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俺が銀髪美少女に幸せにされるまで  作者: 結城ナツメ
銀髪美少女は俺の胃袋から幸せにする
16/40

(我慢だ……我慢…ッ!ぶっ殺すッ!)

「最近この辺りで不審者の目撃情報が相次いでいる。皆、下校する際は誰かと一緒に帰るように。以上、委員長挨拶」

「起立、礼」


 本日の授業も恙なく終わり、生徒はそれぞれ部活動や下校する時刻となった。

 友奈は呼び出された倉庫に行く前に、乙葉に挨拶しようと思い、彼の席を見る。


 しかし、そこに乙葉の姿は無かった。それどころか、教室を見渡しても見当たらなかった。


(昼休みの最初もいませんでしたし、どうしたのでしょうか?鞄は置いてありますし、その内戻ってくると思いますが…)


「天津川さん、三澄君を探してるの?」


 友奈が疑問に思っていると、ゆるふわなサイドテールが特徴的なクラスメイトの女子にそう話しかけられる。

 彼女はこのクラスの委員長で、よく周りを見ている。その為、友奈が誰を探してるのかも、ここ最近の出来事もあってわかっていた。


「はい。三澄さんに挨拶をと、思ったのですが…」

「あはは。天津川さんは本当に三澄君にご執心なんだね?」

「ご、ご執心!?」

「あれ。もしかして違った?でもこの間言ってたみたいに、友達千人を目指してる訳じゃないでしょ?彼のお弁当を毎日作ってるしねぇ~?」

「う~、そうですけど……小鳥遊(たかなし)さん、少し言い方が意地悪じゃないですか?」


 小鳥遊と呼ばれた委員長女子は、先週のやり取りから二人を知っているようだ。

 別に茶化してる訳ではないが、彼女は二人の関係について気になっているようで、この際色々と聞いてしまおうと思っていた。


 頬を膨らませる友奈に、小鳥遊は両手を合わせて謝罪する。


「ごめんごめん。私も花の女子高生だからさ、恋バナに目がないんだよ。で、結局のところ二人は今どういう関係なの?付き合ってるようにも見えるし、まだ恋人未満にも見えるし」

「えっと……恐らく、試されてる関係、だと思います」


 顎に指先を当てて少し考えた友奈は、そう答えた。その回答に目を丸くする小鳥遊。


「試されてる?どういうこと」

「三澄さんは何も言いませんが、私のことを迷惑に思ってると思うんです」

「迷惑だなんて……一年の時にミスコン一位取って、名実ともに学園一の美少女認定された天津川さんに、あんな猛烈アピールされれば誰でも簡単に落ちそうなもんだけどねぇ」


 小鳥遊の言葉に、二人の会話に聞き耳を立てているクラスメイトらが頷く。

 美少女な上に清楚で器量もある、しかも料理上手となれば、世の男子高校生なら諸手を上げて彼氏に立候補するだろう。


 小鳥遊のストレートな言葉に照れてしまう友奈だが、それでも自信なさげに言う。


「三澄さんが私と一緒にいてくださるのは、お弁当が三澄さんのお口に合っているおかげです。きっと私自身には、まだあまり興味は無いと思います。それに三澄さんは、こんな特徴的な髪の色をした私のことを、クラスメイトとして認識してくださってませんでした。前途多難です…」

「あー!確かに!あれは酷いと思ったねっ!まるで初めて会ったみたいなリアクション。天津川さんだって先週よりも前から、朝にすれ違ったら三澄君にも挨拶してたもんね?」


 友奈は社交性も高く、クラスメイトとすれ違う際は挨拶している。

 その中には当然、乙葉もいた。


「いつもぶっきらぼうだったけど、ちゃんと『おはよう…』って返してるんだから、絶対天津川さんのこと知らないはずないのにねぇ?不思議」

「三澄さんは人に興味が無さ過ぎて、いつも話しかけている兵頭さん以外憶えていないと、おっしゃってましたが…」

「いやいやいやいや、にしてもおかしいでしょ!?銀髪だよ?しかも美少女だよ!?しかもしかもこ~んな中学生みたいな身長で、お人形さんみたいなんだよっ!」

「ちょっと小鳥遊さん!?それは褒めてるんですか?貶してるんですか!?」

「全力で褒めてますっ!」


 なにやら失礼な物言いが混ざっていたが、それに対して力強く褒めてると豪語する小鳥遊。

 やや解せない気持ちを抱きながらも、彼女の疑問は最もであると友奈も思っていた。


「しかもさぁ、三澄君ってば助けた女の子のことも憶えてないみたいだし」

「助けた女の子ですか?……あ。そういえば小鳥遊さんは、委員長のお仕事を手伝ってもらってましたね」


 乙葉は憶えてないが、実は困ってる生徒や先生を見かけたら、よく助けている。

 最近はそういったことも無かった為、本人は自分が人助けする人間だとは思っていないが、根は優しい性格だというのがわかる。


「そう!重い荷物を運んでる時に、『無理に一人で運ぶな、助けが必要なら誰かに頼れ』って荷物のほとんどを持ってくれてね…。正直あの時は、ちょっとキュンとしちゃったな~…」

