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風の唄  作者: 安曇 東成


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九章 四 勇気の魔法


 火龍が近くで炎を吐き出し、兵士達の悲鳴が聞こえる。統制はとれなくなってきており、兵はバラバラになりつつあった。このままでは二師(五千)の兵が無駄死にするだけだ。ベラスケスはなんとか兵をまとめようとしていたが、ほとんどの兵は恐怖に駆られておりその場で膝を落とす者や、人が多いほうに逃げる者などとてもまとめられそうにない。

 

 (シルバーさんがいたら、きっと斃してくれるのに……)


 だがこの場にいない人間のことを考えていてもしょうがない。このまま殺されるか、抵抗するかだ。フェリアスはなんとかしなければ、と考えた。

 

 辺りは肉と草の焼ける匂いでむせ返りそうだった。幼体の火龍はついに力尽きたのか、大きな宝珠となっている。フェリアスは思い切って陣を飛び出し、宝珠に向かって駆けた。

 

「フェリアス様! どちらへ!? どうかお戻りくだされ!」


 ベラスケスが焦って引き留めたがフェリアスは振り返らずに走り続けた。幸い火龍は円周の逆側を飛んでおり、今なら見つからない。しかし、ベラスケスの周囲にいた上級兵士達はフェリアスを見て叫んだ。


「王女が我々を見捨てた!」

「王女は一人逃げるおつもりか!」


 兵士たちはますます恐慌状態となる。それを見たベラスケスは上級兵士に怒鳴りつける。


「お前たち、よさないか! 兵の不安をあおってどうする!」

「は、失礼しました、しかし王女が逃げたのは事実です!」


 ベラスケスはフェリアスが走る先を見つめ、小さく頷いた。


「フェリアス様は逃げてなどおられない。誰よりもこの戦いに勝つつもりでいらっしゃる」

「は? 勝つ? あの火龍を相手にですか?」

「そうだ。 お前たち、フェリアス様が安全に戻られるよう、援護をするのだ!」


 上級兵士達は大盾を手に陣を飛び出し、フェリアスが戻ってこられるよう等間隔に並んだ。やがてフェリアスは宝珠を手にすると反転、先ほどの陣に引き返す。

 

 だが、ちょうどその時には龍が半周をまわり、フェリアスの近くに飛翔。龍は炎を吐き出した。熱風が迫り、観念したフェリアスだったが、大盾を持つ上級兵士達がフェリアスをかばい、炎の直撃を避けることができた。

 

「フェリアス様、ご無事ですか! さぁ早く!」


 上級兵士達はフェリアスを囲み、陣まで連れていってくれた。フェリアスはベラスケスに縋りつくようにお願いをした。


「ベラスケスさん、お願いがあるの」

「は、いかような」

「兵士達をできるだけ集めて。それから弓を持たせて欲しいの」

「弓ですか。火龍には通りませんが」

「大丈夫、通るわ。私が強化するから」

「『勇気の魔法』ですか。それは頼もしい。承知しました。すぐに兵士を招集します!」


 ベラスケスは伝令に指示を飛ばし、兵士達を集めさせた。それを聞いていた上級兵士達は目を見合わせた。


「『勇気の魔法』がどれほどのものかわからないが……」

「このまま全滅するよりはいい。やってやろうじゃないか!」


 やがて、集まった兵士は元の半数程度(一師)程度になっていた。これで足りるだろうか。フェリアスは不安を感じる。


 火龍は兵士が集まった所を認めたのか、一直線に向かってくる。


「気づかれたわ。急ぐわよ! 全員、私が強化したら号令に合わせて弓を射つのよ!!」


 フェリアスは大きく息を吸い込むと、巨大な宝珠を手に、全力で強化魔法『王師輝滅陣法(デイア・モンド)』を兵士達にかける。金色の竜巻が周囲に広がり、兵士達を包むと、兵士達の目の色が変わった。


 ベラスケスが号令。


「全軍、構え!!」

「「「応!!」」」


 兵士に乱れは一切無かった。

 

 火龍は一直線に飛び、最高速度に達していた。まだ通常の弓の射程では届かないが、フェリアスはいけると感じた。


「今よ!! 放て!!」


 フェリアスの号令で、兵士達は一斉に矢を射出。全ての矢は異常な速度で飛び、火龍の硬い鱗を易々と貫通。一瞬で龍を蜂の巣にする。中には龍の身体を貫通して抜ける矢もあるほどだった。

 

 龍は苦悶の咆哮を上げたが、まだ人間達に最後の一撃を喰らわせようとしている。あの巨大質量の体当たりだけでも大きな損害を受けてしまうだろう。


「まずい、突っ込んでくるわ」


 フェリアスはベラスケスの剣を奪うと前に出る。


「な、何をなさるおつもりで!!」


 ベラスケスは前に出ようとしたフェリアスを止める。だがフェリアスは左手を横に出して制した。


 それから両手で剣を持ち、大きく跳躍する。『王師輝滅陣法(デイア・モンド)』で強化されたフェリアスは高く舞い上がる。


 そうして見様見真似ではあるが、何度も見た、あの技を放つ。


「『閃空斬』!!」


 フェリアスが振り下ろした刃からは銀色の閃光が伸び、巨大な爬虫類を縦に両断する。フェリアスが着地すると遅れて両断された火龍が内蔵をブチ撒けながら空中で分解。やがてそれは七色に輝く美しい巨大な宝珠へと変わる。


 兵士達は大歓声。ベラスケスは呆然と龍の消えた虚空を見つめている。


「うぉぉぉ! フェリアス様が!!」

「すっげぇぇぇ! 一撃だ!!」

「俺の矢も命中したぜ!」


 フェリアスは剣をベラスケスに返す。


「これ、ありがとう。おかげで斃せたわ」

「あ、いえ……」


 ベラスケスは言葉を失い、その場に膝を着いて叩頭した。それを見た周囲の兵達も同じように膝を着く。いつの間にか全軍が、フェリアスを中心に膝をついて礼をしていた。


「皆、いいのよ。皆が矢を命中させて、勢いが遅くなったから私が剣を振る時間ができたんだもの、全員の勝利よ!」


 そこに兵士の一人が超巨大な宝珠をフェリアスに渡す。火龍のものだ。


 フェリアスは宝珠を右手に持ち、それを高く掲げた。


「我らの勝利よ!!」


 兵士たちは勝どきの声を上げる。それはいつまでも鳴りやむことはなかった。

 

 やがて城に帰還したフェリアス達は城主であるアイネイアースに火龍二匹の討伐を報告すると超巨大な宝珠を戦利品として渡す。これだけで軽く城がいくつか買えてしまうほどのものだ。


 その晩は戦勝会が開かれることとなり、フェリアスは一番の功労者としてアイネイアースよりその名誉が与えられる。


「もう堅苦しいのは終わり? よぉし、飲むゾ~」


 その後、フェリアスはアイネイアースにベラスケスなどを巻き込んで飲みまくり、朝には城中の酒を全て飲んでしまっていた。


 そうして、ついにエルデファロンから迎えの使者が来た。

少し短いですが、九章はこれで終わりです。

いよいよ最終章になります。

あとしばらく、お付き合いください。

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