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風の唄  作者: 安曇 東成


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十章 二 王の誕生


 伝令が謁見の間に飛び込んでくる。


「ヨーグラン国パリス王より手紙をお預かりして参りました」


 ヨーグラン国ではアライモス王が亡くなった後、アガーテ村の村長パリスが王となっていた。アガーテ村の村長であったパリスはアライモス王の遠縁であったため、即位に至ったのだ。

 大臣は伝令を労うと手紙を受け取ってバルシネ女王に差し出す。女王は「読め」と言ったので大臣は手紙を開いて読み上げた。

 

「『此度フレンツ国において後継を決められると聞き及び、ここにフェリアス王女支持の意向を表明する』」


 大臣は一度そこで読むのを止めた。場は騒めく。女王は目くばせし、続きを読ませる。


「『アガーテ村を襲った地龍を討伐いただいた恩は忘れておりませぬ。貴女程の英雄はおりますまい。村の皆も会いたがっております』……以上です」


 謁見の間にいる他の大臣や官吏達はざわつく。「フェリアス様が地龍を?」「フェリアス様はパリス王と面識がおありなのか」など私語が飛び交った。


「パリス? あぁあのおねしょしちゃった村長さんかぁ……王様になったんだ」


 バルシネは鼻から大きく息を吐く。


「こんなものをわざわざ寄越すとは、ヨーグラン国も堕ちたものよ。さて、やはり後継者は……」


 バルシネがそこまで言ったところで再度別の伝令が広間に飛び込んできた。


「伝令! ヨーグラン国デメトリオス商会より手紙をお預かりして参りました」


 官吏達はまた私語を始める。「デメトリオス商会ってここ数年でとてつもない成果を上げている狩猟組合だろう? 成龍も狩ったと聞いたぞ」「あぁ、東側では一番勢いがある組合だ。あちこちに支部もできているらしい」「東側最大手の狩猟組合からフレンツに何の手紙だ?」


 大臣は手紙を受け取ると同じように内容を読み上げた。

 

「『フレンツの後継者を決めるというなら、東側狩猟組合を代表し、このデメトリオスがフェリアス王女に一票を投じさせていただく。地蛇討伐における貴女のご助力、感謝申し上げる』……以上です」


「デメトリオスさんの組合、うまくいったのね、よかった」


 バルシネは片眉を上げて嫌悪に顔を歪ませた。しかし、東側最大の狩猟組合、デメトリオス商会の意向を無下にすることも難しい。


「またか。東側はどいつも節穴ではないのか」


「伝令ー!!」

「次はどこじゃ」


 女王バルシネが言うと伝令は畏まった。


「ナ、ナ、ナルニアス国王、ヘ、ヘレクトー、ヘレクトール様からのお手紙をおあず、お預かりして参りました!」


 伝令は噛みまくってほとんど聞き取れなかったが、大臣は手紙を引っ手繰ると読み上げた。


「『貴国フレンツにおいて次代の王にはフェリアス王女が相応しく、ここに推薦の意を表す。フェリアス殿とは二度酒を酌み交わした友人でもあり、我が国の魔に侵されし村の浄化にも一役担っていただいた。誠に感謝申し上げる』……以上です」


 官吏達はより一層騒めいた。二年前にナルニアス国のリュサンドロス王が亡くなり、後を継いだのはヘレクトール王子。この王子は剣闘士として十五年もの間活躍し、ついに自由を手に入れた話は有名だ。「あの剣闘王へレクトール……だよな? そんな方とフェリアス様がご友人?」「ナルニアス国は武の国。そこの王と酒を酌み交わすってどんな関係だよ」 広間はざわついた。


「ヘレクトールさんは相変わらずね。いろいろ迷惑かけちゃったから申し訳ないなぁ」


 バルシネは玉座の肘おきを叩いて怒鳴る。


「えぇい! ナルニアス国まで、一体なんだというのだ!」


 その時また謁見の間に兵士が飛び込んでくる。


「伝令ーーー!」


 女王バルシネはもう呆れ顔で大臣を目で指示した。

 

「剣術師範、エウドロス殿からお手紙をお預かりして参りました」


 官吏達はもう私語を慎もうとはしていなかった。「エウドロス? かの英雄と同じ名前の、最強と謳われる剣士か!?」「たしかまだ十七かそこらのはずだが」「今年の剣術大会ではアウラダ様を抑えて堂々の優勝だったとか」


「オホン! では読み上げます。『フレンツ国の後継者ならフェリアスがいいな。なんせ俺の師匠なんだ。クヘン流のね。』……以上です」


 場は一層ざわついた。もはや女王の声も聞こえない。「最強剣士の師匠がフェリアス様? どうなってんだ?」


「エウドロス君、あれから強くなったんだ~。彼、大会にお酒を飲んで出場して失格になったんだよ」


「伝令!!」


 官吏達は「またか」という顔で広間の入り口を見た。もう驚きすぎて慣れてきたのだ。


「次はどこの国だ?」


 大臣がぞんざいに言うと伝令は直立不動で声を張った。


「歌手、ロクサネよりお手紙をお預かりして参りました!」


 もう大抵のことでは驚かないと思っていた官吏達は目を回して倒れた。「ロクサネって、世界一の歌手じゃないか!?」「あのロクサネか? 超憧れてるんだ、俺」「私、先月隣の国の劇場まで行って音楽会を見てきたわ! 最高だった!」「ロクサネの歌声は天使のようだ」


 大臣が手紙を読み上げるとみんな静まった。


「『フェリアス様、おひさしゅうございます。もし、フェリアス様が女王と成られた暁には、フレンツ国国歌をあなたの国の劇場で歌わせていただきたいですわ。フェリアス様が歌の道を示してくださらなかったら、私は今でもあの修道院にいたと思います。あ、マーサはまだお元気のようですわ。では、フレンツでお会いできることを楽しみにしております』……以上です」


 ロクサネという歌手の名前は絶大で、すでに場は熱狂していた。指笛を鳴らす者までいる。大臣は皆の様子に呆気に取られている。

 

「フェリアス様……どれほどの……」


「あー、ロクサネと会いたいなぁ。また酒場で一緒に歌いたいわね」


「伝令ーーー! 大賢者キーロ様よりお手紙をお預かりして参りました!」


 大賢者キーロと言えば影鬼の討伐で街を救ったことで有名な魔法使いだ。現在、彼が教鞭をとる学院からは優秀な人材が排出されることで名を上げていた。フレンツからも留学生が多数いる。


 バルシネも国ぐるみでの付き合いがある大賢者キーロの名は知っており、目を見開いた。大臣が手紙を読み上げる。


「『フレンツ国後継者にはフェリアス殿を支持する旨を表意致す。フェリアス殿には影鬼討伐にあたって私に大いに力を貸していただいた友人であられる。もしこの手紙をフェリアス殿が読まれているのであれば、是非またあの秘境でご一緒したいものです』……以上です」


「あの別荘、景色がとっても綺麗だったわね。ストロピウスさんも元気なのかしら」


 最後は、伝令ではなく使者と名乗る者が謁見の間に入ってきた。その人物は礼服に身を包んだ長いクセのある銀髪に銀の瞳。案内をした衛兵が声を張り上げる。


「こちらはマルキアナ国、王弟殿下のシルヴァンティス様になります」


二年近くかけ、ようやくここまでこれました。

これが書きたくて、一から積み上げてきました。

ようやく最後のパーツが積み上がります。

我慢できないので、連続投稿しちゃいます。

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