「キュンと!?」

「ああ、安心して!別に三澄君が好きとか、そういうんじゃないから」


 声を低くして乙葉の真似をする小鳥遊。そんなセリフまで再現を頼まれてもいないのにやるということは、彼女にとってかなり印象深い思い出なのだろう。

 勘違いしそうな友奈に慌てて訂正したが、その一件で少しだけ乙葉のことが気になり出していたのは、本人だけの秘密である。


「で、三日後くらいにまた荷物運びを先生にお願いされてさ。頼れって言うから三澄君にお願いしに行った時、私になんて言ったと思う?」

「え?う~ん……三澄さんのことですから、『いや俺かよ』みたいな感じでしょうか?」

「『誰だお前?』って言われたの!超ショックだった~…」


 その言葉を聞いて、友奈は固まった。

 それは自分が先週の昼休み、乙葉から開口一番に言われた言葉だったから。


「自分で言うのもおかしいんだけどさ、真面目な話、私もそれなりに可愛いと思うんだよね?天津川さん程じゃないけど」

「そ、そんな、小鳥遊さんも凄く可愛いじゃないですか」

「あはは。ありがと。で、天津川さんも認めるくらいには可愛い私ですが、三澄乙葉君は全然憶えてくれてませんでした……興味ないの範疇を越え過ぎじゃない?まぁなんだかんだ優しいから、手伝ってくれたけどさ……それ以降、話しかけることなくなったよね…。また『誰だお前?』って言われたくないし」


 小鳥遊の言う事は恐らく正しいのだろう。

 普通の男子(・・・・・)であれば、二人のことを忘れるなんてことはまず無いだろう。


 しかし、二人は知らない。彼が普通ではないことを。


「毎日目にしてるはずの銀髪美少女、自分が助けたクラスメイトの女の子……そのどちらも忘れるとは、これ如何に?正に真相は闇の中状態」

「……け、結局は三澄さんのことですし、私たちがいくら憶測を立てても意味はないですよ。ですが、確かに気になりますね?」


 このままでは乙葉に悪い噂が立ってしまうかもしれない。そう思って、余計な憶測はしないようにしようと言うが、やはり友奈自身も気になっていた。


「でしょー?……あれ?そういえば天津川さんって……この後何か用事あるみたいなことを三澄君と話してなかったっけ…?」


 小鳥遊にそう言われた友奈は、はっとなって時計を確認する。

 ホームルームが終わってから、もう五分以上は経っていた。


「いけません!このままではお相手を待たせ過ぎてしまいます!?」

「あわわわ!?ご、ごごごめん天津川さんっ!私が話しかけたばっかりに」

「いえ。小鳥遊さんのせいではないですよ。申し訳ございませんが、本日はこれで失礼しますね」


 急いで鞄を持って教室を出る友奈。

 小鳥遊は本当に悪いことをしたと、何度も頭を下げる。


「本当にごめんねっ!」

「大丈夫ですよー!」


 廊下を早歩きで進んで行く友奈は、最後にそう言って体育館裏の倉庫へと向かった。


――――――――――――――――――――――――


 この学園には大きな柵があり、それが学園の敷地を示す物となっている。


 友奈がそれに沿うようにして体育館裏まで行くと、一人の女子生徒が倉庫に背中を預けている姿が見えた。

 長いストレートで綺麗な髪。遠目から見ても顔が凄い整っているのがわかり、友奈も息を吞んでしまうほどだ。

 花のカチューシャも大変可愛らしく、彼女によく似合っていた。そこで友奈は気付く。


(あの人は確か、隣のクラスの七森さん?もしかして、あの人がこの手紙を?)


