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外伝Ⅸ カプアと幽霊船⑧

☆★☆★ 一昨日発売 ☆★☆★


無事、一昨日発売されました。

お休みの日に、ふらっと書店へ行かれる方は是非覗いてみてくださいね。



挿絵(By みてみん)

「ん……」


 気絶していたアモーレが目を覚ます。

 いや、もしかしてマリアジェラか?

 一瞬構えてしまったが、どうやら俺の心配は杞憂だったらしい。


 まるで悪夢から覚めた眠り姫みたいに周りを見たのは、おそらくアモーレだ。

 目覚めにいい光景とはお世辞にも言えない。

 あっちこっち穴が空き、潰された酒の空き瓶が転がっていた。

 これだけボロボロになっても、まだ船が沈まないのは、幽霊船のおかげか、この船をプロデュースしたっていうアモーレのおかげなのか。

 俺としては、これ以上変な方向に事態が転ばないことを祈るばかりだ。


「大丈夫か? 気分は悪くねぇか?」


「ヒッ!」


 質問すると、聞こえてきたのは悲鳴だった。

 ダダダッと音を立てながら、シャロンの背後に隠れる。

 まだ俺のことを上司だと思ってるらしい。母親役のシャロンも大変だ。


「アモーレ、もう大丈夫だよ。君の上司はちゃんと殴っておいたから。まあ、僕が倒せなかったのは、残念だけどね」


「仕方ねぇ。お前とは相性が悪かったんだよ」


 と言っておく。

 本当は相性が良すぎるんだけどな。

 『勇者の光』を使っていれば、一発だったろう。

 その代わり、アモーレも一緒に消し飛んでいただろうが……。


 アモーレはヒタヒタとガスドラネに近づく。

 白目を剥き、大の字になった死鬼族を見て、アモーレは首を振った。


「この人――あたくしの上司じゃありません」


「え?」

「は?」

「「「なんですと?」」」

「あら?」


 おいおい。ここに来て、骨折り損のくたびれ儲けかよ。

 俺は他にもそこらに倒れている魔族を指差し、アモーレの上司を確認する。

 しかし、どうやらいないようだ。


「社員旅行に参加しなかった魔族もいますからね。もしかして、そっちにいるかも」


 エス(じゃなかった、ラトか?)が俺に囁く。

 なるほど。確かにその可能性はあるな。


 でも、このままじゃアモーレはマリアジェラに憑き続けることになる。

 いくら誘拐癖があるからって、カンタベリア王国の王女を魔族圏に案内するわけにはいかないだろう。それにマリアジェラは、セイホーン王国と人類の和平を結ぶキーマン。さらに、その後に控える人類と魔族の和平でも働いてもらうことになる。


 さすがにこのままはまずい。


「聖者様、少しご相談したいことがあります」


「なんだ、シャロン。改まって」


「はい。……アモーレさんの上司を聖者様ということにしてはどうでしょうか?」


 お、おい。何を言い出すんだ、このちびっこ聖女様は。

 俺はアモーレに何もしてないんだって。誓って!


「聖者様がアモーレさんに何もしてないことは承知しております。ですが、このままではマリアジェラ様が危ういことになりかねません。このままアモーレさんに意識を乗っ取られれば、いずれマリアジェラ様の意識は消え、完全にアモーレさんになってしまいます」


 典型的な憑依のリスクだな。

 俺も考えなかったわけじゃないが……。


「だからこそ、聖者様にアモーレさんの上司になってほしいのです」


「それって、つまりアモーレの上司として演技しろってことか?」


「はい……」


 そんなんでうまくいくか?

 憑依に関していうと、シャロンの方が詳しいみたいだが。

 仕方ない。他に方法も思い付かないし、やってみるか。


「しかし、なんて言えばいいんだ?」


「お心のままに。アモーレさんを労る心をもてば、自然と言葉は溢れるかと」


 いや、それが難しいんだってばよ。

 シャロンって、たまに無茶ぶりしてくるよな。


 アモーレを労るか。

 逆の立場になって、俺が上司にかけてほしい言葉を考えればいいのか。

 よし。その方向性でいこう。


「こほん。アモーレ、ご苦労様。その色々仕事を押し付けてしまってすまなかった。だが、誤解しないでほしい。君を仕事漬けにしたくて、仕事を与えていたわけじゃない。むしろおれ(ヽヽ)――──私なり君に仕事になれてほしくてやったことなのだ」


「そう……だったんですか?」


 お。なんか結構脈ありな反応だぞ。

 このまま続けるか。


「私はこの仕事が好きでね。だから、君にも好きになってほしかった。でも、それが君に多大な負荷をかけてしまったことに気づかなかった。君があまりに優秀だったから……。その……私はどうやら、君に甘えていたようだ。すまない、アモーレ。至らない上司だが、どうか許してほしい」


 最後に頭を下げた。


 おお。我ながらいい感じの言葉だったんだじゃないか。

 上司として本心をさらしつつ、そこに非があったことを素直に謝る。

 ククク……。謝罪の教科書に掲載したいぐらい100点満点の謝り方だ。


「顔を上げてください、上司」


 よっしゃ。これで顔を上げて握手し、互いの関係性を確認した後、再び業務に戻っていく。我ながら完璧だ。


「アモーレ、明日からともに――――」


 声をかけながら、顔を上げる。

 その瞬間、俺の視界に映ったのは、大きく振りかぶったマリアジェラの姿だった。



 ぶべらっ!!



