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風の唄  作者: 安曇 東成


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八章 一 武か、知か、徳か


 マルキアナ国には三人の王子がいた。フィノメイア、エウクレイデス、アルシノエスは皆父親譲りの美しい銀髪をし、銀色の瞳をしていた。

 国王はまだ五十路に差し掛かったところだったが病に伏せてしまい、もう先は長くないと言われていた。大臣たちは次期国王についての噂話をしている。


「フィノメイア様は武芸に秀でておられる。やはり国王は腕っぷしよ」


 別の大臣は首を振る。


「いやいや、王ともなれば荒事は将軍に任せればよいのだ。それよりも頭脳よ。エウクレイデス様の知識や頭脳の回転の速さはこの国でも随一。エウクレイデス様こそふさわしいのでは」


 それを聞いて宰相も会話に混じる。


「アルシノエス様は何より民におやさしいお方。城下に下られた際の民の人気は誰もが認めるところ」


 三人はそこからも熱く話し合いを続ける。国の未来を託すにふさわしいのは、武か、知か、徳か。

 王が武人であれば、軍を率いる将軍らに舐められないし、軍人が政治に口出すことが無くなる。また、戦争や魔物との戦いにおいても率先した指揮が期待できるし内政においても決断が早そうである。一方文人であれば苛烈なことは好まず平和な治世が期待できるし、内政が充実して国力の底上げができるに違いない。人徳があれば民はよく働き各地の反乱は減って国は一つになれるだろう。


 大臣たちの話は噂だけに終わらなかった。もし、王子同士の王位争奪戦が起こった場合、『誰につくのか』を探り合う。もし負ける陣営についてしまったら一巻の終わりだし、逆に勝つことができれば重用してもらえるだろう。どの陣営にもつかない選択もあるが、「お前は誰の味方なんだ」と迫られたらいずれどこかの陣営につかねばならない。仮に中立の立場で逃げ延びたとしても、王は自分を支えてくれた人間を重用するから中立の人間は閑職に追いやられるのは見えていた。

 

 やがては大臣の部下、そのまた部下へと話は波及し派閥を形成していく。自分たちの陣営が少しでも有利になるように賄賂で味方に引き入れるのは当たり前、他にも脅しや威圧、色仕掛けなど使える謀略は全て使われた。


 今や、王城は完全に三つに割れていた。第一王子フィノメイアと第二王子エウクレイデスの二人の勢力がほぼ拮抗し、第三王子アルシノエスの勢力は小さい。


 やがて第一王子の派閥は『獅子』第二王子の派閥は『蛇』、第三王子の派閥は『鷹』と呼ばれるようになった。

 

 当事者である王子自身も争奪戦の機運が高まっていることは把握している。三人はそれなりに野心もあり、誰かに王を譲るつもりは毛頭なかった。自分たちはこれまで「次の王」として育てられたのだ。他の生き方などできようはずもない。


 それぞれが水面下で軍を用意し、武器を揃えあとは「いつ決行するか」という状態にまでに事態は進行していた。


 ある日、王城の近くに棲みついた強大な魔物、双頭蛇龍の討伐に三名の王子が任命され、それぞれが軍を引き連れて向かった。蛇龍の巣は岩棚にあって軍で攻め込むことはできなかったが、毎日平野部に下りてくることは確認されているので、そこで待ち構える。

 

 見張りから蛇龍が現れたとの報告が入り、まず先陣をきって動いたのはフィノメイア第一王子だ。武勇に名高いこの王子は馬を駆って自ら先頭を走り、蛇龍に向かっていく。蛇龍は大人十人分くらいの長さがあり、頭部が二つに別れた蛇のような魔物だ。頭部が龍の頭部と似ているので蛇龍と言われる。

 

 フィノメイアは走る馬の上で立ち上がると剣を構え、蛇龍とすれ違いざまに飛び上がり、もたげた首の一つを狙って剣を振るう。


 鋭い剣筋は狙いたがわず蛇龍の首を撥ね飛ばし、傷から大量の血液が噴き出した。それを見た兵士は歓声を上げる。

 