 てっきり男子かと思っていた友奈は不思議に思いつつ、七森という女子の近くまで行く。


「すみません。お待たせしました。手紙の差出人は、七森さんだったんですね」

「うん?ああ、やっと来たか…。まぁ別に気にしないでいいわよ。私もウザい男に捕まってたせいで、さっき着いたばかりだから」

「そ、そうなんですね。それで、こちらの手紙なのですが……てっきりラブレターかと思ってました」


 待っていたのが女子だとわかり、自分の勘違いであったことに恥ずかしいと思う友奈。

 しかし友奈に向き直った女子は神妙な面持ちで言う。


「それが、本当にラブレターだとしたら?」

「え…?」


 急な発言に困惑する友奈。

 もしこれが本当にラブレターだとしたら、彼女は友奈のことが恋愛対象として好きということになる。

 つまり同性愛者だ。普通の人なら、忌避することかもしれない。


 しかし友奈には、そんなことは全く気にした様子はなかった。

 彼女の中では、好きという感情に性別など関係ないという思いがあったから。


「だとしたら……申し訳ございません。私にはもう、好きな人がいるんです。なので、お気持ちだけ受け取らせていただきます」


 友奈が頭を下げてそう言う。

 これで終わり。いつもならそうだ。友奈に告白して、玉砕していった者は多い。

 なので「やっぱりか~」と潔く諦めて終わる。


「……ふ、ふふふっ…」

「? 七森さん?」

「あっはははははははは!」

「っ!?」


 しかし七森は、不気味に笑い出した。まるで友奈をバカにするように。


「ど、どうしたんですか?」

「あははは……はぁ~…。こっちだって願い下げよ」

「え?それってどういう……」

「ほら!もういいよ!」


 七森がそう言うと、倉庫の裏から屈強な男が現れて、友奈に駆け寄った。


「だ、誰ですかあな、むぐっ!?」

「おっと!抵抗するんじゃねぇぞ。まだ死にたくないだろう?」


 男は大きな声を出そうとした友奈を抑えこみ、ナイフを突き付けた。

 それを見た友奈は、抵抗することを止める。


 そしてそのことを皮切りに、倉庫の裏からぞろぞろとまた男が六人現れた。

 計七人の男たちは、明らかに学校関係者には見えなかった。


「よう、お嬢ちゃん?俺たちのことは憶えているかい?去年君にナンパしたんだけど」

「!?」


(どうしてこの人たちが!?)


 新たに出て来た男の内一人にそう言われて、入学式の日のことを思い出す。

 どうやって学園に忍び込んだのか疑問に思っていると、七森が喋り出す。


「その人たちはね、私が呼んだの。天津川友奈、アンタを絶望させる為にね!知ってる?実はこの倉庫の裏の柵は、丁度壊れててね。アンタを抑えてるデカい男でも、簡単に入れちゃうくらいの出入り口が出来ちゃってるの」


(ど、どうしてそんなことを!?)


 口を塞がれてる友奈は、目でそう訴えることしか出来ない。

 だが聞けたところで、わざわざ教えてくれないだろう。


 七森はただ、友奈に絶望を味合わせられれば、それで良かったから。

 だから説明する気なんて毛頭なかった。


「さぁ七森ちゃん?約束通り、一緒に楽しもうぜ?た~っぷりと、な?」

「んっ……ええ。いいわよ。倉庫の鍵も壊れてるから、入れるわよ」


 細身の男に胸を触られる七森。しかし彼女は特に気にした様子もなく、それを受け入れている。

 ますます訳がわからなくなる友奈だが、今のを見て一つだけわかったことがある。


(私、この人たちに…ッ!?嫌、嫌ーッ!)


 これから起こることがわかった友奈は、必死に抵抗を試みるが、屈強な男に叶うはずもない。


「おいおい、もしかして今さら自分の置かれてる状況に気が付いたか?だが無駄だ。七森ちゃん曰く、叫ばねぇとここには誰も来やしねぇよ。おい!ドアを開けろ」

「へい!」


(嫌だッ!助けて!誰か助けてくださいッ!?初めてをこんな人たちに奪われたくないです!お願い……助けてぇ……助けてーッ!)


 両手が塞がっている男は下っ端に命令して、扉を開けさせる。

 友奈は涙を流して助けを求めようとするが、やはり男の手からは逃れられず、それは虚しく男の手の中で消える。


 友奈を抑えている男は、早く友奈をめちゃくちゃにしたいなどという欲求もあり、自然と自身も扉の近くまで寄っていた。


 ―――しかし、それが男の不運であった。


 下っ端が扉を開けた瞬間、中から彼の顔面目掛けて鈍器が思い切り殴りつけられた。


「グブゥッ!?」

「「「えっ?」」」


 男はそれにより吹っ飛んで身体が宙に浮くが、背中が地面に付く前に倉庫から飛び出して来た男子によって、今度は横薙ぎに鈍器を脳天に叩き付けられた。


「……………」


 男はそれにより、頭から大量の血を流しながら気を失った。


「よぉし、一番ヤバそうな奴はこれで片付いたな、とっ!」


 そう言って友奈を抱き寄せて、ついでに倒した男からナイフを回収した男子は距離を取る。

 そんな慣れたような動きをする彼の顔を見て、声を聞いた友奈は、思わず大粒の涙を零す。


 当然それは、先ほどの恐怖から来るものとは違う。

 今この場において誰よりも頼りになる存在であり、自分の想い人……そんな人に、また助けられたんだという安堵の気持ちから、自然と流れた涙だった。


「悪い、天津川。不意打ち決めて、確実に一人やらないとダメだと思ったからさ。助けに入るのが遅くなった。ナイフとか持ってたし」

「……いいえ…。いいえ!謝ることなんてないですっ!だって、助けてくれたんですから…。そんな人に、文句なんて言えるはずがありません!助けてくれて、ありがとうございます……三澄さんっ!」


 その後、いつの間にか騒ぎを聞きつけたらしい生徒の通報により、教師たちが駆け付けた。

 そして彼ら教師が目にしたのは、気絶して倒れている七人の男たちと、倉庫に背中を預けて座り込んでいる七森の姿。


 そんな七森から少し離れた所で泣きながら謝る友奈と、それを宥めている乙葉の姿があった。

 しかし乙葉の身体は、見るからにボロボロであった。

サブタイは必死にチャンスが訪れるのを待っていた乙葉です。

バトル小説ではないので、その辺はカットします。


次回は乙葉が裏で何をしていたのか明かします。そんな大層なものではないですが…。


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