天津川友奈はどうしても知りたい
ちょっとシリアス
「それじゃあ今日も寄り道せずに帰るように。委員長、挨拶」
「起立。礼」
帰りのホームルームが終わった。俺は帰宅部だから、あとはまっすぐ家に帰るだけだ。
妹の飯を作るかファミレスに連れて行ってやるかしないといけないしな。さっさと帰ろう。
「三澄ー!どうせこの後暇なんだろう?一緒に遊びに行こうぜ!」
教室を出たところで、兵頭に話しかけられる。
本当に懲りずに誘って来やがるな…。コイツ実はホモなんじゃねぇのか?
「妹の世話がある。そのことだって何度も言ったはずだぞ?それが無くてもお前と行く気はないがな」
つうか寄り道するなって言われただろうが。
「そんな~…。ねぇねぇ休みの日でもいいからよぉ、一緒に遊びに行こうぜ~!明後日は休みなんだしさぁ」
「……本屋だけなら付き合ってやる。買いたい本があるからな」
「ぶーぶー!だったらそのままカラオケとかにも行こうぜぇ…」
このバカが……いい加減嫌気が刺して来たから譲歩してやったのに、まだしつこく食い下がってくるか。
つうか一緒に遊んだところで、どうせ記憶に残らねぇよ。
もういい加減帰りたいので、駄々を捏ねるバカを放って帰ろうとするが、そこにまた声をかける奴が現れる。
「すみません。お急ぎのところ大変申し訳ないのですが、私にもお時間をいただいてもよろしいでしょうか?少しだけで良いので」
「あぁ?」
見ると、白とも銀とも取れる髪色をした女の子が不安そうな顔でこちらを見つめていた。
……………ああ、確か昼休みの時の奴だ。勝手に何かを納得して勝手に去って行った変女だ。銀髪じゃなかったら思い出せなかったな。
確か名前は……
「天海川だっけ?」
「あまみじゃないよ!?天津!あ・ま・つ・が・わちゃん!人の名前を間違えるとか最低だよ三澄!」
しつこく付き纏ってくるホモ野郎に言われたくねぇな。
「で?何の用だ」
「えっと……いきなり変な質問をするようで申し訳ないのですが、三澄さんの好きな食べ物は何か聞きたくて」
「好きな食い物?」
「はい」
「え……三澄にそんなこと聞くなんて、天津川ちゃん一体全体どうしへぶっ!?」
「お前はちょっと黙ってろ。ややこしくなりそうだから」
早口でうるさくなりそうだったので兵頭の口を塞ぐ。
しかし本当に変な質問だな?俺の好みを聞いてどうしようってんだ?
「なんでそんなこと聞く?」
「え?え~と……そう!そうです!私、人生で友達千人作ることを目指してるんです!」
「千人?」
友達百人を通り越して、千人…?果てしなく遠いおかしな目標を立ててるな…。ギネスでも目指してるのか?
「はい!ですので、まずはクラスメイトの皆さんとは結構お話しするようにしているんです。なので、三澄さんともお友達になりたいな~と……ダメ、でしょうか…」
顔を俯けて、なんだか悲しそうな表情を浮かべる天津川。友達千人とか噓っぽいけど、こんな不思議ちゃんみたいな奴なら割とありえそうだよな。
それにクラスで孤立している俺に二度も話しかけてくる辺り、そこそこ筋が通ってる理由なのか?
……まぁ関係ないか。俺は友達とかお断りだし。
「あっそ。だけど俺は友達なんて欲しくないから、そんな小学生みたいな計画に付き合う気はねぇな。そこのバカにでも当たれ」
「あ。ま、待ってください!どうか、好きな食べ物と嫌いな食べ物だけでも、教えてくださいませんか?」
俺が歩き出すと、その後ろを天津川は付いてくる。しかも嫌いな食べ物のことまで質問を追加してきた。
勘弁してくれ…。周りの奴らの視線が痛すぎる。完全に俺を悪者のような目で見て来やがるしよ。
「友達になる気もない相手に教えることじゃねぇだろ?そんなん知ってどうする気だ」
「ど、どうもしません…。ただ、私が知りたいだけなんです。えっと、その……何と言ったら良いか…。自分でもよくわからないんですが、どうしても知っておきたいんです!」
「いや自分のことなんだから、流石にわかるだろ?いい加減にしないと、痛い目見るぞ」
「……………」
俺が低い声でそう言うと、ビビって諦めたのか、後ろから付いてくる足音が聞こえなくなった。
それならそうと、俺はそのまま歩き続けようとする。
「お願いします」
だけどそんな真剣な声が聞こえて、俺は足を止める。
もう一度天津川を見ると、肩を震わせて、今にも泣き出しそうな表情で懇願していた。
「私は三澄さんと、どうしても仲良くなりたいんです。正直、自分でも初めての感情なので、どうしたら良いのか全くわからないんです。ですから……三澄さんには本当にご迷惑をおかけして申し訳ないのですが、どうか教えていただけないでしょうか…?」
真摯に、心の底から仲良くなりたいとお願いしてくる天津川。兵頭のひょうきんな物言いとは違い、その真剣さが色濃く伝わってくる。
あのバカも毎日飽きずに友達になりたいとか言ってくるから、割と本気なんだとは思うが。
あまりにも真剣な天津川に少々たじろいでいると、そこに彼女の後から付いて来ていた兵頭が追い打ちをかけてくる。
「三澄。女の子がこんなに真剣に頼んでるんだからさ。好きな食べ物くらいは教えてあげたら?」
兵頭も普段のふざけたような態度の鳴りを潜めて、苦笑しながら、されど優しい表情でそう言う。
外野も兵頭に同意見なのか、俺に突き刺さるような目を向けてくる。
……なんだよ。結局俺が悪者かよ、イライラするな…。俺は何も悪くねぇだろうが。
ガシガシと頭をかきながらため息を吐いて、俺は嫌々天津川の質問に答えた。
「……食感が楽しいもの」
「え?」
「サクサクとかパリパリとか、音が楽しい食い物が好きだ。俗に言うASMRって奴。好きな味は特にない。だけど香ばしい匂いと甘い匂いが好きだ。嫌いものは特にないが、強いて言うならステーキとか、あまりASMR向きじゃない物は苦手だ」
「……………」
「はぁ~~~…。これでいいか?」
「……はい。ありがとうございます。それと、ご迷惑をおかけして本当に申し訳ございませんでした…。明日、精一杯頑張ります」
身体を九十度まで曲げて、そう謝ってくる天津川。
明日?……まぁいいや。なんか無駄に疲れたし。彼女が満足したならもういいだろう。周りの視線がウザったらしくて仕方ない。
そこからはもう何の邪魔も入らずに、無事に帰路に就けた。
……一応このことも日記に書いておくか。忘れたいが、また面倒なことになりそうだしな。
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