世界最強の称号の行方 後編
迷宮都市で食堂を営業しているシュン達。
客層は、魔物討伐に参加していた冒険者や、ダンジョンに潜っていた冒険者などが集まる。 年齢は30代が多い。
「毎週末、ここの料理食べて、エールを飲めると、今週も生きてるって思うよ」
と言ったのはカウンター席に座る20代後半の冒険者で、疲れた表情ではあるが、エールを飲んで活き活きし、追加でエールやら料理を配膳しているコリーに言っている。
「そうなんですね。 皆さん、お疲れのようで」
そんな冒険者の言葉に便乗してテーブル席に座っているギルト隊員達も、口ぐちに言う。
「あー、何ていってもよー。 毎週毎週、魔物の氾濫で、いつ命落とすかってっ思うと、ここのエール飲んで、生きてるって実感すんのよぉ~」
「俺もだ。」
「ぃて言ってもよ、全帝様に助けてもらってるがな」と他の冒険者がいう。
「全帝様ってすごいんですね」
そう言ったのはコリーで、ただ客との会話の相槌で言っているにすぎない。
「「世界最強だよ!」」
「1万の魔物を攻撃魔法で殲滅するしな」
「俺、10万っていうのもきいたぜ!」
こうして、店内にいる客が、口をそろえて、全帝の活躍についてやや興奮しながら盛り上がるのであった。
「世界最強の称号のランクXを与えるべきだって、みんないってるよな」
「なんでも、王と魔道国家の王と本部のギルドマスターが反対してるらしいぜ」
「なんでだ?」
「それが、理由いわないらしいんだ」
「変だよな。」
そんな会話が食堂の客同士で繰り広げられている。 ここ食堂に来る客同士でももっぱら話題は魔物の氾濫や、全帝の活躍だったり、今日のように、ランクXについての話題がほとんどである。
そんなある日の食堂の閉店時間まぎわ、50代の男性が1人で来店する。 既に店内に客はいない。
「まだ、空いてますか?」
「ええ、カウンターでよろしいでしょうか?」
その男に対応したのはコリーで、カウンターまで案内をする。
「注文は?」
「ワインと、ピザとフライドポテトでお願いします。」
俺が厨房からその男に聞く。 俺は注文された料理を作っている間、リンはその男にワインの小樽とグラスを提供し、食堂のドアの看板を”Close”にしている。 少ししてから、その男に料理を提供し、俺は俺らの賄いも用意した。 リンとコリーは賄いをもって事務所へ向かっていった。
ようやく来たか、と思いつつ、俺は自分の賄いとエール数本をもってその男の隣に座る。
「んで、何かようか? ギルドマスターさん」
そう俺が言うと、男は少し驚きつつも、申し訳そうな顔をしている。
俺は俺で、来なければそれでいいかと思っていたから、エールを飲みタバコに火を付けて一服している。
「こちらに来るのが遅くなり申し訳ありません。 まさか、口伝で架空のお話かと思っており、実際ここに来るまでも、今も信じられなくて。。 私は本部ギルドマスターの、ジョン・フリークスです。 今回のご来訪の目的を教えていただけないでしょうか?」
そう聞いて、俺は笑うしかなかった。 まぁ、仕方ないけどさ。
「架空かよ! まぁそうなるのかもな。。」
「申し訳ありません。 黒帝の縁者様」
そう言って、頭を深く下げてるギルドマスターのジョン。
「俺、そういうのきれーなんだ まぁ、食えよ」
俺は笑いながら、ジョンに賄いつでに追加で作ったソーセージを勧めた。
「本当に美味しいです」
そういって、ジョンは料理とワインに舌鼓している。
「そうかい。 本題だな。 あんま多くの事はいえねーが、俺はいま傍観者だ。 異物が混入してんがな。 あと、俺が調停者として動くときは、邪魔すんな。」
「どういう事でしょうか?」
俺は、意味がわからないという表情で困っているジョンに、俺はニタリと笑うだけにした。 今の時点で教えても面白みもないからだ。 そんな俺を見て、これ以上は聞けないとおもったジョンは、会計を済ませて食堂を後にするのだった。
ジョンが帰った食堂。
「どうだった?」
「リン、やっぱ俺ら架空の人物だってよ!」
「そうなるな」
俺たちは、お互いエールを飲みながら苦笑いしている。 コリーも笑っている。
「やっと来たし、ここも閉店して、拠店にもどるか」
「うん、人間との生活にわれも疲れた」
「ああ、あんま関係はねぇーようにしてんけど、お花畑と繋がってるよなぁー」
この日の深夜に『ボブの食堂』は閉店され、あった場所からも店自体がなくなるのだった。
後日、ジョンが訪れるが、あの夜は夢だったかのように、やはり店自体がみつからなくなるのであった。
◇◇◇
それから、結局世論や貴族達の圧力により、国王は、ランクXの称号を全帝に与えるのであった。
その称号授与式は、盛大に行われる。
また王都をハーレムたちとパレードする全帝 ヴィンスは、その際素性を明かし世の女性からも金髪碧眼の容姿端麗な姿を見てもてはやされ、若く美丈夫な姿は、それこそ物語のように見え国民中から英雄として賞賛されるのであった。
カイルは、水帝として授与式に参加していたが、特に素性もあかす事なく、また学園卒業後は帝の任務についてもヴィンスに絡まれる事がなく、ようやく解放されていたので、ただただ持て囃されて上機嫌に皆に手を振っているヴィンスとハーレム達の姿を呆れてみているのであった。
一方、独りシュンに会ったジョンは、そのパレードを見ながらごちるのだった。
「世論で仕方なく称号を与えてしまいましたが、黒帝の縁者様のほうが、ヴィンスより数倍容姿が良かったのように思えるのですが、曖昧なんですよね」
「フリークス家の黒帝コレクションによると、縁者様はあまり称号やランクについては気にしないとか。 また縁者様はみな容姿が良いようですが、それも本当の素顔ではないそうです。 実際あった歴代当主たちの記載でも、みな特長が思えだせないようで。。」
「どうも、そうのようですね。」
そう言いながらも、ジョンは、今後どのようになっていくのか心の中での不安は消えないのである。