兵頭翔は許す努力をする
今回の話は賛否両論あると思いますが、どうか最後まで読んでいただければと思います。
少しだけ時が遡って、学園にて。
朝早くから登校した数人の男女が手分けして、謹慎中の乙葉に代わって学園の庭にある花壇の手入れを行っていた。
花壇の数は八つあり、全て乙葉が手入れしてきたものだ。
八つあるとは言っても一つ一つは小さめで、片側から全体に手が届く程度のものだ。だからそこまで時間がかかるものではない。
「くぅ~!膝と腰が痛ぇ!三澄はこんなことを毎日続けてたんだな…。雑草取りの作業めっちゃキツイ…」
「わかるー。ずっと中腰だもんね~。天津川さんもそう思うでしょ?」
「え?私は特に苦ではないのですが…。そこまでキツイですか?」
「「噓でしょ?」」
翔と芽衣が膝と腰を痛めてる中、友奈だけ余裕で花壇の雑草を取り除いていた。
彼女は既に、家の家事全般を担っている身。特に掃除などは長時間中腰のままやることも多い為、この中では意外と鍛えられてる方だった。
なお母ジーナは元々足腰が強くない為、小さい頃から母に代わって掃除してきたというのも大きな要因となっていた。
「天津川ちゃんって、本当になんでも出来るよね…。料理に家事、そして花壇の手入れ。成績も優秀だし、逆に出来ないことが知りたいよ」
「そんな、なんでもは言い過ぎですよ。私だって苦手なものはあります。運動なんかは特に」
そんな雑談を交わしながら花壇の雑草を取り除き、花に水やりをしていく三人。
だがその三人と一緒になって、花壇の手入れをしている人がもう一人いた。
「よし。こっちは終了!そっちはどう?七森ちゃん」
翔に声をかけられ、びくりと肩を震わせる少女。
恐る恐る翔を見やる彼女は、一週間ほど前に友奈を陥れようとした七森遥だった。
「ええ…。もう少しで終わるわ」
「そう。じゃあ手伝うよ」
「い、いいわよっ。別に……本当にもう少しで終わるから」
「でもまだ雑草取りだけでしょ?水やりは僕がやるよ」
「……わかった。ありがとう…」
「どういたしましてぇ!」
他三人よりも早く自分の分を終えた翔の申し出に、やや申し訳なさを感じながら受け入れる遥。
なぜ彼女がここにいるのかというと、始まりは乙葉の謹慎生活の一日目の日だった。
謹慎処分を受けた乙葉に代わって花壇の手入れをする為に、友奈、翔、芽衣の三人が庭へ向かうと、一人で花壇の手入れをしている者がいた。
それが七森遥である。
その時の遥は涙を流し、何かに取り憑かれたかのように「ごめんなさい……ごめんなさい…」と、何度も呟きながら花壇の手入れを行っていた。
それを遠目から確認した三人は相談し合った。
芽衣は最初、乙葉と友奈に危険な目に合わせた人物ということで追い返そうと提案したが、それに待ったをかけたのが友奈……ではなく、翔だった。
「確かに七森ちゃんがしたことは、到底許されることじゃない。僕も彼女を追い返したい気持ちでいっぱいさ。でもさ……あんなに一生懸命に罪を償おうとしてる人を無暗やたらに追い返すのも、また違うでしょ?」
「だからってッ!」
「七森ちゃんは罪を償うべきだって、芽衣ちゃんも思ってるんでしょ?だったらそれを奪うようなことをするのはやめようよ。彼女はそれを実行してるだけなんだから。だったら僕はその意思を尊重するし、むしろ尊敬するよ。世の中には、それをしない大馬鹿野郎の方が多いんだしさ。それに、三澄だったらこの場合、どう言うんだろうねぇ」
翔の言葉に、芽衣は何も言えなくなる。乙葉だったらどうするか。まだ付き合いが短い芽衣には、遥の意思に彼がどのように答えるかわからなかったから。
しかしそこで、友奈の口が開く。彼女も乙葉のことをよく知ってる訳ではない。しかし……
「私は……三澄さんなら、受け入れると思います。三澄さんは相手の気持ちを蔑ろにするような方ではないですし、七森さんが罪を償いたいとおっしゃるのなら、きっとそれを受け入れると思います。えっと……私が言っていいことでは、ないと思いますが…」
「いいよいいよ。僕も天津川ちゃんと同じだし」
友奈の言葉に、笑顔で同意見だと頷く翔。
少なくとも友奈は、乙葉が他人の気持ちをただ突き返すようなことはしないことだけはわかっていた。
自分でそれを経験しているから。
それから芽衣も渋々オーケーして、遥を仲間に入れて一緒に花壇の世話をしている。
遥は最初、三人に……特に友奈には罪悪感と戸惑いを覚えたが、自分に何かを言う資格は無いと、大人しく一緒に作業している。
最初は気まずさと息苦しさから、心が追い込まれそうになっていたが……
