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俺が銀髪美少女に幸せにされるまで  作者: 結城ナツメ
銀髪美少女は俺の胃袋から幸せにする
17/40

後に最高のファーストフレンドと呼ばれる二人

 天津川が七森という女に貶められそうになるより前のこと。


 俺は昼休みになった時に兵頭を人気のない廊下、文化部の部室がある所に呼んだ。

 その際に兵頭には、もう一人連れて来て欲しいことも頼んで。


「おっす三澄!言われた通り、小鳥遊ちゃんも連れて来たぜ」


 俺が鍵が壊れている部室の前で待っていると、兵頭がサイドテールが特徴的な女の子を連れてやって来る。

 彼女は小鳥遊芽衣(めい)。俺が先月に二回ほど荷物運びを手伝ってやった女の子……らしい。

 うちのクラスの委員長らしいが、記憶障害の俺がそんなことを認知出来てるはずもない。


 ならなぜ小鳥遊の名前を知っているのか……それは一昨日と昨日の内に、今まで書いてきた日記を読み返して来たからだ。

 天津川が西島先輩に怒った時に、俺が困ってる人を助けたと言っていた。俺は憶えてないけど。


 そして先月まで遡ると、小鳥遊という委員長の荷物運びを手伝ったことが書かれていた。

 新しい順に見ていったから、『俺が小鳥遊のことを忘れたせいで、傷付けたかもしれない』という文章を見て、かなり罪悪感があったが…。

 とにかく、兵頭だけでは不安だったし、あの事を相談するならもう一人信頼出来そうな奴が欲しかった。それが、俺が助けたこともあり、委員長の小鳥遊だ。


「えっと……三澄君が私を呼ぶなんて、珍しいね。委員長の私に何か相談事?」


 小鳥遊は少し気まずそうに言う。

 そりゃそうか。二回目の交流はかなり酷いもんだったろうからな。

 それから話したようなことは日記に書いてなかったし、いきなり呼び出されて本人も驚いているだろう。


「急に呼び出してすまない。まずは中に入ってくれ。なるべく人目は避けたい」


 鍵が壊れている部室の扉を開けて中に入る。

 不思議そうにしているが、俺が真剣な話をしようとしているのがわかっているのか、何も言わずに付いて来てくれる。


「で、三澄が僕たち二人に話ってなにさ?しかも委員長ならともかく、僕まで呼ぶなんて」


 やはり真剣な話の場だとわかっているらしく、兵頭に普段のふざけた様子は全くない。不思議と違和感を感じられないので、恐らくこれが本来の兵頭の性格なのだろう。


「その前に、まずはこの動画を見てほしい」


 俺はその質問に答える前に、スマホを取り出してとある動画を再生する。


『もしもし?私だけど。明後日の昼休みにやる手筈だったけど、なんか勘が鋭い奴がいて……いいえ。予定通り明後日に決行よ。ただ、放課後に変更したくて……はぁ?だったら私も?……………わかったわよ。私にはもう、失う物なんてないんだもの…。好きにしていいわよ。勘違いしないで!天津川に絶望を味合わせる為なら、私はなんだってする。……ええ、いいわよ。天津川と一緒に、一生アンタ達の玩具になってやるわよ…』


 二人はその動画を見て驚愕する。これは一昨日、俺がとある女がこの部室で話していた内容を盗撮したものだ。

 さすがに扉を開けることは出来なかったが、学校という施設の扉の下には換気目的なのか、妙な隙間がある。

 そこから中を映したものだ。見えにくいが、小鳥遊はこの女が誰かわかったようだった。


「噓…。この人って……七森さん?」

「あー!本当だ!?この花のカチューシャと天津川ちゃんにも勝るとも劣らない透き通るような声は、七森ちゃんだ!……はっ!?ンンッ!失敬。ついふざけた僕が出てしまった…」


 兵頭は努めてふざけないように意識して、もう一度動画を見る。

 そして小鳥遊と共に、険しい顔となった。


 急なことで事態を上手く吞み込めていないが、その深刻さはわかっているようだ。


「三澄、これっていつ撮ったやつ?」

「一昨日だ。なんか天津川のことを憎むような目で見ていたから、警戒してたんだが……案の定だったよ。たぶんこの女がやろうとしていることは、到底許されることじゃない」


 俺の言葉に二人は息を吞む。

 『一生アンタ達の玩具になってやるわよ…』この言葉だけで、何を示しているのか明白だ。


「これ、先生には見せたの?」


 小鳥遊が聞いてくるが、俺は首を横に振りながら答える。

 それは別に、見せていないとかではなかった。俺はちゃんと見せたさ。あの無能教師共にな…。


「この日の放課後に見せたよ。だけどアイツら、俺の言うことを全く信用しちゃくれなかったよ…。合成だのなんだのとか言ってな」

「はぁ!?なんでそうなるのよ!意味わかんないっ」

「この七森とかいう女はかなりの優等生で、先生たちからの信頼も厚いみたいなんだ。しかもお嬢様なんだってよ」


「あ~……確か七森ちゃんは、七森財閥のお嬢様だもんね…。てことは大方、先生たちは七森ちゃんにこのことを問い詰めて、もし冤罪だった時のことを恐れているんだろうね。たぶんその場合、首を切られることになるから」

