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風の唄  作者: 安曇 東成


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三章 二 一位闘士ヘレクトール


 宿に戻ったシルバーは、興奮気味に剣闘場の出来事をフェリアスに話した。


「勝敗はついたが『決着』だから止めをささなければいけない。だがその時ヘレクトールはアルバッキノスを仰ぎ見た。そして、アルバッキノスの寛大な心がプラトンを生かしたんだ! 客は皆大盛り上がりだったさ!」


(シルバーさんたら、よっぽど興奮したのね。ちょっと子供っぽいところもかわいいわ)


 フェリアスは笑顔で話を聞く。


「じゃあ、誰も死ななかったのね。ずっとそうだといいのに」

「対戦相手を殺さない剣闘士なんてヘレクトールくらいらしい。生かしておいてもまた自分に向かってくるわけだからな。次は自分がやられるかもしれないんだ」


 シルバーの言うように、自分の驚異となる相手はできるだけ排除をしたほうがいいに決まっている。なにせ自分の命と直結するのだ。

 

「ヘレクトールって剣闘士はどうして相手を殺さないのかしら」

「さぁな。何度挑まれても負けない、という自信があるのかもしれないが」


 自分より確実に弱いという相手なら生かしておいたほうが逆に安全を保てる。だがこの剣闘士の街に集う強者達相手に、そのような余裕があるとは思えなかった。

 

「一位の闘士はすべての闘士から挑まれるの?」

「いいや、『決着』の場合、自分の順位より十三まで大きい相手にしか挑めない。しかも同じ相手には一年に一回しか挑めないらしい」

「一年は十三月だから、月一回だけ『決着』があるのね。『仕合』なら何度でもできるのかしら」

「『仕合』も『挑戦』も回数は決まっているようだ。『挑戦』は剣闘士が自ら登録することになっている」

「『仕合』でも一位になれるなら、『決着』にする意味はないんじゃない?」

「『決着』による勝利には多額の賞金が出る。あとは"名誉"だな」

「お金と名誉のため、かぁ。随分やさぐれた世界なのねぇ」


 フェリアスはそう言うと寝台に潜り込んだ。シルバーとは同室だがフェリアスが王族だと知っているので襲われたりする心配はない。これまでの野宿でもずっと一緒だったのだ。


 それを見たシルバーも燈火を消して寝台に入った。

 

 翌日はフェリアスも剣闘場に向かった。正直『決着』を見るのは恐ろしいが、シルバーもいるのでついていく。闘技場の熱気に圧倒されながら席に着き、円形の舞台を見つめた。

 

 闘技場には二人の戦士が入場した。一人は四位闘士プラトン。シルバーの話だと昨日ヘレクトールに負けたという戦士だ。金髪で整った顔立ちの、左右の瞳の色が違う神秘的な男だった。対戦相手は十四位闘士のアルフェイス。こちらは三十代の細身の男で素早さに秀でた戦士らしい。武器は剣ではなく小ぶりの短刀だった。


「四位と十四位……『決着』なの?」


 フェリアスが尋ねるとシルバーは頷いた。そして、観客席のアルバッキノスに視線をやる。


 戦闘が始まると観客は一切物音を立てずに二つの命に注視した。アルフェイスは軽やかな足取りで動き回り、プラトンの隙を窺う。プラトンが鋭く剣を突き出すとひらり、と躱す。そんなやり取りがしばらく続いた。


(すごい、全然当たらないわ)


 フェリアスも多少は剣の心得があるので、二人の強さがわかった。

 

 それでもプラトンの剣は少しづつアルフェイスの動きに合ってくる。躱され続けた剣が追いつこうとしていた。

 

 プラトンの剣が迫りつつあることはアルフェイスも肌で感じている。完全に捉えられる前に勝負を決めなければならない。

 

 アルフェイスは一気に距離を詰め、プラトンの懐に迫る。プラトンはそれを迎撃しようとしたとき、一瞬動きを止めた。


「もらったぞ!」


 動きを止めたプラトンの心臓を狙い鋭い短刀を滑り込ませた。その刹那、プラトンは右に流れるように動き、躱しざまに剣を振り上げる。プラトンの剣はアルフェイスの右腕を刎ね、血飛沫が舞った。

 

「うがぁ! 痛てぇ!」


 斬られた右腕を左手で押さえ、アルフェイスは下がる。プラトンに背を向けて闘技場の端まで走り、観客席の壁をよじ登ろうとした。

 

 観客席の客はざわつき周囲から離れる。

 壁の半ばまで登っていたアルフェイスを後ろからプラトンが掴み、引きずり下ろした。

 

「ひぃ! 助けてくれ! もう闘えない!」


 アルフェイスは膝を付き頭を下げて命乞いをする。

 

 プラトンはアルフェイスの頭に剣を突きつけ、観客席を仰ぎ見た。


「まさか、プラトンがヘレクトールのように情けをかけようっていうのか?」


 シルバーは食い入るように闘技場を見つめた。


 やがて観客席は「殺せ」の声がこだまする。

 

 プラトンが一瞬動きを止めたのは、観客席のどこからか鏡で太陽の光をプラトンの目に反射させたのだ。おそらくアルフェイスの指示でやらせたのだろう。これまでにも同じような手が使われたこともあり、誰がやったかまでは特定はできないものの、不正があったことをシルバーは気づいていた。

 

