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風の唄  作者: 安曇 東成


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四章 四 クヘン流の奥義なのだろう?


 ついに大会当日となり、村は総出を上げて大会を運営していた。いたるところに飾り付けがされ、出店が並び食べ物や冊子、武器などが売られていた。村はこの五日程で人口が二倍ほどになり、宿も飲食店も大繁盛だ。剣術大会による経済効果は相当あるだろう。

 

 十三歳のエウドロスは未成年の部に出場する。十四歳からは大人の部で、多くの国では飲酒が認められるようになる。


 大会はまず大人の部から開催されるようだった。大人の部に集まった剣士たちは男女問わず集まっており、対戦の組み合わせ表を見ている。組み合わせは運営側が決めているようで、完全に無作為なのか操作されているのかはわからなかったが、経歴などを確認しているところからすると、優勝候補が序盤で当たらない程度には操作されているようだった。


 参加者は村の人口ほどいるのかと思ったが、実際は二百五十人ほどしかいなかった。他は観戦にきた者や商売人、参加者の家族や護衛といった人々のようだ。勝ち上がり形式の対戦表は、実質八回勝てば優勝というものだ。

 

 シルバーは三回戦まで順調に勝ち進んだ。

 四回戦で当たったのは、赤い豪華な衣装に身を包んだ少女だった。大人の部に出ているのだから十四歳以上だろうが、相当若い。

 

 二人は屋外の試合場の中央に進み、剣を構える。

 

「シルバー、アルマキア流」

「アウラダ、クヘン流」


 クヘン流と聞いてシルバーは目を見張る。どことなく目の前の少女はフェリアスに似ている気がする。

 試合が開始されるとアウラダは一直線に踏み込んできた。クヘン流の剣術は日頃からフェリアスを通じて見ているが奥義や技などはフェリアスはあまり見せたことがなかった。

 

 少女が右から左に剣を薙いだが、驚くことにその剣は四本見えた。シルバーは二本を躱し二本を剣で受ける構えと取ったが、相手の剣は幻の如く消える。シルバーは接近戦での不利を悟り距離を取ると閃空斬を放つ。閃空斬は剣に捻りを加えて振るうことで真空の刃を飛ばす技だ。真空だから不可視だし、剣で止めることもできない防御不能技。

 

 しかしアウラダは軽く身体を反らすだけで躱し、シルバーに向けて急接近。再び右から左に薙ぐ斬撃。

 

(またさっきの技か!)


 だが今度は四本ではなく十六本の剣。本物が一本だとしても、見分ける方法がわからないしとても躱しきれるものではない。シルバーは思い切って飛び跳ね、上空から少女を狙う。


 シルバーが空中で剣を構えたとき、少女の姿が忽然と消えた。どこだ、と考える間もなく自分の上に影。なんと少女は飛び上がったシルバーよりも高く跳び、さらに上から攻撃をしかけてきたのだ。


 少女の蹴りがシルバーの後頭部に命中し、あっさりと意識を刈り取られてしまう。

 

 シルバーが気づいたのは大人の部が終わってからだった。


「あ、起きた?」


 医務室で目覚めたシルバーにフェリアスは声をかけた。


「……どれくらい寝ていた?」

「大人の部が少し前に終わったところ。シルバーさん見られなくて残念だったわね。すごい戦いだったのよ」

「……そうか。誰が優勝したんだ?」

「シルバーさんに勝った女の子。私の妹なんだけどね」


 シルバーはそう聞いてもあまり驚かなかった。


「やはりそうか。クヘン流と言ったからそうではないかと思っていた」

「まさかアウラダが出ていたなんてね。話してくるけど、一緒に来る?」

「あぁ、もう大丈夫だ。行こう」

「フレンツに連れて帰ってくれってお願いするわ」


 シルバーは単に気絶していただけで、脳にも特に異常はなかったらしい。あの少女がうまく加減したのだろう。恐ろしい手練れだ。 

 フェリアスはシルバーを連れて優勝杯を受け取ったアウラダに声をかけた。


挿絵(By みてみん)


