表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風の唄  作者: 安曇 東成


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/40

五章 三 結局人間は目の前の欲望に抗えない


 今年も黒百合が咲く季節が来た。村人達は採掘をやめ、狩猟と採取に切り替えた。グラウコスも冬の間は採掘をしているが、春になると『案内人』に変わる。

 

 ある日、三十代程の女性が一人、エゴティノ村に訪れた。案内人であるグラウコスはその女性を迎える。


「ようこそ、エゴティノへ。観光ですか?」


 女性の身なりはごく普通だった。旅人がよく来ている外套に、背嚢を背負っている。女性は小さく頭を下げるとグラウコスに答えた。


「観光ではなく人探しです。メイトレンという男はこの村に来ませんでしたでしょうか?」

「うーん、この村にはたくさんの人が来られますからね。お名前まではさすがに。特徴とかあれば知っている人がいるかもしれません」

「彼は短剣が得意でした。背は普通くらいで、痩せています。髪は茶色で目も同じで……」


 グラウコスは短剣、と聞いて今年の収穫にあった『高価そうな短剣』がふと頭を過った。だがそれだけの情報では特定には至らない。身体的特徴もありふれたものだ。


「短剣ですか。それだけではいかんともですね。その男性とはどのようなご関係で?」

「婚約者です。本当は今年結婚するはずなのに、エゴティノで魔晶石を掘って結婚資金を作ると言って昨年村を出たきり帰って来なくて」


 グラウコスの胸にわずかだが痛みが走った。


「昨年来られた方達は皆さん掘り終わって村を出られていますね。その男性ももう村にはいないはずです。この辺には魔物も多少は出ますし、盗賊なんかもいるらしいのであるいは、ということも」

「メイトレンは賊や魔物に遅れをとるような男ではないので、村を出たのなら帰ってくるはずなんです」

「……しばらくこの村に滞在されますか?」

「いいえ、彼を探しに行きます」

「そうですか。もし彼がこの村に戻ったら、あなたの事を伝えますよ。お名前を訊いても?」

「……はい。お願いします。私はブラケウスと申します」


 そうして女は去っていった。メイトレンという男は間違いなく谷底で死に、収穫されているだろう。ブラケウスはこの先もずっと婚約者を探して旅を続けるに違いない。

 

 グラウコスにはかける言葉が見つからなかった。自分が殺したようなものなのだ。その日はもう『案内人』をやる気になれず、グラウコスは自宅で天井を見つめながらブラケウスの寂し気な瞳を思い出していた。



 翌日、グラウコスはブラケウスが村にいないか探したが、すでに出発したようで姿は見当たらなかった。もっとも見つけて会ったところで本当の事を話すわけにはいかない。

 

 その日は『案内人』の仕事も休み、酒場で酒を煽っていた。


「よお、グラウコス。昼間っから酒とは景気がいいじゃねぇか」


 そう声をかけてきたのはパッラスだった。


「お前も酒場に来てるじゃねぇか。今日は働く気分じゃねぇんだ」

「俺もさ。毎日な」


 パッラスは同意したが、グラウコスとは違う理由だろう。


「なぁパッラス。前にも話したが、やはりこんなこと間違っていると思わないか」

「あぁ? またその話か。別に俺らは悪くねぇさ。旅人を殺しているのは谷に咲く花なんだぜ」

「だからさ、この時期に谷に旅人を行かせるのは止めるべきじゃないかと思うんだ」


 パッラスは呆れたようにため息を吐いた。


「前にもそう言って止めようとしたやつもいたんだ。でもなんでそうならなかったと思う?」


 パッラスに質問され、グラウコスは考えたがわからなかった。首を横に振るとパッラスは居ずまいを正す。

 

