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外伝Ⅰ この師匠に、この弟子あり②

1日遅れのクリスマスプレゼントという名の更新です。

いや、やめて! 偉そうにいってんじゃねぇ、毎日投稿しろとか、第3部まだかとか、

石を投げるをやめて!

 ヴェルダナがパフィミアの弟子になった翌日。


 まだ夜も明けきらない早朝。

 『男たちのパン屋』では、早速ヴェルダナの修行が始まろうとしていた。


 パフィミアはコック服に着替える。

 さらにちゃっかりとシャロンも加わって、ヴェルダナと並んだ。

 どうやら、シャロンもパン作りを習いたいらしい。

 ヴェルダナ同様にパフィミアに師事することになった。


「じゃあ、師匠! 早速パン作りの極意を教えて下さい」


 ヴェルダナは頭を下げる。


 シャロンとともに、初のコック服を着てはしゃいでいたパフィミアは、こほんと咳払いすると、1度顔を引き締めた。


 一体どこから取り出したのか。

 対光獣(ウィル・オ・ウィプス)の黒いサングラスをかける。


 本人はそれで鬼教官を演出したいようだ。

 だが、本人の目論見とは裏腹に、カワいい耳と尻尾が隠せていないため、緩んだ空気はそのままだった。


 それでもパフィミア本人には、こだわりがあるらしい。

 声音と口調を変えて、それとなく師匠っぽく振る舞おうとする。


「それはダメだ、ヴェルダナ」


「え? ちょっと待って下さい。おいしいパンの作り方を教えてくれるんじゃないんですか?」


「バカーーーーーーーーーーーーー!!」


「ぶべら!!」


 すでに戦場を経験し、すっかり対人の間合いを掴んでしまったパフィミアの張り手は、ヴェルダナの頬に綺麗にヒットする。

 炊事場にあった食器具などを盛大にひっくり返し、ヴェルダナを吹き飛ばしてしまった。


 だが、さすがは元盾騎士(シールダー)である。

 ケロッとした顔で立ち上がってきた。

 表情に「何故?」と言葉を浮かべ、パフィミアが口を開くのを待つ。


 そのパフィミアは腕を組み、ふんぞり返った。


「ボクは教えないよ」


「な、何故ですか、師匠?」


 すると、おもむろにパフィミアは首を振る。


「ボクが教えちゃったら、ヴェルダナの成長を阻害してしまうかもしれないでしょ!!」


 くわっ、という感じで喝破する。


 その言動にいち早く気付いたのは、シャロンだった。


「それって……。カプア様がパフィミア様に言ってたことですよね」


「シャロンは黙ってて。今、ボクはヴェルダナの師匠なんだ」


 勘の良い子どもが嫌いだよ、とばかりにパフィミアは、黒眼鏡を取って、シャロンを睨む。


 その態度に対して、シャロンは「は、はあ……」と言って、後ろに引き下がるしかなかった。


 対するヴェルダナは呆然とする。

 目を大きく開けて固まっていた元盾騎士は、ようやく唇を動かした。


「た、確かに……」


 ヴェルダナは大きく頷く。

 激しく同意した。

 横でシャロンが「え、え~~~~~~~~ぇ??」と微妙な表情を浮かべていたが、全くなりふり構わずといった感じで、ヴェルダナはパフィミアの手を取った。


「さすが、師匠っす!!」


「うんうん! だから、まず自分で努力するんだよ」


「わかりました! 師匠!! 俺、頑張ります」


 そしてヴェルダナは一生懸命パン作りに励んだ。


 材料を適切に計測し……。

 しっかりと捏ね……。

 発酵……。

 出来た生地のガスを抜き……。

 丸め……

 生地を休め……。

 成形……。

 最終発酵……。

 焼き……。

 窯出し……。


 パン作りに必要な工程を繰り返していく。

 何度も何度も繰り返した。

 何度も何度も……。




 そして、5日後…………。




「――――って!! 俺がいつも通りパン作ってるだけじゃないか!!」


 突如、コック帽をヴェルダナは台所に叩きつけた。

 ふわりと小麦粉が厨房に舞う。


 その様子を見ながら、シャロンは少々無理めに笑った。


「ま、まあ、概ねのその通りですね。あの~~、パフィミア様。そろそろちゃんと教えてあげては…………あれ、パフィミア様?」


 シャロンは振り返る。

 自分が選定した勇者は壁に手をついていた。

 所謂『反省』というポーズである。


「パフィミア様?」


「た、確かに!?」


「え?」


「そう言えば、なんか凄い教えみたいに聞こえたから、ボクも師匠の言葉に従って頑張ってたけど、よく考えたら組み付いて相手を倒す以外、ボクって師匠から何も教わってないよね。あれ? なんかおかしくない? おかしいよね? ね?」


