!」
そう言って天津川ちゃんは、次と次と食材を買い物かごに入れていく。
キャベツやゴボウ、ミニトマトなどの野菜類。肉類は鶏肉を入れていき、オリーブオイルと唐揚げの素……これって…。
「唐揚げ……天津川ちゃん、もしかしてこれって最初に三澄に作ってあげた…」
「はい!三澄さんが一番喜んでくれたのは、唐揚げですから」
「確かにっ。三澄の奴、天津川ちゃんの唐揚げ食って泣いてたもんね」
「え!?泣くほど!?」
「うん。凄い泣き顔だったよ。でもアイツの気持ちもわかるな~。俺も天津川ちゃんに唐揚げ食わしてもらったけど、マジで涙出たもん」
「うっそ…。美味しい物食べて涙流すなんて、漫画だけだと思ってた」
小鳥遊ちゃんの反応も当然だろう。実際に天津川ちゃんの唐揚げを分けてもらわなかったら、三澄が大袈裟なだけだと他人は思う。
僕もほぼ同意見だった。というのも、それは三澄が味覚障害だというのを僕が知っているから。
味覚が無いのになんで美味しいなんて思えるのか疑問だったんで、分けてもらった唐揚げの二口目は、試しに鼻をつまんで食べてみた。
鼻をつまむと人は味を感じなくなるって言うけど、実際はそんなことはない気がする。でも薄味程度にまで無くなった気はしたよ。
結果。よくわからなかった。たぶん耳で楽しむことしか出来ない、三澄にしかわからない感覚なんだ。
「あ!いけません。醬油を入れ忘れてしまいました…」
「じゃあ僕が取って来るよ。何がいい?」
「キッコウーマンでお願いします」
「りょうか~い。二人は先にレジ行ってて」
「はい。ありがとうございます」
「それじゃあ頼んだわねー。……てか思ったんだけど、私来る必要あった?」
「何をおっしゃるのですか?小鳥遊さんも三澄さんの大切なご友人で―――」
美少女の二人が華やかなオーラを纏わせながらレジに向かう。
……あれ?僕があそこに合流したら、百合の間に挟まるクズ男になるのでは?
バカなことを考えながら調味料のコーナーに向かう。
だがその途中で、少女がすすり泣く声が聞こえて来た。
そっちの方を見てみると、小学生らしき女の子がレトルトのお粥を買い物かごに入れているのが目に入った。しかも涙を流しながら。
……えっ。なに。迷子?いや流石に迷子になるほど広くないぞ、このスーパーは…。
家族揃って壊滅的な方向音痴でもない限り、そんなことないだろう。ていうか迷子なら、かごに物を入れてるとは思えないし。
てことは……はっ!もしかしてこれは、初めてのおつかい!?あの子は見たところ小学校高学年っぽいけど、実際は成長が早過ぎる幼稚園児!
人の平均身長は年々上がっていると聞く。だったら幼稚園児で既に巨女属性が備わっている子がいてもおかしく……………いや無いわ…。
なぁに最近アニメ化した奴の主人公みたいな妄想してんだか……はかれない女の子と出会ってからするべき妄想だ(?)
とりあえずこのまま放っておくのもなんか悪い気がするし、話かけることにした。
「お嬢ちゃん。どうしたの、そんなに泣いて」
「えっ?」
「凄い泣いてるから、何かあったのかと思ったんだけど……違った?」
女の子は警戒しているのか僕の顔をじーっと見つめてくる。しゃがんで話しかけたから、変に怖がらせてはいないと思いたい。
しばらくすると、女の子はぼそりと呟くように言う。
「お兄ちゃんと、同じ学年の人…?」
「お兄ちゃん?」
「ネクタイ。お兄ちゃん……乙葉お兄ちゃんの制服のと同じ色っ」
「えっ。乙葉?乙葉って、三澄乙葉?」
そういえばこの子、どこかで見たことが……
「あの!お兄さんは、お兄ちゃんのお友達だったりしますかっ!」
「えっ?お、おう!君の言ってる乙葉お兄ちゃんが、僕の知ってる三澄乙葉のことならそうだぞ!僕はアイツのファーストフレンドだからね!」
「ファーストフレンド……ということは、兵頭さんですか!?」
「えぇ!?なんで僕の名前知って……」
「お願いします!お兄ちゃんを助けてください!お兄ちゃんが死んじゃうっ!」
この子は一体誰だったか、なんで僕のことを知ってるのか……そんな疑問が僕の中にあったが、女の子の言葉から背筋が凍るような感覚が襲いかかってきて、そんなことはどうでもよくなった。
お気付きの方もいるかもしれませんが、シリアス2の部分を一気に詰め込んでるので、ご了承ください。
この章が終われば、8のラブコメを始めます。
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次は『陰キャ男子高校生と天真爛漫なアイドル』を投稿する予定です。
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