プロローグ
Prof〈赤の魔術師〉アイシス・オルコット
17歳にして、当代最高の炎魔術師。
シュバルツ王国東部、バルト戦線____
木枯らしが吹き始めた今日この頃、アイシス達は今日も今日とて見張りに勤しんでいた。王国が帝国と敵対して早4年。今ではこのバルト戦線が最大にして最悪の戦線と化していた。
魔術師の数は少ない。しかも軍属している魔術師は数百名にも満たないだろう。本来であればゆうじに備えて魔力を温存すべきだが、この寒さを前にしてはそんなことを言っている余裕はない。一般兵が魔術兵で暖を取る姿は最早日常だった。
それは、アイシスも例に漏れず……
「頼む、オルコット中尉!1回だけでいいんだ。」
「なあ、俺我の仲だろ?頼むよ」
「だが……」
拝むようにアイシスの周りを囲む同僚たち。彼らの望みは暖を取ること。
解っている。ここには物資が少ない。ましてや今後、冬になるとさらに少なくなるのは目に見えていた。
「はぁ…仕方ない。薪はあるか?」
「よっしゃ!勿論だ!」
たちまち男どもの歓声があがる。それを聞き付けた他の部隊の連中もやってきた。
「おい、お前いつの間に芋なんか持ってきてんだ。」
「ちっ、バレたか。」
「バレた、じゃねえ。1個よこせ。」
「はいはい。」
そうこうしているうちに薪が組み上がる。娯楽が少ない戦場で、既に数十名が集まりつつあった。
「よし、ちょっと離れてろ。」
アイシスが薪のそばに立つ。
言われた通り、彼らは蜘蛛の子を散らすように離れる。
それもその筈。アイシスは言わずと知れた炎魔術師。火力はもちろん、その威力は文字通り身をもって体感したことがある連中ばかり。巻き込まれたら消し炭になりかねない。
『炎よ、灯れ。』
右手を翳す。
赤い髪が揺れた。
次の瞬間、薪の中心に赤い炎が宿る。それはパチパチと爆ぜ、やがて人々を照らす暖かい光となった。
「うおおおおぉ!」
遠巻きに見ていた連中が駆け寄ってくる。
「あ、あったけえ…」
誰かがスープを作り始めたらしい。香ばしい香りが鼻をくすぐる。
「ほい、ご苦労さん。」
誰かが焚き火のそばで寛いでいたアイシスの頭をぽんと叩いた。
「これくらいは消耗では無い。皆が喜ぶならたまには悪くねえ。」
「照れんなって。これお前の芋な。」
約束のそれを貰って若干気分があがる。仮にも当代最高の“赤の魔術師”を火付けマッチ代わりにしているとは誰も夢にも思わなかった。
ホクホクの芋を頬張る。ここにはバターなどという高級品はない。
「なぁ、そういえば今日、偉いさんが視察に来るんじゃなかったか?」
「確か…クラウディア辺境伯だったか?この辺りを総括してる御方だ。」
「はっ!要はお貴族サマだろ?視察なんてこんなむさ苦しい所まで来るわけねえ。」
そう言うのは、茶髪の青年。貴族嫌いが特に激しい奴だ。
「ははは。違いない。」
同僚の会話を小耳に挟んでいると、遠目に上等な服を着た老人と、それに従う上司の姿が見えた。
アイシスは思わず目を疑う。
「おい!あれ……」
「まさか!こんな所まで来んのかよ。」
まずい。非常にまずい。軍規規定違反がバレてしまう。
慌てて撤去しようと立ち上がる。丁寧且つ迅速に。
ここぞとばかりに。無駄な連携力を発揮して、証拠隠滅を図る。アイシスは焚き火を消そうとした。
その時、一陣の風が吹いた。
それは、戦場を駆け抜け、老人の…ズラを吹き飛ばした。
見事なハゲ頭が太陽の元にテカる。
そして、ズラは、焚き火に吸い込まれるように落ちて、燃え尽きた。
初投稿です!
ちまちま書き進めていこうと思っています。少しでもいいな!って思ったら、広告の下の☆評価をポチッとお願いします<(_ _)>