銀髪美少女は優し過ぎる
お待たせしました!
遅れた分を合わせて、二話分あります。
それとこの後、かなり短いですがもう一話投稿します!
兵頭と小鳥遊の二人に頼んだことは大したことじゃない。
五分だけでいいから、放課後に天津川と七森の二人を足止めしてほしいということだけ。
二人は放課後になったら、即座に動いてくれた。
「天津川さん、三澄君を探してるの?」
俺がすぐに教室から出ると小鳥遊が天津川に声をかけたのが聞こえ、
「七森さーん!この後は暇?僕、前から七森さんのことが気になってさ~。お嬢様は普段家で何をしてるのかとか」
俺と同時に教室から出た兵頭が七森にウザ絡みしに行っていた。
その間に急いで例の倉庫へと向かった俺は、扉の鍵が壊れている倉庫の中に入って、扉の窓から動画を撮る為にヒビが入ったスマホを構える。どうせ天津川に下心がある生徒共だろうと考えて。
一昨日の七森の電話で、来る相手が複数いることは確定しているんだ。七森と天津川を待ってる間に、色々と駄弁り始めるはずだ。天津川を好きに出来ることとかな。
それを証拠に七森が呼んだ生徒共にはここからいなくなるように言い、後から来た七森に自白させて、天津川には危険な目に遭うところだったことを説明する。
これだけ証拠が揃えば流石に教師共も動くだろうし、これでこの件は解決だ。
例え生徒の数がやたら多くても、ネットに流すって脅せば引き下がるだろう。それに万が一があった時の為に、流し方は兵頭から教えてもらってるから大丈夫だ。
この時まではそんな楽観視をしていた。ヤバい奴らだったとしても結局俺と同じ学生だから、脅せば無駄に人生を棒に振るようなことはしないだろうと。
―――だけど違った。七森が呼んだのは、この学園の生徒じゃなかった。
俺が倉庫に隠れ始めてから十分経ったか経ってないかくらいに、七森が来た時だった。
まさか七森が先に来るとは思わなかった。だけど、それはそれで構わないとも思った。
重要なのは、俺が先にここに来ていること。
犯行計画の打ち合わせする場面を撮ることが出来れば、その時点で天津川を助けることが出来る……はずだった。
「お待たせ。ちょっとウザい男子に引き留められてて、遅れたわ」
七森は倉庫のすぐ後ろにある壊れた柵から、明らかに学校関係者ではない七人の男を通していた。
その様子は、倉庫の天井付近に付いてる小さな窓から確認出来た。
それを見て俺は思った。これは動画を撮るだけでは解決しない、と。
――――――――――――――――――――――――
そして現在、俺の前に七人の男が転がっている。
同時に、俺も身体がボロボロで地面に倒れていた。不意打ちで一人を確実にやったとはいえ、大の男六人を相手にするのはキツかった…。
コイツらとやりあってる最中は、天津川が俺に向かって「もうやめて!」と何度叫んだだろうか?今も俺の頭を膝に乗せて、涙を流しながら心配している。
「ぐすん…。三澄さん。ごめんなさい……私のせいで、こんな危険な目に遭わせてしまって…」
「別にいいって。知ってたのにさっさと警告しなかった俺も悪い」
まぁその場合、天津川はあの女のところに謝りに行ってたろうから、やっぱり言うに言えなかったがな。
それだと天津川を助けられなかったろうし。
……あ。そうだ……警察と救急車を呼ばないと。特に救急車はすぐにでも必要だろう。
コイツらのことは殺す気で殴ったけど、別に本気で殺しちゃいない。
ただ最初の図体がデカい男はわからないな。倉庫にあったレンチで思いっ切り頭を殴ったから、早く救急車を呼んだ方が良いだろう。
流石にガチの殺人なんてしたくない…。
「天津川。悪いんだが、警察と救急車を呼んでくれないか?俺は七森から、なんでこんな事をしたのか話を聞く」
