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風の唄  作者: 安曇 東成


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四章 二 勝ちたい相手がいるのね

 

 五日目の稽古が終え、エウドロスはフェリアスに礼を言って公園から立ち去った。自宅への帰路の途中で見覚えのある少年が立っている。


「オリンビュアノ……」


 背後にはオリンビュアノの取り巻きが数人姿を現した。


「よおエウドロス。お前最近女に稽古をつけてもらっているらしいな」


 オリンビュアノがそう言うと背後の取り巻きが笑う。


「お前そんなんだから弱いんだよ」

「女に教わっても強くなれるわけないだろ」


 エウドロスは頭に血が昇った。

 

「試してみるか?」


 エウドロスはそう言って練習用の木剣を一本、オリンビュアノに投げる。たった五日の練習でオリンビュアノに通用するかはわからないが、多少の自信を持ったエウドロスはやる気になった。


 だがオリンビュアノは木剣を取り巻きの一人に投げ、顎をやる。受け取った取り巻きの少年は木剣を持ってエウドロスの前に立った。


「女に教わった奴なんか俺で十分だ」


 エウドロスは剣を中段に構え、取り巻きの少年、名前は確かカッタノス。カッタノスも中段に構え、エウドロスの木剣に目を向けている。

 一方、エウドロスはフェリアスに教わったように相手の目を見た。瞬きに反応して動くようなことはできないが、どこを狙っているのかくらいはわかる。


(カッタノスのやつ、俺の剣を見てる? それじゃ俺がどこを狙うかわからないだろう)


 先に動いたのはカッタノスだった。中段から袈裟斬りに振り下ろしてくる。オリンビュアノの父親の道場に通っていることもあって、剣筋自体は鋭く迷いが無かった。だがエウドロスにはその攻撃は見えており、身体を逸らして躱す。縦に振り下ろす攻撃の隙は大きい。エウドロスは躱しながら身体を回転させ、横に薙ぐ。


 薙いだ木剣は剣を振り切ったカッタノスの背を強打し、そのまま前にすっころんだ。


「うわっ!」


 転んだカッタノスを背後から木剣をつきつけて、エウドロスは勝利を宣言した。


「女に教わった奴に負けないんじゃなかったか?」

「くそっ! まぐれだ!」


 カッタノスは吠えたが、オリンビュアノが近寄り、カッタノスを起こしてやる。ついでに木剣を拾うと構えた。


「調子に乗るなよ、雑魚が」

「お前こそな!」


 エウドロスも木剣を構えた。オリンビュアノはカッタノスとは違い、エウドロスの目を睨んでくる。同い年ながら、エウドロスは若干威圧されてしまう。

 

 エウドロスはオリンビュアノを睨み返したが、オリンビュアノの攻撃がどこに来るのかは読めなかった。オリンビュアノは型通りに剣を横に振ってくる。エウドロスは剣を縦にしてオリンビュアノの剣を受け、次の攻撃に備える。横に振ったのなら連続攻撃がくる可能性が高い。


 思った通り、オリンビュアノは返す剣で連続攻撃を放ってきたので、これも剣を翻して受ける。反撃するならここだ。


 エウドロスは木剣を習った通りの型で横に薙いだ。その攻撃は予測されていたのかオリンビュアノの木剣で防がれてしまう。その時オリンビュアノは身体をくるり、と回しながらエウドロスの懐に入り込んできた。全く予想できていなかったエウドロスは対応が遅れてしまう。オリンビュアノはその隙を逃さず、木剣の柄をエウドロスの腹に打ち込み、さらに足払いを放ってくる。


「ぐっ!」


 エウドロスは腹に一撃をくらい、前かがみになったところに足を払われ、尻餅をついてしまう。そこで負けを確信した。

 

 オリンビュアノは木剣をエウドロスの頭に突きつけ、上から見下ろす。


「これがスゥルタイ流の剣術だ。まぁお前には習わせられないけどな」


 オリンビュアノは木剣を回転させ、エウドロスに柄を向けて丁寧に返した。オリンヴュアノは嫌な奴だが、仲間も剣も大事にする男だ。だが自分に(くみ)しない者には厳しくあたる。


 オリンヴュアノ達が去ったあと、エウドロスは悔しくて涙を流した。だが、同時に手ごたえも感じた。たった五日とはいえ、フェリアスの剣術は確実にエウドロスを強くしている。もっと強くなりたい。