「引き留めても結局旅人は掘りに行ってしまうんだ。この時期に行くなと言ってもそれは村が外の人間に掘らせたくないだけのデマカセだってな」

「そんな。話せばわかってもらえる」

「何度話してもダメだったんだ。旅人は掘りに行ってしまうんだ。目先に宝石が埋まった山があるってだけでな」


 結局人間は目の前の欲望に抗えないのか。旅人側も、村人側も欲望に忠実なのだ。グラウコスが言い返せずにいるとパッラスは話を続けた。


「だからさ、もういっそ気持ちよく送り出したほうがお互い幸せだろ? だからそうしてるんだ」

「……」


 グラウコスは自分の気持ちを言葉にできずにいた。確かに止めても掘りに行ってしまうなら止める意味はない。


 酒場を出て村の大通りをぶらついていると旅人が主婦と思わしき人と話をしている。


「僕は魔晶石の加工を修行してきましてね。原石を手に入れて加工した魔晶石を宮廷に卸したいんですよ」

「まぁ、それでストルナニのほうからいらしたのですね」

「はい。どうですか、たくさん掘れますか?」


 主婦は笑う。


「毎年たくさんの旅人さんが来られていますよ。大きな魔晶石を掘った人もいたんじゃないかしら」

「おぉ! それは楽しみですね」

「ご自分で掘るのは大変ですし、一度採掘士が掘った魔晶石を見て行かれてもいいんじゃないですか?」

「手持ちのお金で足りればそれでもいいですね」


 そうして、旅人は採掘士の工房に向かって行った。グラウコスもこっそり後をつける。


「こんにちは」


 旅人が工房で声をかけると四十代の採掘士が姿を現してにっこりと微笑んだ。


「いらっしゃい。今日はどのような?」

「あぁ、ここで掘れた魔晶石を見せていただきたいなと」

「いいですよ。昨年は結構いいものが掘れてるよ。まだ行商人も来ていないから、今なら上質なものもあるよ」

「そうなんですね」


 採掘士は工房の奥から魔晶石をいくつか持ってきた。採掘士が魔晶石を見分ける眼鏡を貸そうとすると旅人はそれを制する。

 

「僕は魔晶石の加工を修行していますので、眼鏡を自前で持っているんです」

「なるほど、じゃあゆっくり見るといいよ」


 旅人は魔晶石を検分し、しきりに感心した。


「やはり本場の魔晶石は魔力の純度が高い。色も複雑で高度な魔法にも対応できそうだ。こいつはいい」

「さすがお目が高い。今ならこれくらいにしておくよ」


 採掘士はそういって算盤を見せる。旅人は頷いた。


「それなら、買います。この石を売っていただけますか」

「まいど! じゃあ箱に詰めてお渡ししますね」


 採掘士は箱に藁を敷き詰め、中に魔晶石を大事に収め、旅人に渡した。


「ありがとう。自分で掘るのも夢があるけど、良い物が掘れるとは限らないからね」

「そうだね、魔晶石、大事にしてくれよ」

「あぁ、ありがとう」


 グラウコスはその様子を見て、安堵の息をつく。あぁやって普通に商売もしている。旅人は良い物を買うことができたようだ。おそらくは故郷に帰って魔晶石を加工し、皆に自慢するか売り込みに使うのだろう。そうやって、エゴティノ村の魔晶石の評判がますます上がり、訪れる人が増えるのだ。それはとても健全なことだと思えた。


 またある旅人は魔晶石の値段を見て手が出ないと思ったのか自分で掘りにいくことにしたようだ。採掘士は道具を一式貸し出し、笑顔で送り出した。それを見ていたグラウコスは頭を抱える。


「もう……俺にはよくわからない」


 その晩、グラウコスはブラケウスの寂しい瞳が頭から離れなかった。胸のもやもやは取れず、罪の意識に苛まれる。


 グラウコスは荷物を作り、旅立つことにした。ブラケウスを追い、真実を伝えるための旅だ。夜中だったが居ても立っても居られず、グラウコスは家を飛び出した。こんな村にはもう戻るつもりはない。


 二日歩いた街道の旅人用の小屋で休んでいると、一組の若い男女が入ってきた。男は銀色のクセのある長髪に銀色の瞳をし、女は金髪碧眼で高級銘柄の服に身を包んでいる。どこかの令嬢とその護衛といった風情だ。


 話を聞くと、エゴティノ村に向かうというので黒百合の匂いがしたらそれ以上は行くなと警告をしておいた。警告を無視して行くようなら村人の餌食になってしまえばいい。


 ブラケウスがどこに向かったのかもわからない。メイトレンという男の名前とブラケウスという女。この二つの名前だけが頼りだ。

 こうして、グラウコスは長い旅に出た。


またまた間が空いてしまってすいません。最近寒くて、オフトゥンから抜け出せない病にかかっております。三話で終わるかなと思いましたが終わりませんでした。

オチは当初から予定しているものはあるのですが、変えちゃってもいいかなぁと思っています。

あと、スコ速さんありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