 女の拳とは思えない拳打に、俺は変な声を上げて倒れる。

 さらにマリアジェラならぬアモーレは俺を踏みつけた。


「何が仕事になれてほしい――よ! 新人にベテランの3倍の仕事量を与えて、あんたが楽したかっただけでしょ。あたくし知ってるのよ。あんた、職場近くの飲み屋の女の子に入れあげてることを。その清算を、重要な取引先の接待って書いて回してきたのもね。そりゃ重要でしょうよ。そりゃ楽しいでしょうよ。経費を使って、若い女の子と遊べるんだからね!!」


 ちょっ! アモーレさん、痛い! 痛いって!

 マジで1発1発が重いのよ。ヴォガニスもびっくりと重い拳なのよ。

 あのね。この身体、割と一点物なの。

 こんな綺麗な身体なかなかないのよ。傷付けられると、俺困るんだ。

 やめて。


 やめてぇぇぇぇえええええええ!!


「ふぅ……。なんかすごくすっきりしたわ」


「アモーレさん、身体?」


「え?」


 アモーレの身体から魂が抜けかかっていた。

 さらに身体は黄金に光り、魂が黄泉へと運ばれようとしている。

 つまり、アモーレは成仏しかかっていたのだ。


「なんか思いっきり殴ったら、どうでもよくなってきたみたい」


 な、なんかそれって理不尽な気がするんだが……。

 殴る以外の解決方法なかったのかよ。


「ありがとう。シャロン、パフィミア。色々相談に乗ってくれて」


「別れは寂しいですが、アモーレさんが納得してくれたなら、それはもう本望です」


「元気でね」


「他の皆さんと、上司に似てる人もありがとう」


「戦力が減るのは痛いですが」

「それが第二の人生なら仕方ない」

「うちの職場は去るものは追わずの方針ですから」


 リトたちは揃って、手を振る。

 すでにその時には、マリアジェラからアモーレの魂が出かかっていた。

 長い髪のおかげで表情こそ見えなかったが、その口元は美しく、そして輝いていた。


「今度はいい上司に恵まれるといいな」


「ええ。そう祈るわ」


 バイバイ……と手を振り、そしてアモーレは天に召されたのであった。



 ◆◇◆◇◆



 無事、幽霊船の呪いは解かれ、一先ず俺たちは近くの港に降りることとなった。

 気が付けば、朝だ。幽霊船の中に半日ほどいたことになる。

 亜屍族(デミリッチ)の俺からすれば、太陽は恨めしい存在だが、今日ほどその存在に感謝した日はないだろう。


「なんかあちこち筋肉痛なのですが……。拳も痛いし」


 ぶぅと唇を尖らせたのは、マリアジェラだった。

 アモーレの憑依から解放され、すっかり元の変態王女に戻っていた。

 どうやら憑依されてる間のことは、覚えていないようだ。


「もしかしてダーリン。あたくしが寝ている間に、何か悪戯しましたの。もうダーリンったらやらしい。あたくしが筋肉痛になるぐらい求めるなんて。子どもを何人作るおつもりですの」


「誰が悲しくて変態王女の寝込みを襲うか! どっかの死鬼族じゃあるまいし」


「死鬼族??? なんでそこで死鬼族が出てきますの?」


 俺は蛇のように絡んでくるマリアジェラから逃れる。


「そう言えば、あの死鬼族はどうなった? ガスドラネ? だっけ?」


「はい。それが……」


「なんか問題でもあったのか、エス」


「リトです。……それがガスドラネという死鬼族はうちの部署にいないんですよ」


「はっ?」


「それどころか名簿の中には、アモーレという新人も……」


「はい?」


 おいおい。なんだよ。それ。

 今、なんかゾクッとしたんだが……。

 怖いこというなよ。


「何かの間違いでは?」


「いやあ、ずっとお話しようと思っていたんですけどね」

「実は、今回の社員旅行の参加者って、私たち3人だけなんですよ」

「最近は飲み会とか、社員旅行を回避する魔族(しゃいん)が多いですからね」


 いやいやいやいやいやいや、そういう問題じゃないだろ。


「そもそも予定していた船ももっと小さいものだったし」

「いきなり大きな船が来て。しかも魔族が乗っていて」

「なるほど。これは社員旅行に参加しないと見せかけた我々へのサプライズだと思っていたのですが……」


「は……。じゃ、じゃあ、あの船は……」


 俺たちは振り返る。

 たった今、甲板から降りてきたはず。


 しかし、そこに広がっていたのは、朝日を受けた大海原だけだった。


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