「七森ちゃんは普段、家で何してんの?」
「え?えっと……今は特に何も…。前は習い事をしてたけど」
「えっ?じゃあ趣味は?」
「無い。ずっと習い事をしてたから…」
「うっそ!?マジで?そんな家が本当に実在するとは…。これは別に七森ちゃんを責める訳でも、擁護する訳でもないけど、そりゃあんな間違いを犯すよね。ストレスが大爆発して、やってはいけないことをしちゃうんだから」
「……………」
「ちょっと兵頭君!?天津川さんがいる前でなんてこと!」
「というわけで!後で僕オススメのゲームを紹介するよ!放課後時間ある?それとも門限厳しい?」
「い、いえ……特に何もない…。お父様もお母様も、私をいないものとして扱ってるから…」
「じゃあ僕んちにおいでよ!僕の部屋はゲーセンだからね。女の子でも楽しめるゲームがいっぱいだよ!あ。母ちゃんいるから安心していいよ」
「え、えっと……」
その後、流石にこれはと思った友奈と芽衣が仲裁に入って、妥協案として後日にオススメのゲームを持って来ることになった。
このように、翔が遥のメンタルケアを務めていた。なお本人はただ仲良くなりたいだけで、無意識である。
翔も遥のことを許せない気持ちは強い。だが彼は、必死に罪を償おうとしている遥を認め、向き合い、そして許そうと努力している。友達を危険な目に遭わせた彼女を。
だから遥のことを知ろうとし、仲良くなろうとしている。
「……………ねぇ。聞きたいことがあるのだけど、いいかしら?」
「ん?なんだい七森ちゃん」
「その……貴方が貸してくれたゲームのことで…」
「お!攻略が詰まった感じ?」
そんな翔の気持ちを無下にしないように、遥も翔を受け入れて、仲良くなろうと努力している。それで罪が償える訳では当然ないが、自分を受け入れてくれた彼を突き放すことなんて、もっと駄目なことだと理解しているから。
「えっと、そういう訳じゃないんだけど……兵頭君オススメの女の子を、聞いておきたいなって…」
遥のその言葉を聞いた残りの女子二人は、友奈は頭に「?」を大量に浮かべて、芽衣は「はっ?」と低い声が出た。
「んー。僕のお気に入りは忍者の子かなぁ。あの子は本当に素晴らしい性格してらっしゃるから」
「なるほど…」
「次点で胸がめちゃくちゃ大きい子なんだけど、あの子はゲームのタイトルとか伏線がよくわかるように作られてるから、出来れば最後がいいんだよね~」
「そ、そうなのね…。わかったわ」
「あのー。お話し中、申し訳ございません。一体兵頭さんは、七森さんに何をお貸ししたのですか?」
友奈はゲームの話で花を咲かせている二人の間に入って、遥に貸したゲームのことを聞く。
彼女もゲームには詳しくないが、父が休みの日は一日中ゲームに明け暮れるほどのゲーマーな為、あまり女の子がやるようなゲームではないことは理解出来ていた。
もし自分が想像してるものなら、父もたまにやってるアレだろうと。
そしてそれは、決して勘違いではなかった。しかも翔は、別に言わなくてもいいことまで言った。
「ん?十八禁恋愛シミュレーションゲーム」
「ちょ!?兵頭君!?」
「「……………」」
直後、無言な芽衣の拳が翔に炸裂した。
「あびゃーーーッ!?」
「最っっっっっっっ低ッ!!!なんてものを女子に貸してるのよ!?」
「ち、ちちち違う!?誤解だ!」
「何が違うのよ!?」
「僕はただ……」
「ただ?」
翔は一呼吸置き、般若の形相で見下ろしてくる芽衣と、遥の傍に寄り添った友奈に向かって、やたら真剣な表情で言い放つ。
「僕はただッ!女子とそういうゲームの感想を言い合ったら、恋が芽生えるのか確かめたかっただけなんだッ!」
「死に晒せボケーッ!!!」
「うぎゃーーーーーッ!?!?!?」
その後、兵頭翔は大量のたんこぶ(マジもん)を抱え込みながら、一日を過ごした。
このことを切っ掛けに女子三人が少しだけ、本当に少しだけ仲良くなったのだが、それは翔が身を挺して行った作戦であったのは、本人だけの秘密であった。
「やっぱ女子は、共感するものが出来た途端に結託して仲良くなるんだなぁ」
「なんか言った?変態」
「何か言いましたか?変態さん」
「なんでもないでーす」
なお遥は、その後も借りたゲームを律義に続けたという。
なんのゲームかわかった人は凄いと思います。
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次は『陰キャ男子高校生と天真爛漫なアイドル』を投稿する予定です。
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