 翌日の早朝、エウドロスは早くに目が覚めたので軽く走り込みにいくことにした。とにかく身体を動かしたかったのだ。


 いつもの公園に差し掛かった時、見慣れた人影を見つけた。金髪の少女だ。こんな早朝に公園で一体何をしているのだろうか。


「フェリアスさ……」


 声を掛けようとしたときフェリアスは前屈みになって嘔吐し始めた。エウドロスは顔を顰める。


「うげ……」


 どこか身体を壊しているのだろうか。そんな心配をしているとフェリアスは吐瀉物で口の周りを汚しながら独り言をつぶやいた。


「うぃ~、ちょと飲み過ぎたかひら~」


 どうやら病気などではなく、酒をしこたま飲んだらしい。エウドロスはフェリアスのことは高貴で美しく強い少女だと、正直淡い恋心まで抱き始めていたが、そんな感情はすべて消え失せた。

 

 その時、同じく酔っ払いと思わしきならず者二人がフェリアスに絡んだ。


「嬢ちゃんカワイイな。俺たちと遊ぼうぜぇ~」

「いい店知ってるぜ~、飲み直そう」


 フェリアスはその手を相手には慣れているのか、手をふらふらと振って追い払おうとしたが、ならず者の一人がフェリアスの肩を掴もうとした。

 

「ヒック!」


 フェリアスは酔いが回ってふらついたかのような動きでならず者の手を躱す。


 もう一人のならず者も両手で掴もうとしたが、これもふらり、と躱す。なんだあの動きは。

 

 連続で躱されたのが癪に障ったのか、ならず者たちはやっきになってフェリアスを捕えようとしたが、ふらふらとするフェリアスに狙いが定まらず、いっこうに捕えられない。フェリアスはふらついた腕が偶然肘うちとなってならず者に命中。さらにもう一人の首に腕を絡めて投げた。


「すげぇ……大人二人相手に」


 気絶したならず者達をそのままにして、フェリアスは酒瓶を持つとふらふらと去っていった。

 

「なんなんだあの人は……」


 やがていつもの練習時間になり、エウドロスは再び公園にやってきたが、フェリアスはいつものように待っていた。顔色も普段通りに戻っている。


(朝のは見間違いだったのかな)


 一瞬そう思ったエウドロスだったが、近寄ると酒臭かったのでやはり本人に間違いない。


「おはよう! じゃあ今日の練習はね……」


 フェリアスが言いかけたところで、エウドロスは遮る。


「すいません、フェリアスさんはスゥルタイ流、という流派はご存知ですか?」

「スゥルタイ? 知らないわね。剣術の流派なんてたくさんあるし、私はフレンツ出身だから、この辺の流派は知らないのよ」

「そうですか。オリンヴュアノが使う剣術がスゥルタイ流というものらしいのです」


 フェリアスは腰に手を当て、鼻を鳴らす。

 

「ふぅん。私の連れなら剣術に詳しいから、知っているかもしれないわね。ちなみに私はクヘン流よ」

「クヘン流……じゃあ、俺もクヘン流なんですね」

「まだまだ免許皆伝とはいかないわよ」


 そういうとフェリアスは笑う。エウドロスも笑った。


 その日の訓練で、フェリアスと打ち合った時、エウドロスはオリンヴュアノの技を仕掛けてみることにする。フェリアスが横に振ってきたところを剣で受けながら回転し、懐に潜り込む動き。それと同時に木剣の柄をフェリアスの腹に叩き込む、はずがフェリアスがいない。


「あっ!?」


 エウドロスは気が付いた時は投げられていた。フェリアスはエウドロスが回転している間に踏み込んでエウドロスの背後に回ったのだ。


 エウドロスが咳込みながら立ち上がる。


「それがスゥルタイ流?」

「えぇ、昨日いまの技で負けました……」

「剣を受ける側が踏み込んでくる時は、大体反撃狙いのことが多いわ。スゥルタイ流は迎撃や反撃を重視しているのかもね」

「迎撃と反撃ですか」

「そう。目と反射が良くないと使いこなせない、人を選ぶ流派ね」

「クヘン流は?」


 エウドロスがそう尋ねるとフェリアスは不敵な笑みを浮かべた。


「騎士が一騎打ちで勝利するための剣術よ」

「一騎打ち……」


 エウドロスはクヘン流こそ自分にうってつけだと思った。


「あの、あと四日後に、剣術大会があるんです」

「剣術大会? あぁ、私の連れも出るって言ってたけど」

「それは多分『大人の部』でしょう? 十四歳未満は『未成年の部』なんです」

「なるほど、そこで勝ちたい相手がいるのね」


 エウドロスは力強く頷いた。


少し時間が空きました。そろそろペースアップしたいところ。

スポ根、熱血物大好き!特別国庫ではスポ根は書けなかったから新鮮です。


英語縛りでも案外書けるものです。

カウンター ・・・迎撃、反撃

異世界もので英語が出たとたん醒めると思うんですよね。


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