俺は天津川にそう言って、痛みで悲鳴をあげる身体を起こして、地面にへたり込んでいる七森に近付いて行く。
「は、はい…。わかりました。……あの!七森さんには、その……」
「わかってるよ。優しい天津川は、七森にまで痛い目は遭わせるなって言うんだろ?」
天津川が言いたいことを先に言うと、彼女は不安気な表情でこくんと頷いた。
お人好しが過ぎるな…。自分を酷い目に遭わせようとした相手なのに。
……流石に俺も女を殴る気はねぇけどよ。
「よっこいしょと、痛ぃつつ…。つうわけで、七森はなんで天津川にこんなことしたんだ?」
立ってるのは辛いので、座ってから動機の説明を求めた。
転がってる男共のことは……まぁお嬢様なんだし、金で雇ったそこらのチンピラだろ。今は詳しく聞く必要はない。
しかし当の七森は顔を逸らして、沈黙したままだ。
「別に俺も鬼じゃねぇ。話を聞いた上で怒ることはあっても、殴ったりはしねぇよ。それにこのままだと、一方的にお前だけが悪いってことになるぞ。それでもいいのか?」
「……いいわよ別に。百パー私が悪いんだから…」
「そう自覚出来てる内はまだ大丈夫だ。知らんけど」
「何に対して大丈夫って言ってるのよ。つうか知らないのにそんなこと言うな…」
七森は俺を睨むようにして言う。
しかし観念したのか、やがてぽつりぽつりと語りだす。
「私は、天津川のせいで……振られたの…」
「は?」
「彼氏に振られたの!天津川の方が私より清楚で可愛いからってっ!」
「……………」
えっ。そんなことで?
そんなことで天津川のことを憎んでたのか?完全に逆恨みじゃねぇか…。
しかも自分が悪いことを自覚してる分、余計に質が悪い気がするぞ。
「そんなことでって思ってるでしょ?わかってるわよ、そんなの……でもね?それぐらい好きだったのよ…。アンタみたいな、誰にも恋愛感情なんて無さそうな奴にはわからないでしょうね。好きな人に振られるっていう痛みがっ!苦しみがっ!」
七森は今まで溜め込んできた思いを、涙と共に吐き出す。
それを聞いてる俺は、「自分は加害者だが、被害者でもある」と言ってるように聞こえる。
本人にそのつもりがあるのか知らないが、自分を無理矢理に正当化してるように見える。
「胸が……張り裂けそうだった…。私に不満がある訳でもなく、ただ天津川の方が好みだからって理由で振られて。それでも……努力した。好きだったから、もう一度あの人に振り向いてほしくて、いっぱい努力した…。でも駄目だった!どんなに可愛くなろうと努力しても、どんなに彼の好みに合わせても……彼は天津川の方が良いって言った…。あんなに頑張ったのに……こんなに彼のことが好きだったのに……全然振り向いてくれなかった…」
だが七森は、ただ天津川を逆恨みした訳ではないらしい。
ちゃんと好きな相手に振り向いてもらおうと、必死に努力したのだろう。
七森の表情からは、そんな感情が読み取れた。
だからってこんなこと、許されるはずがない。
「そうかよ」
「……なによ?それだけ?怒るとか言っときながら、それだけ?」
「ああそうだ。それだけだ」
俺の返答に、七森は目を見開く。
完全に予想外の言葉だったのだろう。
「お前のしたことは許せねぇよ?天津川のせいで振られたとか、そんなの逆恨み以外の何ものでもない。聞いてる側からしたら、反吐が出るほどくだらねぇ動機だ」
「……………」
「でもな……」
俺の言葉を聞いて俯く七森に、後ろからゆっくり近付いてくる女の子を見ながら言う。
「それを許すか許さないかは、被害者が決めることだ」
七森は、俺の横を通り過ぎ、自分の前に膝をつく天津川を見る。
「……………」
しかし天津川は俯いたままで、何も言葉を発しない。