 往生際悪く逃げ惑って命乞いをする闘士に対して観客は厳しい。


 観客の声が揃ったところで、プラトンはアルバッキノスを仰ぎ見る。観客は静まり、この街の長であるアルバッキノスに注目。注目の主はゆっくりと立ち上がり拳を前に突き出し、やがて親指を下に向ける。


 観客は一斉に歓声を上げ、アルバッキノスを讃えた。


 アルバッキノスの裁定を見て、プラトンは無情に剣を振り下ろした。

 

 首を斬られたアルフェイスは絶命。観客は総立ちとなりプラトンの勝利に拍手する。プラトンは観客に向かって頭を下げて門から去っていった。

 

 二人は宿に戻り、やがて夜になる。自然と今日の試合について話題になり、鏡による妨害があったことをシルバーが話すとフェリアスは驚いた。

 

「でも鏡で目つぶしをしても逆に負けちゃったのよね」


 フェリアスは首を捻る。

 

「闘技場では割とありふれた不正だからな。警戒していたのだろう」

 

 その時、部屋の扉を叩く音。

 

 シルバーが扉を開けると外には外套を纏った男がいたが、フェリアスの知らない人物だった。二人は小さな声で二、三言交わすと男は頭を下げて去っていく。

 

 シルバーは扉を閉め、部屋に戻ってきたのでフェリアスは尋ねる。

 

「知り合い?」

「あぁ、ちょっとした知り合いだ。悪いが少し出る」

「こんな時間から?」

「そうだ。話をするだけだから心配はいらない」

「そう。じゃあ先に寝てもいい?」

「あぁ、もちろんそうしてくれ」

「わかった。早く帰ってきてね」


 フェリアスはそう言うと寝る支度を始める。シルバーは外出の準備を終えると部屋を出て外から鍵をかけた。


 シルバーが訪ねたのは暗い路地裏の小さな建物。明かりに照らされた部屋の中には何人かの人物が椅子に座っている。そのうちの一人はなんと今日闘技場で見た四位闘士プラトンだ。


「ルアーサス。話を聞かせてくれ」


 シルバーはそう言うと椅子を引き、そこに腰を下ろした。卓の向かい側には先ほど宿に訪れた男がおり、外套を畳んで卓の上に置いている。

 

「シルヴァ……いや、シルバー。お前さんも今日の『決着』を見ただろう?」

「あぁ……四位闘士、見事だった」


 シルバーは腕を組んで四位闘士プラトンに目をやる。金髪のプラトンは目を伏せたまま軽く右手を上げた。


「『ツブシ』があったのは知っているな?」


 『ツブシ』というのは鏡を使って目潰しをする不正の隠語である。


「あぁ、一瞬動きが止まった」

「そうだ。何かおかしいと思わないか?」


 そう言われてシルバーは考える。そうして一つ、思い至る。フェリアスは『ツブシ』の話を聞いて、気付いていたようだった。


「そうか。『ツブシ』をして勝てないのはおかしい」

「そうだ。いくら四位闘士が強いとはいえ、動きが止まる瞬間に決められなかった」


 不正をするなら必ず勝たなければならない。目潰しをすることを知っていればその一瞬で決められるはずだ。

 ルアーサスという男は話を続ける。


「四位闘士とも話をしたが、どうやらアルフェイスは『ツブシ』を指示していない」

「アルフェイスは『ツブシ』を行うことを知らなかったと?」

「そうだ」

「そういうことも無くはないだろう。剣闘賭博でアルフェイスに賭けている連中がやった可能性もある」


 ルアーサスは頷く。ルアーサスは何か言おうとしたが、口を開いたのは金髪の男、プラトンだった。


「もちろんその線もあるとは思う。だが私は複数の鏡を感じた。直視してしまったのはあの時の一つだけだが」


 複数用意していたというなら組織的にかつ計画的に行われた可能性が高い。


「アルフェイスの組合が指示したのか?」


 剣闘士も狩人と同じように「組合」が存在する。剣技を磨くには一人では不可能だ。必ず練習相手が必要になる。そのため、剣闘士も組織を作り鍛錬をし合う。剣術も組合の中で練られ、共有されているものもある。それは「流派」と呼ばれるものだった。


 剣闘場においては同門同士の対戦は不正防止の観点から行われることはない。


「アルフェイスの組合が、彼を勝たせるためにやることは考えられない。発覚した場合、組合の信用が地に堕ちるのは目に見えている。そうなったら組合から人がいなくなるだろう。そんな危険を冒すことはしないはずだ。アルフェイスの組合は、十四位である彼自身が最高位の闘士だった。だからなおさらだ」



 この剣闘士という職業には、「正々堂々」が常に求められている。だから不正には厳しい世界なのだ。


「組合でもないとなると?」


 シルバーは疑問を口にする。プラトンが続けた。


「私がアルフェイスの止めをささず、情けをかけようとしたのは『ツブシ』を知っていたかを聞き出すつもりだったからだ。結局殺すことになってしまったが」

「何か心当たりがあるのですね?」


 シルバーがそう確認するとプラトンは頷く。


「一位闘士だ。彼がやらせている」

「な、なんだって!?」

「落ち着いてくれ。まだそう確定したわけじゃないんだ」


 プラトンはシルバーをなだめる。ルアーサスが卓を指先で叩いてシルバーに呼び掛ける。


「そこでシルバー、君に頼みがある」

「なんだ?」

「一位闘士ヘレクトールを暗殺してくれ」


大分間が空いてしまいすいませんでした。


剣闘場の不正と暗殺の話は当初から考えていたものなので、ここで入れることにしました。


今回の英語縛り 「組合」=ギルド 「危険」=リスク

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