プロローグ
占拠した建物の一室。
帝国は方針こそ相容れないが、建造物の作りはそれなりの評価に値する。
アイシスは、軍靴をカツカツと鳴らして、とある一室の前で立ち止まった。
軽くノックをする。
「オルコット中尉です。失礼します。」
「入れ。」
教本通りの敬礼。
内心、アイシスの心情は暗かった。上司のカサンドラ大佐からの呼び出し。ましてや心当たりがありすぎる。叶うことなら逃げ出したい。だが、立場と職種がそれを許さない。
「中尉。何故呼び出したか、解るか。」
大佐の顔色は悪い。
「重々、承知しております。」
「中尉…貴官は何故、こう面倒事を増やすのだ…」
「大変、申し訳なく思っております。」
はぁ、と頭を抱えるカサンドラ大佐。普段は鋭い眼光を放つが、今日ばかりは苦々しい。
あの後、辺境伯は速やかに帰還した。焚き火に関わった者は厳重注意。火をつけたアイシスは謹慎処分を課された。
無論、悪い事をしたとは思っている。反省もしている。
見事なハゲ頭を晒してしまったことは悪いと思う。だが、誰も予想出来なかったじゃないか。燃えてしまったものは仕方ない。
アイシスの戦闘狂の思考では生憎、そこで止まってしまう。
「中尉、お前あんまり反省してないだろ。」
「めめめ滅相もありません。きちんと、小官の心に重々刻み込みましたとも。」
アイシスの赤い目が泳ぐ。
アイシスの心を知って知らずか、カサンドラ大佐がぷかりと紫煙を吐き出した。
「まぁいい。お前に辞令だ。」
渡されたのは一通の封書。
「拝見します。」赤い蝋封をペリペリとはがす。
差出人は辺境伯。内容は、クビの通知かと思いきや……
「お、王国魔術学院に入学、でありますか。」
「正確には編入だ。喜べ、中尉。後方任務だ。」
書かれていたのは、アイシスの実力を認めた故に王立魔術学院に編入するという旨の通達。冬から2年次に入るように、との命令だ。
「失礼ですが、戦線の方は宜しいのでしょうか。」
「構わん。心置き無く行ってこい。」
心無しか、大佐の目が据わっている。アイシスを厄介払い出来る口実に喜んでいるのだ。
「大佐……」
最後の砦、とばかりに視線で縋り付く。
「心置き無く、行ってこい。土産待ってるぞ。」
取り尽く島もない。
「そんなぁ…………」
こうして、アイシス・オルコット中尉、もとい“赤の魔術師”は学院に編入することとなった。
感想等々お待ちしています。少しでもいいな!って思ったら、広告の下の☆をポチッとお願いします。