「アウラダ~!」


 聞き覚えがある声だったのか、アウラダはすぐに振り向く。


「お姉さま! 何故このようなところに……」

「アウラダこそ! 剣術大会に出るなんて」

「母上が出て来るようにと。お姉さまこそご無事で何よりですわ。兵長達が帰ってこないのでどうなったのか心配しておりましたの」

「そうなの! 途中で竜に襲われてみんなやられちゃったのよ」


 フェリアスはアウラダに、アライモス王が亡くなったことやシルバーに助けてもらったことを話した。


「アウラダももう帰るんでしょ? 私も一緒に帰るわ」


 そう言うとアウラダは首を振った。


「今は戻られないほうがいいでしょう。母上はお姉さまが兵長達をたぶらかして逃げたと思われて。それはそれはお怒りですから」

「そ、そんなの話せば……」

「アライモス王を暗殺したとも」

「わ、私が? 嘘でしょ!?」

「『あの子ならやりかねない』と言われておりました」

「私って信用ないな~」


 アウラダは小さく息を落とす。


「母上にはわたくしから話してみますが、ご期待はしないでくださいまし。お姉さまは母上の頭が冷えるのを待ってフレンツに帰られたほうがよろしいでしょう」


 そう言うとアウラダは小さな皮袋をフェリアスに差し出す。中を見ると換金用の宝石がいくらか入っていた。


「これ、アウラダのお小遣いじゃない」

「少ないですが、路銀の足しになさってくださいませ。あまりお連れの方にご迷惑をお掛けにならないよう」

「し、失礼ね、迷惑なんてかけてないって」


 フェリアスがそういうとアウラダはちらりとシルバーを見た。シルバーは小さく頷く。それを見てフェリアスは形相を変えた。


「なによ二人とも。何通じあってるのよ。今日が初対面でしょう!」


 アウラダは小さく笑うとくるり、と優雅な動作で背を向ける。


「ではお姉さま、わたくしは失礼いたします」


 フェリアスは自分を一緒に連れて帰って欲しかったが、母親である女王バルシネがそれほど怒っているならアウラダの説得に期待するしかなかった。兵長のことは竜がやったことだし、アライモス王が亡くなったのだって自分のせいではない。


 シルバーは遠ざかるアウラダを見送りながら言う。


「できた妹さんじゃないか」

「……優秀すぎる妹をもつ姉の気持ち、わかる?」

「わからないな。俺は末っ子だ」

「シルバーさんほど優秀な剣士なら、お兄さんかお姉さんだかは肩身が狭かったんじゃないかしら」

「弟や妹がどれだけ優秀だろうと、兄や姉に憧れるものだ。俺は剣の腕では兄よりも上だろう。だがそれでも兄を敬愛している」


 シルバーの言葉を聞いて、フェリアスは俯いた。


「アウラダが私を? 無理よ、私にいいところなんてないもの」

「気づいていないだけさ」


 そう言ってシルバーはフェリアスの頭にぽん、と手を置いた。


 やがて、未成年の部が始まる。こちらは大人の部よりも人数は少なく、六回勝てば優勝だ。エウドロスは四回戦まで順調に勝ち上がった。

 

「すごいじゃないか。十日間であそこまで成長したのか」

「なかなかね。先生がよかったのかしらね~」


 フェリアスはしきりに頷きながらエウドロスを見つめる。五回戦の相手は未成年の部にしてはかなりの手練れのようで、エウドロスは苦戦していた。


「相手は上手だ。このままでは勝てないだろう」


 シルバーは二人の力量さを正確に分析していた。だがまだエウドロスは技を見せていない。


 対戦相手の少年が大きく踏み込んだ時、それを迎撃するべくエウドロスは『幻影剣』を使う。エウドロスの剣は二本となり、少年に襲い掛かる。少年は明らかに戸惑ったようで、幻のほうの剣を防御してしまい、本物が命中。


「一本! そこまで!」


 会場からは大きな拍手。エウドロスは決勝へと進んだ。会場から出たエウドロスにフェリアスは声をかける。

 

「幻影剣、上手くできたわね。すごいわ!」

「ありがとうございます。でも手の内を晒してしまいました。決勝はオリンヴュアノだ……まず通じません」

「大丈夫よ! わかっていても防げないのが幻影剣なんだから」


 フェリアスはそう声を掛けたが、エウドロスは力なく控室に戻っていく。


 やがて決勝はエウドロスが予想したとおり、オリンヴュアノという少年だ。迎撃技を得意とし、目がいい。幻影剣は通じないのかもしれなかった。


 二人は試合場の中央で構えるが、エウドロスの様子が少しおかしい気がする。頭が左右にふらふらと揺れ、視線が定まらない。


(きっと緊張しているのね)


