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風の唄  作者: 安曇 東成


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七章 二 影鬼との交戦


 いよいよ影鬼討伐が開始された。討伐は影鬼が現れる夜にしかできない。軍は街の外に陣地を構え、賢者キーロもその中にいた。シーリーンが賢者に号令をお願いする。


「賢者殿。日も暮れました。そろそろご準備を」


 賢者は少し眠そうな表情となっている。


「ふわぁ……いつもはもう寝る時間じゃ。さっき飯を食ったら眠くなってきたのう」

「ご冗談を。影鬼が出たら目も醒めますでしょう」


 そう言ってシーリーンは伝令に影鬼を見逃さないように見張りを怠らないよう伝える。街には外壁があり、夜は門も閉じる。影鬼は影に潜って移動ができるので、壁があろうが門があろうが関係なく街に侵入してくる。そのため、街の外で魔法の光を灯して、街につながる影がないようにして見張っていた。


 夜半も過ぎ、兵士達の緊張も緩んだ頃、南東の門がざわついた。見張りの兵士たちは確認し合う。


「今、あの道の奥に黒い影が見えなかったか?」

「いや、わからなかった」

「見ろ、やっぱりいるぞ! 警報!」


挿絵(By みてみん)


 兵士が指さす先の暗がりには巨大な黒い影が立っていた。兵士は警鍾を鳴らす。たちまち周囲の兵士達は集まり、伝令が四方に走った。


「囲め! 影鬼に影を踏まれるな! 寿命を吸われるぞ!」

「魔法使いを呼べ!」


 兵士達は棒や投げ網を使って影鬼の動きを封じようとするがまったく通じない。それどころか影鬼が腕を一度振るうだけで五、六人もの兵士が薙ぎ倒されていく。


「うわぁ!」

「腕が折れた!」

「助けてくれー!」


 兵士達の悲鳴が響く中、一筋の稲妻が影鬼を撃った。影鬼は小さな呻き声を上げると稲妻が飛んできた先を睨む。そこには若い女の術士が兵士達に囲まれていた。


「もう見つかった。あ、あんたたちしっかり守ってよね!」


 女の術士は次の宝珠を握りしめると再び魔法を発動していく。次は火炎の魔法を放った。火炎は狙いたがわず影鬼に命中。影鬼は目を押さえて苦しむ。それを見た兵士達は歓声を上げた。


「いいぞー! その調子で斃してしまえ!」

「賢者に任せるまでもない、ミラ、お前が決めろ!」


 さらに反対側からも男性の術士が駆けつける。男性の術士は影鬼が影に逃げないように植物の蔦で影鬼を縛る魔法を発動。無数の蔦が影鬼の足に絡む。この蔦は魔法でできているので物理が通用しない影鬼を縛ることができた。


「よし、いいぞー! このままやっちまえ!」


 二人の魔術士は宝珠を使い、魔法を次々と叩きこんでいく。影鬼は確かに苦しんではいるが、一向に斃れる気配はない。


 その時、影鬼から強烈な魔力の波動が放たれた。


「魔法!? 影鬼が!?」


 影鬼は両手から風切りの魔法を放った。風切りは周囲の兵士をなますのように切り裂き、魔術士にかけられた足の拘束も風の刃にちぎられてしまう。拘束が解けた瞬間、影鬼は女の術士に向かって跳躍。兵士達は上を見上げたが、夜空に紛れてしまい完全に見失ってしまう。


「くそ! どこだ!?」

「上じゃないのか?」


 兵士達は必死に夜空を見上げて探していたが、女術士の乗る馬の影から影鬼が現れる。


 女術士が悲鳴を上げると兵士達も気づいて影鬼に殺到する。魔法使いを殺させるわけにはいかない。影鬼は術士を狙ったが、兵士達の必死の肉盾に阻まれていた。兵士は命を投げ出して魔法使いを護る。影鬼はその恐ろしい力で兵士達を引き裂き、ゴミのように投げ飛ばした。


 女術士は周りを兵士に囲まれながら宝珠を握りしめ魔法を発動。一段と巨大な稲妻が放射され、影鬼を攻撃。いかに影鬼といえど光速に近い雷撃を躱すことなどできず被弾。かなり効果があったのか、影鬼は地面に片膝をついた。兵士が歓声をあげようとした瞬間、影鬼はその姿勢から前に跳躍。一気に女術士の馬ごと突き飛ばした。女術士は馬から投げ出され気絶。


