外伝 Ⅸ ある魔王の最期(前編)
☆★☆★ 3月9日 単行本11巻発売! ☆★☆★
《「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる》の単行本11巻が発売されます。ついにセイホーン王国篇がラスト。新章も新キャラに加えて、ついにブレイゼルのお話に片足を突っ込みます。見所満載なので、予約をよろしくお願いします。
※書影は後日!
死属性である亜屍族の俺には、死属性魔法の魔力消費を緩和する以外にも、いくつか特徴がある。
端的にいうと、対象の寿命を見ることができる――だ。
といっても、正確な時間まではわからない。
ただ「あ。こいつもうすぐだな」と、勘でわかる。
いよいよ、となれば、だいたいな日時も経験でわかるようになった。
しかし、この能力は普段使わないようにしている。
人の寿命なんて見えて気持ちいいものでもない。
うっかり友達の寿命なんて認識してしまった日には、そいつと明日からどう顔を合わせればいいかわからないからだ。
けど、どういうわけか、俺はそのとき、うっかりある魔族の寿命を見てしまった。
自分でもなんであのとき、そんな迂闊なことをしたのかわからない。
まあ、ちょっとうさんくせぇ言い方をすると、『運命』だったのかもしれない。
俺が寿命を見てしまった魔族の名前はゾーラ……。
先代魔王。
そして、今の魔族社会の基盤を作ったお方……。
たぶん、ゾーラ様がいなければ、俺は生まれていなかったかもしれない。
それほど、魔族社会に多大な影響を与えた方だ。
魔族の生き字引みたいな人を前にして、今よりちょっとだけ若い俺はこう口走った。
「ゾーラ様、あなたはもうすぐ死にます」
と――――。
◆◇◆◇◆ 32年前 魔族圏 ◆◇◆◇◆
「カプソディアくんさあ。よくノンデリって言われない?」
場所は魔王城の謁見の間。
名前の通り、魔王ゾーラ様と謁見を許される――いわば魔王城の一番地といっていいだろう。
その日も当然魔王様は玉座に座りながら、魔族圏おろか人類圏に放ったスパイたちの報告すべてを聞いていた。そのため、1日に何百という魔族がここを訪れる。謁見の予約は毎度争奪戦となり、もうその頃割と幹部的な立ち位置にあった俺でも、3日待たされたほどである。
先ほど何百と言ったが、魔王ゾーラの姿を見た者は、魔族の中でも片手で数えるほどしかない。俺ですら、その真の姿を目にしたことはなかった。
その俺が見えているのは、黒い靄のようなものだ。
何かが玉座に腰掛けているところまではわかるのだが、それ以外は靄がかかっていて見えない。ゾーラ様に聞くと、「モザイクだ」なんてよくわからない返答が来たりする。
わからないといえば、ゾーラ様の能力もよくわからない。
お強いことはわかっている。
何せ魔界を家臣もろともぶっ壊し、俺たち魔族が人間界に逃げ込まなければならなかった理由の1つである旧魔王にして『魔族の祖』ブージャルガとまともにやりあって、勝利したのだ。
まさに「化物オブ化物」である。
よく知られているゾーラ様の能力の1つが、【未来視】だ。
集中すれば、かなり遠くの未来まで見ることができるらしい。
それが理由なのか、時々未来で見た言葉など、さも当たり前のように使ってくる。
「ついでに君の見立てでは、僕はいつ死ぬの?」
「正確な日時まではわかりませんが、おそらく持って3年……」
「3年? ヤバ! スマホの分割払い払えるじゃん!」
――――てな具合である。
スマホってなんだよ。
その分割払いが3年ってなんで知ってるんだ?
別種のコミュ障なのだが、それ以外は割とフランクな上司だ。
幹部だけじゃなく、地方の村長レベルの嘆願でも熱心に耳を傾ける。
そして、次の日には布令を出して、改善する。
だから魔王と呼ばれながら、ゾーラ様は名君として名が通っている。
「冗談を言ってる場合じゃ」
魔族の時間感覚で3年といえば、人間でいう3カ月しかない。
寿命はもう目と鼻の先まで来ているのだ。
「といっても、寿命じゃしゃーなくね?」
こっちは主君があと3年の寿命とわかって、冷や汗を掻いているってのに、当の本人はまったく焦りの色を見せない。
受け入れてるというか、さらに突き抜けて諦めの境地という感じだ。
俺は1度咳払いをし、喉を整えた。
「延命の方法はございます」
「だろうね。そうじゃなきゃ、カプソディアがわざわざ謁見の間まで足を向けるわけがないからね」
「まるで俺が薄情者みたいじゃないですか」
「君は元来薄情だよ。僕を守るためなら、友達だって簡単に見捨てることができる。君はそういう判断ができるヤツだ」
魔王ゾーラ様の言葉は、俺の胸に重たいスピアみたいに突き刺さった。
心に重くのしかかったのは、それが本当のことだからだ。
魔族存続のためなら、魔王様のためなら、俺はきっとルヴィアナだって見捨てるし、ルヴィアナやヴォガニス、そしてブレイゼルだってそれを望むだろう。
薄情なんかじゃない。俺たちの関係性はそんな薄っぺらい関係ではない。
――と思いたい(願望)。
俺は咳払いした。
「延命の方法を話してもいいですか? といっても、ゾーラ様には見えているのかもしれませんが……」
「それって、僕の【未来視】の話をしてる? いやいや。この能力はそんな万能なものじゃないんだよ。君たちからすれば便利に見えるだろうけど、僕からすれば欠陥品も甚だしい」
「欠陥品?」
「端的にいうとだね。僕の【未来視】は帰納法なんだよ」
あまり上司を揶揄したくはないが、やっぱこの魔王様は苦手だ。
ナチュラルに馬鹿にされているというか……。
自分が馬鹿なんじゃないかと錯覚してしまう。
ホントに『帰納法』ってなんだよ。
まったく〝端的〟になっていないのだけど……。
「つまり、僕の【未来視】はね。先に遠未来が確定するのさ。こういう結果になるから、近未来はこうなるって感じ。だから、遠未来のことをキチンと理解し、読み解くことによって、やっと近未来が見えるって感じ」
「遠くの未来を分析しないと、近未来のことすらわからないってことさ」
「近未来のことはわからないってことですか?」
「わからないわけじゃないよ。今が見えないってだけさ」
それって、能力がなくても同じなんじゃ……。
とはいえ、少しだけ希望が出てきた。
近未来のことを変えれば、遠未来のことも変わるということだ。
「――で、質問を繰り返すけど、延命方法を聞こうじゃないか?」
「わかりました」
俺は少し喉を整え、真面目な表情で魔王様に上申した。
「魔王様の呪いを……」
俺に即死させてください。






