(物理的に)愛が重い弁当
「あ、天津川ちゃん……なにこの弁当は?」
「えっと……三澄さん曰く、あ、愛が重いお弁当、です…」
「物理的にな」
昼休みの教室。
この前より大きな弁当箱を見てドン引きしてる兵頭の質問に、天津川は赤くなった顔を両手で覆って答える。
どうしよう。案の定三重箱の弁当で、今三つの箱をちょうど開封したんだけど、全体的に凄いボリューミーなんだよな…。食い切れる気しない。
天津川信者みたいなクラスメイトらも引いてんぞ。
一段目は鮭が全体にちらされた白米。これだけで運動部が普段一食で摂取してそうなくらい大盛りなんだが…。
二段目はブロッコリーやプチトマト。キュウリの漬け物などといった野菜主体のラインナップ。……ほうれん草、茎が多いな。
三段目は様々な種類の天ぷらと、その下にキャベツが敷かれている。海老天やレンコンなど、食感のあるものが多いな。しかも海老デカい。
俺が食感が楽しい奴が好みとか言ったから、やっぱり食べ応えのある物が多いな。
しかし俺のことを考えてくれたのは素直に嬉しいが、量を考えて欲しいな…。
「天津川。これからも弁当を作ってくるつもりなんだよな?」
「は、はい。もちろんそのつもりですが……もしかして、もう飽きてしまいましたか…?」
飽きられたと勘違いして、シュンと落ち込む天津川。
感情の振れ幅が極端すぎんだろ。わざわざ作ってきてくれた弁当を二回目で飽きる奴とかいるか?しかもまだ口に入れてねぇ。
「飽きるとかそれ以前の問題だ。流石にこの量を俺一人では食べ切れねぇよ。この間と同じ量で頼む」
じゃないと腹が物理的に破壊される……本当にこんな量を天津川父は食い切ってたのか?
「はい…。わかりました。明日から気を付けます」
「はぁ~……そんな落ち込むな。誰にでも失敗はある。それに、こんな俺の為に一生懸命作ってくれたんだ。そこは素直に嬉しい」
なんか凄い落ち込んでる天津川の頭を、手でポンポンと優しく叩いて慰める。
しかし俺がそんな行動を取ったせいか、周りがザワついた。男は顔を青くし、女子は黄色い声を上げて。
……なんだよ。落ち込んでる天津川を慰めてるだけだろうが。文句あんのか?
「み、三澄さん……その、クラスの皆さんの前でこれは……は、恥ずかしいです…」
「恥ずかしい?なんで」
「その……三澄さんにこういうことされると、やはりドキドキしてしまって…」
「はぁ?……勘違いすんな。慰めてるだけだ」
しかしそうか。落ち込んでる姿が葵と重なったから思わず頭に触れてしまったが、天津川は俺のことが好きなんだもんな。
その相手からいきなりこういうことされたら、恥ずかしいか。俺には理解出来ない感情だが……流石に無神経だったか。
「えー…。三澄って実はツンデレ属性なの?男でそれは需要ないぜ」
「誰がツンデレだ。俺はいつも本心から物を言ってるぞ」
「つまりその行為もナチュラルと……三澄って、意外と天然たらしなんだな」
「ぶん殴られてぇか?」
バカに付き合うのもそこそこに、天津川の頭から手を離して弁当と向き合う。
その際、天津川は寂しそうな声と顔をしたが、気にしないことにした。じゃないと昼休み終わる。
「さて、どう片付けたものか」
「これは僕も一緒に食べた方が良さそう?」
「正直あげたくない気持ちもあるが、残すよりは良いか……頼んだ」
「よっしゃ任せとけ!あ。でもちょっと待って……………もしもしママさん、ボクボク―――」
「……頭ポンポン…」
俺が兵頭に応援を頼んでる間、天津川はまだ寂しそうにしていた。
……ポンポンされてぇのか、恥ずかしいからやめて欲しいのかどっちなんだよ…。面倒くせぇな。
これが俗に言う、『乙女心は複雑』というものか?複雑すぎんだろ。
「いただきます」
天津川の寂しそうな様子を横目に、海老天にかぶり付いた。
サクッ!ぷりっ!
うおっ。海老天の食感凄っ。唐揚げの時もそうだったけど、よく冷めてても衣のサクサク食感をこんなに保てるな。
あと凄いぷりぷりだ。……もう慣れて特に気にしていなかった味覚障害が、この時ばかりは恨めしい。
どんな味するんだろうな、これ…。
「よーしっ!カカ様に晩飯の断り入れたし、僕もさっそくいただくかな。いただきまーす!」
兵頭も母親への電話を終えて、海老天にかぶり付いた。やっぱり真っ先にそれが気になるよな。普通のよりデカいし。
「うんまっ!サクサクでぷりっぷり!しかも天ぷらなのにあっさりしてる~……僕のおふくろさんより美味いな、これ…」
コイツなんで母親の呼び方バラバラなんだ?
まぁ親不孝な発言する兵頭のことだし、気分で変えてるだけだろう。
「ほら三澄。ここでちゃんと感想言わないと。可愛い彼女に失礼だし、可哀想だぞ?」
無言で食べ進めていると、兵頭が小声でそんなことを言ってくる。
彼女じゃねぇっての…。
まぁ確かに一言くらい何か言わないと、作ってくれた天津川に失礼か。
「美味い。これからも食えると思うと、毎日が楽しみで仕方がない」
俺がそう言うと、天津川はパァっと笑顔になった。
……俺に褒められたら花のような笑顔になるのやめろ。小動物みたいで撫でたくなる。
「はい!毎日頑張って、三澄さんのお弁当を作ってきます!」
「毎日は冗談のつもりだったんだが……うそうそ!毎日食べたいくらい美味い!」
天津川が大変だろうと思って、毎日は冗談と言うと、またシュンと落ち込みかけたので慌てて訂正した。
やっぱり天津川、少し面倒くさい…。
「あー美味い!と、天津川ちゃんが三澄家に嫁入りしたら二度と味わえないだろうから、兵頭は一口一口嚙み締めながら食べるのであった(丸)」
「よ、嫁入りっ!?」
「すまん。やっぱお前黙れ」
その後、兵頭はこの前に引き続き、頭にたんこぶ(作り物)を抱えながら昼を過ごすことになった。
……どっから出してんだ、そのたんこぶ…。
キーワードにツンデレ主人公を追加しようかどうしようか…。
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明日は『陰キャ男子高校生と天真爛漫なアイドル』を投稿する予定です。
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こちらには三澄乙葉の義母。江月監督もいますので、監督としての彼女の一面を知ることが出来ます。