 影鬼がゆっくり女術士に近づいた時、兵士達が歓声を上げた。


「賢者が着いたぞ!」


 キーロは気を失った女術士に駆け寄ると肩を掴んで軽く揺する。


「おい、しっかりしろィ! ……ンホォ!?」


 キーロが女術士の肩を揺らすと、豊かな胸も一緒に揺れた。しかし女術士は目を覚まさない。


「こうなったら目覚めの口づけしかないのう!」


 キーロが女術士に顔を近づけると女術士はたちまち目を覚ます。


「だー! 何すんのよ!」


 とキーロを蹴り飛ばす。キーロは頭を掻きながら起き上がる。


「おなごに蹴られるのは嫌いではないが、今のは納得いかんのう」


 女術士が起きたのを見て周囲の兵士が申し出る。


「賢者キーロ! 影鬼はあそこに!」

「……よし、お前ら、儂を全力で守れ。『爆縛妖真獄炎淵覇(カネリ・アンド)』を喰らわせてやる」


 キーロは懐から大きな宝珠を取り出す。おそらくは豪邸が建つ程の値打ちものだ。両手で宝珠を掴み、精神を集中。膨大な魔力が周囲に溢れ、肌がヒリつく感じに兵士達はざわめいた。


「す、すげぇ。俺は魔法なんて使えないがそれでもこの力がすごいのはわかるぜ」

「あぁ! ミラの魔法とは違う」


 当然その波動は影鬼にも伝わる。影鬼は明らかにキーロを目指して突進してくる。このままではすぐに肉薄するだろう。


「賢者を護れ! 踏ん張りどころだ!」


 兵長が号令をかけると兵士たちは命を捨てる覚悟でキーロの前に立ちふさがり、盾を構える。


 影鬼が腕を振るうたび兵士は紙くずのように吹き飛び、血しぶきが舞った。だがそれでも肉盾としての仕事は果たし、時間を稼ぐことができている。やがて魔力は一点に集約し、キーロの魔法は完成した。


「喰らえ! 『爆縛妖真獄炎淵覇(カネリ・アンド)』ッ!!」


 兵士達は一斉に伏せ、影鬼を真正面に捉えた。キーロが放った爆炎はまるで目の前に雷が落ちたかのような轟音とともに影鬼に一直線に伸びる。だが、一瞬だけ早く影鬼が反応したのか、躱されてしまう。

 

 『爆縛妖真獄炎淵覇(カネリ・アンド)』は影鬼の左腕を蒸発させていたが、斃すには至らなかった。影鬼は咆哮。まるで「お前ら絶対許さんぞ!」とでも怒鳴っているかのような怒りを感じる。


 次の瞬間から虐殺が開始。手当たり次第に兵士を殺していく。賢者キーロは高位の魔法を使った消耗から気を失っていたため兵士が馬に乗せてその場を離れていた。

 

 兵士達はしばらく戦っていたものの、やがて散り散りになって撤退。

 

 朝が来た時、街には怪我をした兵士で溢れかえっていた。魔法での治療を受けられる者は比較的早く回復したが、そうでもないものは重傷者として病院に運ばれ、すでに絶命している兵士や街の外で死亡した兵士達も運ばれ埋葬されていく。


 影鬼はそれなりの痛手を負ったため七日経った今でもまだ街には現れていない。とはいえ、斃しきることはできなかったので討伐は失敗だ。

 

 街のはずれの墓地には幹部達が見舞いに来ていた。この街出身の兵もいたらしく、残された妻らしき女性が墓の前で泣いている。女性の肩に手をやり、シーリーンが話す。


「クレイスは賢者を守るため盾となったようです。しかも一番先頭に立って、です。彼は勇敢な男でした」

「……そうですか。お腹には彼の子がいるのです。男の子らしいです」


 婦人がそう答えるとシーリーンはしゃがんで墓に花を手向ける。


「さぞや勇敢な男に育つことでしょう」


 そんなやりとりを見ながら、幹部たちは話し出した。


「一師(二千五百)のうち半数が怪我をし、二百近くも殺されてしまったか」

「影鬼に手傷を与えたとはいえ」

「傷が癒えればまた街に来るだろうな」

「なに、賢者はまだ戦えるのだろう? 次こそは討伐してくれる」


 幹部の一人がそう言ったとき、一人が否定する。

 

「いや、あれ以来キーロは塞ぎこんでいるらしい」

「そうなのか?」

「あぁ、すっかり飲んだくれて見ちゃおれんよ」

「大御所と持ち上げられてはいたが、最近の若い者による突き上げや老いからの焦りもあったのだろう。彼はもう駄目だ」


 影鬼が回復するまでは二月程はかかるだろう、と予測されていた。街としてはもう影鬼を討伐する手段は無いため、可能であればこの期間に別の街に避難することが推奨された。シーリーンはただ影鬼にいいようにやられて手柄無しで帰るわけにもいかず、街が食料を提供してくれる間は残ってくれることになった。


今回は戦闘が多めです。戦闘を長く書くとグダるので、普段はあっさり戦闘を心がけていますが

影鬼の強さを示したかったので長めにしました。


英語縛りも慣れました。異世界なので英語を使うのはダメだと思います。

キス・・・口づけ


次はようやくフェリアス達が登場。なんだが久しぶりですね。

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