七章 四 絶対討伐してくれようぞ
四
キーロは別邸で過ごす充実した日々を感じると共に、クレシェーボの行く末を考える。影鬼が回復するであろう二月までもう何日もなかった。回復した影鬼は間違いなくクレシェーボの街に復讐するだろう。その時、街を守れるのは自分しかいないかもしれない。毒沼龍をも斃すシルバーとフェリアス、この二人の力を借りれば影鬼の討伐は叶うのかもしれなかったが、キーロは彼らに頼るつもりはなかった。これは自分がやらねばならないことだ。
ある日の夜、キーロは二人に相談をした。
「儂は街に帰って影鬼を討伐しようと思う」
その言葉に反応したのはシルバーだった。
「影鬼か。あれは剣で斃せない危険な魔物だ」
「左様。魔法で斃すにしても、高位のものでなければ通用せん」
フェリアスは少し考えて話す。
「……そういえば、キーロさんがここに来た理由を聞いていなかったわね」
「一度影鬼と戦い、負けたのじゃよ。それで落ち込んでいるところをストロピウスにここを勧められた。影鬼には手傷は負わせたが、回復したらまた街に来る」
「……そう。頑張ってね」
フェリアスは「私たちも手伝うわよ」とは言わなかったし、それがキーロにとってもありがたかった。もし手伝う、と申し出られたら甘えていたかもしれない。いや、おそらくはフェリアスはわかっているのだ。これは自分がやるべきことで、そしてそれが出来ると信じてくれている。
キーロの心は燃えた。絶対討伐してくれようぞ。
翌日、キーロは別邸を去り、街への帰路についた。フェリアス達は手を振って見送ってくれた。彼らも回復次第別邸を去るそうで、そのまま旅を続けるそうだ。もう会うことは無いのかもしれない。しかし、討伐すればその噂は耳に入るだろう。
キーロは街に帰ると、ストロピウスを訪ね、影鬼討伐を改めて引き受ける旨を申し出た。ストロピウスはキーロの表情を見るなり確信する。
(あぁ、賢者はもう大丈夫だ)
影鬼はそろそろ回復し街を襲いに来る。影鬼は夜にしか現れないため、軍は昼夜逆転の生活となり夜は見張りを続けていた。そして、ついにその日が来た。
陣営で待機するキーロに伝令が駆け込んでくる。
「来ました! 影鬼です!」
「来おったか! 案内せい!」
キーロは馬に乗ると伝令に案内されて出現地へ急行。すでに戦いは始まっており、遠くから兵士の悲鳴が聞こえてくる。
女術士のミラは火炎の魔法を繰り出し、影鬼と交戦していた。だが影鬼は一向に斃れず、漆黒の牙を剥いて兵士を薙ぎ倒しながら向かってきている。ミラは電撃の魔法を構えたが、影鬼が影に潜り見失う。
するとミラの足元から影鬼の手が伸び、ミラを強打。ミラは悲鳴を上げて吹き飛び、木に叩きつけられた。
「うぅ……」
ミラは背中を強打して起き上がれない。影鬼は影から姿を現し、ミラに止めをさそうとした時、影鬼は無視できない声を聞いた。
「儂はここじゃ、影鬼よ!」
影鬼は自分に手傷を負わせた人間を覚えていた。影鬼はミラのことは完全に無視し、キーロに向かって冷たい夜風のように突進。
キーロは高位の爆炎魔法を繰り出し、影鬼を攻撃。影鬼は腕を交差させて防御。轟音と共に周囲の土が舞い、木が大きくしなる。
「この程度では影鬼は死なん! 皆、ここから離れよ!」
キーロはそう言うと大きな宝珠を掴み、魔力を集中。ほとばしる魔力は以前の戦いの時よりもさらに大きく、周囲を震わせる。兵士たちはミラを抱えて大きく下がっていた。
煙が晴れると影鬼は怒りの形相。空に向かって咆哮するとキーロに向かって突進。
(これは絶対外さん!)
「喰らえ! これが儂の全力全開、『爆縛妖真獄炎淵覇』じゃあ!」
キーロが放った『爆縛妖真獄炎淵覇』は以前放ったそれとは次元が違った。爆炎は極光となり、白い炎は影鬼を飲み込み一瞬で蒸発させる。極光は夜空に一筋の線を描き、やがて細くなって消えていった。
キーロは極度の疲労から膝をつくと肩で大きく息をした。見ていた兵士たちは雄叫びを上げる。
「うぉぉ! 賢者様がやったぞ!」
「影鬼が消し飛んだ!」
「勝ったんだ!」
勝利を伝えるために伝令が走ると兵士たちはキーロの元に集まり、肩を貸して起こす。
「当たり前じゃろう! 儂は『大賢者』キーロじゃ!」
こうしてクレシェーボの街は救われた。大賢者キーロは英雄として国からも褒章が出され、軍を率いたシーリーンも王城への栄転が決まった。
クレシェーボの幹部の長、ストロピウスはキーロの邸宅に赴いて今回の戦いについての礼を伝えに行った。
「大賢者殿、この度はお礼の言葉もありませぬ」
「いいんじゃ、一度失敗もしてしまったしな。無駄に兵士達を死なせてしまった」
「いえいえ、大賢者殿がおられなければこの街は影鬼に滅ぼされておりました。貴方はまさに英雄です」
ストロピウスは頭を下げる。キーロはストロピウスの肩に手をやる。
「礼を言うのはこちらの方なのだ。儂をあの山奥の別邸に向かわせてくれた其方にこそ、礼を言いたい」
ストロピウスは顔を上げて微笑む。
「あの別邸がお気に召しましたか?」
キーロは大きく笑いながら言う。
「いやぁ、フェリアスの尻枕は最高じゃったの!」
七章はこれで終わりです。最後は思ったより短くなりました。
でも結構書きたかったことは書けたと思います。
感想等、お待ちしております。
当初目標は十章で完結でしたがこの調子で終われるのだろうか。(無理そう)




