ラブレター?
「ふんふんふーん♪」
銀髪の少女、天津川友奈は上機嫌に鼻歌を歌いながら歩く。
彼女は想い人である三澄乙葉にアピールする一環で、乙葉に毎日弁当を作ることにしている。
ただ二日前に弁当を作り過ぎてしまい、乙葉とその友人である兵頭翔と一緒に、その弁当を腹がはち切れる思いをしながら処理することになってしまうという失態を犯してしまった。
そのことをしっかり反省した彼女は、昨日は先週と同じ弁当箱を使い、乙葉にちゃんと満足してもらえた。
(今日も喜んでくれると良いのですが)
弁当箱が入った鞄を見ながらニコニコしている友奈。
普通の人がそんなことをしているとやや気味悪がられるが、美少女のニコニコ笑顔というのは妙に絵になるようで、彼女とすれ違う人たちはただただ見惚れていた。
「なにニヤけてるんだ?気持ち悪い」
しかし何事にも例外はある。
美少女だからとあまり特別視することがない人からは、友奈のニコニコもただニヤけているだけにしか見えないようだ。
「あ。三澄さん!今日も待っててくださったんですか?」
「待ってねぇ。たまたま時間が被っただけだ」
友奈の想い人である、三澄乙葉がその例外だった。
しかし乙葉の遠慮のない言葉にはもう慣れてしまった友奈には、彼のストレートな悪口は効かないようだった。
「ですが、いつもはもっと早く登校していますよね?一昨日からずっとですよ」
「一昨日は家族の話に付き合ってたら遅くなったんだ(既にうろ覚え)。そんで昨日は弁当に押し潰される夢見て寝付けなかったから、少し二度寝して遅れたんだ(噓)」
「でしたら、今日はどうして遅れたんですか?」
乙葉が自分のことを待ってくれていることは流石に理解している友奈は、小さな身長を活かすように下から覗き込むようにして、上目遣いで尋ねる。
こうすることで男をドキドキさせることが出来ると、母ジーナに言われたことを実戦しているのだ。
なお余談だが、「飯が美味いから結婚した」と言う変わり者の夫には効かなかったそう。
「……妹の飯を作ってて遅れた」
乙葉はというと、こちらもあまり効かないようだった。
彼は小動物が好きなのか、落ち込んだり涙目になって小動物みが増している友奈には思わず手を伸ばしたくなるが、あざとい友奈には「あざと可愛い」という感想を抱くだけで、それほど効果はないようだ。
「さっさと行くぞ。早くしないと花壇を世話する時間が無くなる」
「はい。私もお手伝いします」
「そいつはどうも」
友奈は乙葉と一緒に登校出来ることに幸せを感じながら、学校へ向かった。
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花壇の世話が終わり、上履きに履き替えようと友奈が下駄箱を開く。
するとそこには、封筒が入っていた。
「あれ?これはなんでしょうか」
「知るかよ。封筒だろ?中身見てみろよ」
乙葉にそう言われた友奈は、丁寧に封を開けて中を確認する。
中には一通の手紙が入っており、差出人の名前は書いておらず、ただ『ずっと気になっていました。放課後、体育館裏の倉庫まで来てください』とだけ書いてあった。
「体育館の裏に倉庫なんてあったんですね。知りませんでした」
「そこかよ。これ明らかにラブレターだろ?」
「あはは…。こう言ってしまうと感じ悪くなってしまうのですが、今まで結構な数のラブレターをもらったり、告白を受けて来たので……慣れてしまった、という感じですね」
「なのに初手ラブレターだとは思わないんだな…」
「もし違ったら恥ずかしいですからね。中身を見るまでは余計な推測はしないようにしてるんです」
推測もなにもほとんどラブレターのようなものだろう、と乙葉は思わなくもないが、友奈の世界観や価値観は少しおかしいとわかっているので、敢えて口には出さない。
「……それ。たぶん行かない方がいいぞ」
しかし友奈が持つ手紙を見た乙葉は、険しい顔をしながら言う。
「どうしてですか?恐らくこの方は、凄い勇気を出してラブレターをくださったんです。その気持ちを無下にする訳にはいきません。せめて面と向かって断らないと」
「体育館裏の倉庫とか、人があんまり来なさそうなところだぞ?万が一のこともある。人間っていうのは、最後に何をしでかすかわからん生き物だからな。天津川に襲い掛かるかもしれないぞ?」
「そこまで言わなくてもいいじゃないですか!相手に失礼ですよ。も、もし三澄さんがラブレターを貰ったら、どど、どうするのですか?」
そんなことはあって欲しくないと思いつつも、乙葉に問い掛ける友奈。
少し考える乙葉だが……
「破り捨てる」
「なんでですか!?相手の気持ちを踏みにじる、最低な行為ですよ!」
乙葉の回答に憤慨する。
彼は自分のことをあまり目立たなくて、ボッチな人間だと思っている。
やや卑屈な性格も相俟って噓告か何かだと思い、それを破り捨てるという選択に至るし、告白を受けても真に受けないだろう。友奈のようにド直球でなければ。
「どうでもいいんだよ、そんなもん」
「どうしてですか!」
「……ラブレターなんかより、誰かさんみたいに真正面からアタックしてくる奴の方が信用出来るからだ」
乙葉の言葉を聞いて、一瞬なんのことかわからなくなる友奈。
しかしすぐにそれが自分のことだと思い至り、顔を真っ赤にしだす。
「そ、そそそ、それって…」
「信用出来るだけで、好きとは言ってないぞ」
「はぅ~…。道は険しそうです…」
「何の道だ?」
「い、いえ!なんでもないです!……とにかく、私はこの方にちゃんと返事をして来ます。それが人としての礼儀です」
友奈の意思が揺らがないことを確認した乙葉は「じゃあ好きにしろ」とぶっきらぼうに言った。
すみません、予定変更します。
このままでは「陰キャ男子高校生と天真爛漫なアイドル」の投稿期間が極端に開いてしまうので、そちらを明日投稿して、明後日と明々後日に「俺が銀髪美少女に幸せにされるまで」を投稿します。
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