七森はどんな罵詈雑言が飛んでくるのかと、身構える。ビンタなり殴るなりされるとも思ったのか、目も瞑っていた。
―――しかし。天津川が取った行動は、七森の予想を裏切るものだった。
天津川は、七森に抱き着いたのだ。
「……は?ちょっと、なにしてんのよ?」
「……………さい…」
「はぁ?」
「ごめんなさい…」
少し強く抱きしめながら、なぜか天津川は謝罪の言葉を口にした。
俺も少し予想外だったが、優しい彼女らしいとも思った。
「ア、アンタね?馬鹿にしてるの!?アンタのせいで彼氏に振られたなんて言ったけど、それに対して謝る筋合いなんてないでしょ!?」
「違うんですっ!……ぐすんっ。違うんです…」
「……………何が、違うって言うのよ?」
天津川は七森から離れて、目を合わせる。
彼女からは、自分に酷い目に遭わせようとした相手と、本気で向き合おうとする意思を感じた。
七森をそれを感じ取ったのか、真剣に向き合っている。
「七森さんが振られたお話を聞いて、私は同情をしてしまったんです…」
「同情?」
天津川は頷き、胸を抑えながら続ける。
「それは……七森さんに対して酷い侮辱に当たるというのは、重々承知しております…。ですがわかるんです…。七森さんのお気持ちが…」
「……………」
「私にも、好きな人がいます。だからわかるんです。『振られたらどうしよう?』『振り向いてくれなかったらどうしよう?』『こんなに頑張ってるのに、全然意識してくれなかったらどうしよう?』って、いつも不安に駆られてるから…。そのことを想像しただけでも、胸が張り裂けそうになるんです…。七森さんが感じた気持ちが……わかるんです…。わかっちゃうん、ですよ…」
七森の気持ちが、痛いほどに理解出来ると涙を流す天津川。
そんな彼女は、呆気に取られてる七森の手を握って、さらに続けた。
「ですがこれは、先ほど申しました通り七森さんへの侮辱です…。だって……私が七森さんに同情する権利なんて、何一つないんですから。私は、七森さんに同情してしまった私が、どうしても許せないんです…」
「……なによ、それ…。意味がわからない…」
「全て自分勝手な発言だというのは理解しています。ですが……」
「もういいっ!」
七森は謝罪を続けようとする天津川を止める。
天津川の手を払った彼女は、倉庫に背を預けて蹲った。
「もういいわよ…。私にだって、アンタに謝られる権利なんて無いんだから…」
「七森さん…」
「……本人がもういいって言ってるんだ。そっとしておけ」
俺は身体を引きずるようにして、七森から少しだけ距離を取りながら言う。
天津川の言葉は、ただ罵詈雑言を浴びせられ、殴られるよりも辛かったろうな。
貶めようとした相手に慰められたんだ。天津川が自分で言ったように、侮辱以外の何物でもない。
天津川は大人しく引き下がり、俺の傍まで寄って来る。
「……ぐすんっ。すみません、三澄さん…。胸を貸して頂いても、よろしいですか?」
「……………好きにしろ」
自分への怒りが収まらないのか、涙を流し続ける天津川。
そんな彼女の頼みにどうしようか悩むが、俺はそれを受け入れた。
「ぐすんっ……私、最低ですっ…。最低な女です…。泣いていい資格なんて無いのに……涙が止まらないんです…」
「お前は優し過ぎるんだよ。良い意味でも、悪い意味でも。酷い目に遭ったんだから、泣いていいんだよ」
「……………うっ、うぅ~…」
「……しばらく泣くのに専念してろ」
俺は天津川の頭を撫でる。優しく、丁寧に。
彼女が自分で付けた傷が、少しでも和らぐように。
この話が面白いと思ったらブクマ登録と高評価、いいねと感想をよろしくお願いいたします。
このあともう一話投稿します。本当はくっつける予定でしたが、キリ良く終わらせる為に分けました。