「な、なによそれ!?確かに私も信じられないけど、実際こうして七森さんが天津川さんに何かしようとしている証拠があるのにっ!」


 親指で自分の首を切る動作をする兵頭に、小鳥遊は憤慨する。そう、七森は七森財閥ってところの超お嬢様だ。だから教師どもは変に問い詰められないなんて馬鹿みたいなことを言っていた。


 憤慨する小鳥遊に対して兵頭は、やけに落ち着いた様子で説明する。


「たぶんこの動画を持って来たのが、三澄っていうのも関係してるんだろうね。教師っていうのはテストの他に、普段の授業態度や生活態度で成績付けるでしょ?あの人たちはその数字でしか三澄を見ていない。いや、見れていないんだと思う」

「ど、どういうことよ?三澄君は別に悪いことなんてしてないじゃない!」

「そうだね。でも逆に、三澄は好印象になるようなことをしてきた訳でもない。七森ちゃんは授業が終わった後、必ずわからなかったところを聞きに行ったり、先生の荷物を運ぶのを手伝ったりと、普段から色々と貢献している。だけど三澄の場合は違う。授業には出ていて、ノート提出もしっかりしてるけど、ただ板書を写してるだけで態度が良いって訳じゃない。先生の話なんて聞いていないみたいだしね。先生のお手伝いする時は……まぁあるっちゃあるけど、七森ちゃんとは天と地の差だ。それでどちらを信用するかってなると……」

「……七森さんって訳ね…」


 小鳥遊の言葉に頷く兵頭。


 しかし小鳥遊に丁寧に説明した兵頭だが、本人も理解はしていても納得していない様子だ。

 なんだかんだ、コイツが一番俺との付き合いが長い方だ。ある程度は俺のことを知ってる分、やるせない気持ちは強いだろう。


 そして兵頭はさらに続けた。


「さらに七森ちゃんは当然、成績も優秀だ。例え先生たちが生徒の人柄ではなく数字だけで見ていたとしても、三澄のことは信用しなかったろうね。それだけ教師にとって、七森財閥っていうのは恐ろしいんだよ。だから教師陣は知らない振りするのが、現状は一番だと思ってしまう。事が起きてからの方が深刻なのにさ」


 兵頭の言い分から察するに、七森財閥っていうのは相当大きな会社みたいだな。

 しかも教師たちをクビにするくらいの影響力はあるらしい。


「じゃあ、あの無能教師共はこの件に関わることはないってことか?」

「……そうなるだろうね。教師って言っても、彼ら彼女らはそれで飯を食っている人間だからね。もしもの場合のリスクがデカいと、動きづらいんだよ」


 ……ふざけんなよ…。

 自分たちの身の可愛さで、傍観決め込むってのか?それが教師のやることかよっ!

 なんでいつもいつも事態を軽く見たり、知らねぇ振りなんかするんだよ!?アイツらは本当にいつもそうだ。子どものやることだからと気にした様子もなく、何か起こってから事の重大さに気付きやがって!


 ―――それじゃあ遅いんだよッ!


「ちょっ!三澄ッ!?スマホスマホ!スマホ壊れちまうって!?」

「あぁ?」


 兵頭に言われてスマホを見てみる。

 ……ヒビが入ってらぁ…。


「うっそ…。三澄君てば、どんな握力してるのよ…」

「……悪い。ちょっと嫌なことを思い出してな。でも、そうか……そうだよな。教師ってのはいつもそうだ。事態を軽く見て、事件が起こってからようやく自分たちの過ちに気付くんだから」

「え?三澄君…?」


 俺は頭を横に振って、蘇った嫌な記憶を振り払う。

 今はもうそんなことどうでもいい。教師共が頼りにならないんじゃ、こっちでなんとかするしかない。


 その為に二人を呼んだんだからな。


「ねぇ三澄君。これ天津川ちゃんに見せた方が良いんじゃない?そうすれば、きっと最悪の事態は回避出来るだろうし」

「小鳥遊ちゃん、それはダメだよ。天津川ちゃんは誰よりも優しい子だ。きっと自分が何か悪いことしたんだと思って、七森ちゃんの所に謝りに行ってしまう。そうなったら、この動画でも言ってるように、七森ちゃんは天津川ちゃんに酷いことをする。僕たちのあずかり知らぬ所で」