 フェリアスはエウドロスの様子を微笑ましく見つめた。あれほどに緊張していたら勝利は難しいだろう。

しかし、わずか十日の訓練で決勝まで来られただけでも十分に価値がある。エウドロスはこれから立派な剣士になるに違いない。


「エウドロス、クヘン流ゥ…」

「オリンビュアノ、スゥルタイ流」


 戦いが始まるとエウドロスの顔色は悪く、足元もおぼつかない。オリンビュアノも不審な目でエウドロスを見たが、勝負の世界は非情、ということで冷静に斬りかかった。


「ほっ」


 エウドロスは剣で受けず、身体を反らせて躱す。オリンビュアノは躱されたことに苛立ち、雑に剣を振り回すがエウドロスはふらふらと躱した。


 フェリアスの隣で見ていたシルバーが顎に手をやる。


「クヘン流の躱し方とはあのようなものなのか。なかなかいい動きだ」

「そ、そうね……(あんなの教えたかしら)」


 オリンビュアノがやや大振りの縦斬りを放ったとき、エウドロスはふらり、と回転し、オリンビュアノの背後を取る。だがエウドロスは剣を振らず、偶然ふらついたような動きで肘をぶつけ、オリンビュアノを吹き飛ばした。


 シルバーは目をみはる。


「なんだあの動きは!? 俺でも読めなかった。クヘン流の奥義か?」


 フェリアスはあの動きを見て思い当たるところがあった。顔を引き攣らせ、乾いた笑いが出る。


「お、奥義!? そ、そうね、ある意味奥義なのかしら……ハハ……」


 オリンビュアノは立ち上がると怒りを露わにした。


「エウドロス! 許さん!」


 オリンビュアノはそう言うと鋭い突きを放つ。だがエウドロスは海老のように身体を曲げて突きを躱し、

そのままオリンビュアノの首に腕を絡めて投げた。


 オリンビュアノは頭から地面に刺さるように落ち、そのまま動かなくなった。完全に気絶したようだ。


「それまで!」


 審判が試合を止めると、観衆は大きな拍手。エウドロスは剣を振るうことなく優勝してしまったのだ。


「おお! 最後の投げは流れるような動きだった! 素晴らしい!」

「きゃぁ! 優勝よ!」


 シルバーとフェリアスは手を取り合って喜ぶ。


 審判がエウドロスの手を高々と上げようとし、動きを止めた。


「……君、酒臭いな」


 審判は他の運営実行委員を呼ぶとエウドロスを囲んで何やら話している。


 しばらくの協議の後、場内に拡声魔法で放送が入った。


『ただいまの試合、無効試合とし今年度の優勝者は無しとします』


 場内はざわつく。


『優勝した少年は大量の酒を飲んでおりました。未成年による飲酒のため、失格処分とします。

 また、対戦相手の少年は、未成年の部では禁止の突きを用いました。そのため双方失格処分とします』


 フェリアスは恐る恐るシルバーを見ると、シルバーは目を細めてフェリアスを見ていた。


「あのね、あれは……」

「クヘン流の奥義なのだろう?」


 シルバーに冷たい目でそう言われ、フェリアスは涙目になった。


「ち、違うのよ、偶然なの。私がちょっと飲みすぎちゃったな~って時に彼が見ていたみたいで……」

「この村でも二軒、出禁になったようだな」

「え? 何で知ってるのよ」

「阿呆! 金が足らないと請求が宿に来たのだ! 何故貴様の酒代を俺が払わなければならんのだ!」

「ごっごめんなさい! お金は返すから!」


 シルバーはため息を落とす。


「妹にもらった金で酒代を返すのか? それは人としてどうなのだ」

「うっ、確かにぐうの音も出ないわ……」


 自分が飲みまくった酒の代金を妹のお小遣いで払う姉、客観的に見るとそういうことなのだ。


「き、禁酒! 禁酒するぅ!」


 翌日の朝、フェリアスとシルバーが馬を引いてメムネト村を出ようとしたとき、ふたりの少年が走り寄ってきた。


「フェリアスさ~ん!」


 見るとエウドロスとオリンビュアノだ。二人は顔中に痣をつくり、怪我をしている。


「あら、エウドロスとオリンビュアノ、だっけ」

「そうです。昨日あれから俺たち喧嘩しまくって。でももうお互い認め合ったっていうか。なっ?」


 エウドロスはそういうと隣の少年を見た。少年は指で鼻をこする。


「ま、まぁな。お前がそういうなら認めてやってもいい」


 フェリアスは手を合わせて喜ぶ。


「素敵。友達になったのね! 良かったわ!」

「フェリアスさん、大会はあんなことになりましたけど、本当にありがとうございました。また、この村に来ていただけると嬉しいです」

「こちらこそ、ありがとう。またこの村にも来たいわ」


 フェリアスとシルバーは騎乗すると村を出る。エウドロスとオリンビュアノは、手を振って村の歌を歌いながら送ってくれた。


 教えの庭に育し立つ

 メムネトの里の教え子よ

 行く末国の柱とも

 雄々しく真直ぐ育ちゆけ

 

四章はこれで終わり、最後は少し長くなりました。

だいぶ圧縮したんですけどね。


英語無しで書き続けてますが、案外できるものですね。

異世界もので英語使うのってやっぱり肌に合わない。


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