「さすがフィノメイア様だ! 蛇龍を自ら手討ちにされるとは!」

「なんという武勇! フィノメイア様は恐れを知らぬ!」


 これを見ていたエウクレイデス第二王子もすかさず命令を下す。


「もう一つの首に縄を! 蛇龍を逃がすな!」


 兵士達は迅速に動き、蛇龍に先に分銅がついた縄を次々と投げつける。蛇龍が巨体を捻ると縄を持つ兵士は次々と吹き飛ばされたが、縄の数が二十本にもなるとさしもの蛇龍も動きが止まる。


「いいぞ! 後は私がやる!」


 エウクレイデスは風の刃の魔法を放ち、残った蛇龍の首を撥ね飛ばした。その瞬間、先ほどにも劣らない歓声があがる。


「エウクレイデス様の采配の的確たるや!」

「魔法についても秀でておいでだ!」


 こうして双頭蛇龍の首は両方とも撥ねられ討伐は成しえたかに見えたが、蛇龍は宝珠にならなかった。近くの兵士が不審に感じて蛇龍の胴体を得物でつついてみる。


「死んでるよな?」


 その時、蛇龍の首が両方とも再生。たちまち元の姿に戻ってしまう。それを見た第一王子と第二王子は頭に血が昇り、躍起になって蛇龍に襲い掛かる。蛇龍も右の首からは毒を吐き、左の首からは炎を吐いたりと反撃をし、両軍の兵士達は削られていった。蛇龍の首は幾度となく飛ばしているが、すぐに再生してしまうのだ。

 

 アルシノエス第三王子はその様子を見る。すると一人の兵士が民間人の男性を連れてきた。どうやら地元の猟師らしい。アルシノエス王子は馬を下りると両手を広げて猟師を歓迎する。


「王子、この猟師が蛇龍に詳しいようです」

「ご苦労、わざわざすまないね」

「とんでもねぇ。軍が討伐してくれるならこれくらい御安い御用でさぁ」

「それで双頭蛇龍の斃し方を知っているのかい?」

「これは猟師の間でしか知られちゃおりませんが、双頭蛇龍は両方の首を同時に撥ねなければ死にやせんのでさ。今のやり方では一生斃せねぇです」

「……なるほど、二つの首を同時に、だね。ありがとう助かったよ」

「へぇ」


 猟師に礼金をやると喜んでお辞儀をし、下がっていった。


「みんな、聞いていただろう? フィノメイアとエウクレイデスの軍が引いたら、僕たちで斃すんだ。いいね」


 アルシノエスがそう言うと、兵士達は勝利を確信。


「「応!」」


 やがて第一王子、第二王子の軍は消耗し、一旦撤退を始めた。それを見て第三王子の軍が向かっていく。第三王子の軍の数はかなり少なく、明らかに戦力不足に見えた。それを見ていた第一王子軍の兵士は不安を口にする。


「おい、俺たちでもダメだったのに、あんな少数で挑むのかよ」

「死にに行くようなものだ、蛇龍は不死身なんだ」


 ところが、第三王子の軍が両方の首を縄にかけ、同時に撥ね飛ばすと蛇龍はたちまち巨大な宝珠となった。あっさり討伐してしまったのだ。兵士たちは第三王子を讃える。

 

「これも地元の民の声に耳を傾けるアルシノエス様だからできたことだ」

「アルシノエス様は猟師一人の言葉も真摯に聞いてくださる」

「アルシノエス様の軍が一番被害が少なかったんだって?」


 双頭蛇龍の宝珠を王城に持ち帰った第三王子は病床に伏せる王からねぎらいの言葉を受けた。


「よくやった。今回の討伐で儂の後継者についても結論が出たであろう。皆、異論はないな」


 王の言葉に反論できるものなどいなかった。


 そこに一人の文官が王に耳打ちをした。


「王よ。一応お耳に入れておきたいことがございます」

「申せ」

「以前王が遊行に回られた際に手をつけられた下女(げじょ)(身の回りの世話係)に子ができておるようです」

「下女の子なぞ知らぬ。適当に金を握らせて黙らせろ」

「は。そのように」


 文官が去ると王は忌々しげに呟く。


「下女の子なぞ王宮には不要……」


ようやく八章のプロットもできたので進みました。

マルキアナ国はシルバーの故郷です。

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