「そんな…」


 ……兵頭の奴、やけに頭が回るな。

 流石は勉強出来るバカだ。この時ばかりは頼りになる。


 俺も兵頭と同じ考えだ。天津川にも見せようと思ったけど、彼女は優し過ぎる。短い付き合いの俺でもわかるくらいに。たぶん人の悪意にあまり触れて来なかったんだろう。

 だからきっと、罪悪感を抱いたアイツは七森に謝りに行く。そんなことしたらそれを逆手に取られて、兵頭が言ったように俺たちの知らない所で酷い目に遭わされる。

 死ぬことよりも、ずっと…。


「兵頭の言う通りだ。そんなことしたら、今あるチャンスを棒に振ることになる。だから二人を呼んだんだ」


 俺の言葉に二人は話を聞く姿勢になる。天津川を助けるには、この二人の助けが必要だから。

 ……だけどそのことを二人に頼む前に、俺にはやらなきゃいけないことがある。


 俺は小鳥遊に身体を向ける。そして、頭を下げた。


「ごめん、小鳥遊」

「え…?えぇ!?どうしたの急に!?」

「……俺は……お前を傷付けてしまった。自分から誰かに頼れって言ったくせに、いざお前が頼みに来た時……俺は酷いことを言ったよな?」

「あ…」


 俺は日記を読み返した。だから今は小鳥遊の名前を知っている。

 小鳥遊に酷いことを言ったことも含めて。


「俺は人に興味が無さ過ぎて、あまり交流がない奴のことはすぐ忘れてしまうんだ。こんなの、言い訳にもならないだろうけど……本当に、ごめん…」


 噓だ。本当はもっと根本的な問題がある。いくら興味ないからって、三日そこらで人のことを忘れるなんて異常だ。

 小鳥遊だってそのことには気付いてるだろう。でも……だからって記憶障害のことを話すのは憚られる。


 そんな重い理由を話されても、迷惑だろうから…。


「……顔を上げて、三澄君」


 俺は小鳥遊の言葉に従う。

 すると彼女は、優しい笑顔で続けた。


「いいよ。許してあげる」

「……いいのか?かなり最低だったと思うんだが…」

「確かにね、三澄君に『誰だお前?』って言われた時はショックだったよ?でもさ、今はそんなことよりも、すっっっごく嬉しいのっ!だって今はこうして、私に相談してくれてるんだもん。それって、私のことを憶えていてくれたんでしょ?」

「……………」


 小鳥遊の言葉に、俺は肯定も否定も出来ない。

 ここで肯定しては完全な噓になるし、否定したらまた彼女を傷付けるから。


「だから許す!その代わり、お願いがあります」

「お願い?」


 小鳥遊は深呼吸を一つして、そのお願いを口にする。


「私を……三澄君の友達にして欲しいな。二番目……は、一応天津川さんなのかな?」

「いやいや、天津川ちゃんは彼女候補だから。セカンドフレンドは小鳥遊ちゃんで良いと思うよ」

「あ。そっか」


 小鳥遊の疑問に兵頭が答える。やはり天津川は俺の彼女候補として広まってるのか…。

 ……しかし友達か…。正直、面倒くさい。


 だけどそれよりも、純粋に嬉しいという気持ちが強かった。

 おばさんの言った通りだな……俺はどうやら、少しだけ丸くなったらしい。


「……そんなことでいいなら…」

「いい、いい!全然いいよ!決まりだねっ。これから私と三澄君は友達!そして友達になったからには、三澄君の頼みも聞いちゃいますっ!」


「あー!自分で言っておいてなんだけど、それはずるい!僕なんて友達だけど、三澄から見たら僕は友達と言い張ってる痛い奴なんだぞ!?」

「え?じゃあ真のファーストフレンドは私?やったーっ!」

「違ーう!俺がファーストフレンドだ!だよな、三澄!」


 ……なんか、真剣に話し合いするのがバカらしくなるくらい、空気がぶち壊れたな…。

 でも、悪くない心地だ。俺がそう思えるのも、きっと壊れた精神が回復したからなんだろう。


 ……だからこそ、こんな風に思えるようにしてくれた天津川のことを、絶対に助けたい。


 ―――それに俺には、天津川が必要だから。死ぬより辛い思いなんてして欲しくねぇんだ。


「ねぇねぇ!私がファーストフレンドだよね、三澄君!?」

「いーや!僕だねっ!そうだろ三澄!?」


「あーもう!うるさいうるさいっ!」


 未だにどっちが一番か争っているので、強硬手段に出た。

 二人を黙らせる為に、二人に抱き着いたのだ。


「うえーっ!?三澄君!?」

「ど、どどど、どうしたんだい三澄?殴るなら俺だけにしろよ!女の子にあのキツイ一撃はマジで駄目だからな!?」


「うるせー!黙ってろ!」


 俺がそう言うことで、ようやく静かになる。そして……


「お前ら二人とも、どっちも俺のファーストフレンドだ。それでいいだろ……文句あるか?」


 そう言うと、二人は目を見開いて驚いた顔になる。

 だけどその後、お互いの目を見合った二人はすぐにニカッと笑った。


「「文句なし!」」

この話が面白いと思ったらブクマ登録と高評価、いいねと感想をよろしくお願いいたします。


明日は『陰キャ男子高校生と天真爛漫なアイドル』を投稿する予定です。

https://ncode.syosetu.com/n8186go/


ただ履歴書も書かないといけないので、かなり遅れると思います。ご了承ください。

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