 ヴェルダナとは別に心にスリップダメージを食らう。

 目を血走らせ、どこか彼女の暗黒面が漏出しようとしていた。

 どうやら今さらカプソディアの真意に気付いたようである。


 その様子を見ながら、シャロンは苦笑を浮かべるしかなかった。


「師匠! ちゃんと教えてくださいよ」


 ヴェルダナは少々涙を浮かべながら懇願する。

 大変ショックを受けていたパフィミアは、「師匠」という言葉に我に返った。

 一応、責任感の強い勇者様は、振り返る。

 再び腕を組んだ。


「ふ……。さすが、ボクの弟子だ。まさかそこに、き、気付くなんてね」


「え? し、師匠は気付いていなかったのですか?」


「そ、そんなわけがないだろ? ボクはね。ヴェルダナが気付くかどうか試していたんだよ」


「な、なるほどぉぉぉぉおおおお!!」


 ヴェルダナは再び師匠の偉大さに気付く。

 目を輝かせ、憧憬の眼差しをパフィミアに送った。


「ここからが本番だよ、ヴェルダナ! まずはボクのパンの作り方を見ているんだ。そこから盗めるものは盗むんだよ」


「はい! 師匠!!」


 カッと長靴を鳴らし、ヴェルダナは敬礼する。

 パフィミアの一挙手一投足を逃すまいと、構えた。


「材料の配分はこれぐらいね」


「これぐらいっと……」


「こねる時はグッと!」


「グッと……」


「発酵させる時は祈る。おいしくなれおいしくなれおいしくなれおいしくなれ」


「おいしくなれおいしくなれおいしくなれおいしくなれおいしくなれ」


「ガス抜きは思いっきり叩く」


「叩く!!」


「休む時は、ボクらも休む」


「休む」


「最終発酵してる時も休むといいよ」


「ここお休みポイント」


「そして焼く」


「焼く」


「出来上がったら出す」


「出す!」


「これでもっちりコッペパンの出来上がりだよ」


「うんめぇぇぇえぇええぇぇえぇえぇえぇええ!!」



 ――――って!!



「ちげぇぇぇぇえぇぇえぇえぇええぇえぇえぇえぇ!!!!」


 ヴェルダナは絶叫する。

 再びコック帽を厨房の床に叩きつけた。

 2回目だからだろう。

 先ほどよりも、いい音を響かせた。


「全然わかんねぇ。どう見たって、パンの作りしか見えねぇ。最後なんて『焼いて』『出す』しか言ってねぇし! そんなの子どもでも出来るわ!!」


 最後に声を響かせた。


「ええ……。でも、ボクいつもこれでおいしいパンを作ってるんだけどなあ」


「な、なにぃ……」


「とりあえずボクがやったみたいにパンを作ってみてよ。メモを取ったんでしょ」


「ははは……。そんなに劇的に変わったら、苦労――――」



 3時間後――――。



「うめぇ! さっきよりうまくなってる!!」


 ヴェルダナは自分が作ったパンを食べながら、瞠目した。

 その評価に、シャロンも頷く。


「はい。最初に食べたパンよりもおいしいですね」


「なんだ? どういうことだよ!? 俺が気付かぬ間に、レベルアップしてたとか? すげぇ! すげぇぞ! さすが師匠だ」


 ヴェルダナは興奮する。

 まさかパフィミアがやっているのを見ただけで、こんなにも劇的に変わっているとは。

 全く自分でも説明がつかないが、ともかく師匠のおかげと考えるしかない。


 その師匠――パフィミアはというと、ヴェルダナが作ったパンを食べて、若干打ち震えていた。


「……おいしい」


「え? 師匠! 今なんて言ったんですか?」


「う、ううん? 何も言ってないよ。おいしいなんて何もね」


「え? いや、俺はしっかりと聞いた――――」


「バカーーーーーーーーーーーー!!」


「はべらっ!」


 再びパフィミアの平手が飛んでくる。

 案の定、ヴェルダナは吹き飛ばされたが、またむくりと起き上がってきた。


「このパンには何かが足りない!」


 ヴェルダナの前で、パフィミアは力説する。


「それが何かわかる、ヴェルダナ?」


「え、えっと……。それは…………」


 パフィミアの迫力にすっかり気圧されてしまったヴェルダナは、しどろもどろになる。


 弟子が慌てふためく様子を見ながら、パフィミアは力強く言った。


「このパンには元気が足りない!!」


「げ、元気?」


「そう! 元気!!」


「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってくれ! 師匠! それは師匠の長所の話だろ? パンの元気ってなんだよ!!」


 すると、パフィミアはきっと1度は言ってみたかったあの台詞を叫んだ。



 元気があればなんでもできる!!



「いや、あの……。パフィミア様、さすがにパンに元気と言われましても」


 興奮するパフィミアに対して、シャロンが割って入る。

 だが、師匠モードとなったパフィミアを止められるものはいない。

 それはおそらく彼女の師匠であるカプアですら無理だろう。


「パンは主食だよ! そして主食は、みんなの活力になる。パンに元気がなければ、みんな元気にすることはできないんだよ!!」


 一応、もっともらしいことは言ってるが、中身は無茶苦茶だった。


 だが、この男には効果覿面であったらしい。


「やっぱいい言葉だよな」


 ヴェルダナは鼻をすすり、泣いていた。

 ポロポロとこぼれ出た涙を拭き取っている。


 その手で、再びがっしりとパフィミアの手を握った。


「その通りだ、師匠! 俺たちの元気をみんなに分けてやろう」


「その意気だよ、ヴェルダナ! 頑張って!!」


 2人の熱い師弟愛は、どこまでも燃え上がるのだった。


(続く)


本年の更新はここまでになります。

中途半端ですみません。

この作品の書籍化作業が、年末まで長引いてまして。

その代わり、すっっっっっっっっっごくよいものに仕上がっておりますので、

是非書籍の方もよろしくお願いします。


特にパフィミアとシャロンがカワイイの! 是非!


あまり大きな声では言えませんが、

すでにamazonさんの方では予約ができるようになっております。

正式な発表はたぶん年始早々になると思いますので、

今しばらくお待ちを。


今年はいつもと違って、辛いことが多かった年だったと思いますが、

この作品を読んで笑い飛ばしてもらえたなら、とても嬉しいです。

あ、新作の『宮廷鍵師』も好調なので、そちらも是非……。


それでは皆様、良いお年を!

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