外伝Ⅸ カプアと幽霊船⑥
☆★☆★ 明日発売 ☆★☆★
早いもので明日発売です。
表紙のキャロラインに真っ直ぐいって、抱き付いてください(書店に迷惑をかけないぐらいで)
よろしくお願いします。
そして本日コミカライズも更新されております。
この時期しか見られない芳橋先生の愛の休載イラストを、
ニコニコ漫画で是非見て下さい!
あたしが作ったんですから。
おいおい。幽霊の正体見たり枯れ尾花どころか、幽霊船を作った幽霊を見つけちまった。
「ちょちょちょ!」
「どういうことですか、カプソディア様」
「幽霊船を作ったって」
リト、ラト、エスも大騒ぎだ。
反応から察するに、本当に知らなかったのだろう。
だが、今は相手――つまりアモーレのことを知る必要がある。
俺は引き続きシャロンに頼んで尋問してもらった。
「コンコンコン……。どうして、あなたは幽霊船を作ったの?」
「あたくしは帰りたくないから」
「コンコンコン……。どうして帰りたくないの? ずっとこの幽霊船にあなたはいたいの」
「そうよ。あたくしはずっとここにいたいの。だって、ここにいれば請求書の整理とかしなくていいんだもの……」
はっ?
「ああ! もう考えただけでイヤになるぅぅうううう! 出張精算書の書き方が間違ってるっていったら、『じゃあ、そっちで修正お願い』とか言われるし。領収書のないのに『なんとかやっておいて』って無茶ぶりされるし、上司からは使途不明領収書を束で渡されるし、それをお局に報告したら『あんたが受け持った仕事でしょ。あたし知らないから』とか素っ気ない態度で、なんかあたくしが仕事を奪った女狐みたいに思われるし」
もうイヤだ! こんなギスギスした職場ぁぁぁぁああああ!!
ついにマリアジェラ――じゃなくてアモーレは絶叫した。
よくわからんが、なんか特大の呪いの声を聞いたような気分だぜ。
若干俺にも心当たりがあるエピソードが交じってるし……。
いやいや、そもそも前ならともかく、今は風通しのいい職場になったんだろ。
なんで新人かあるいは中堅の魔族が拗らせまくった結果──みたいなゴーストがいるんだよ。
「おかしいですね」
「昔はともかく今は結構ホワイトな方なんですが」
「普通、ここまで病んでる魔族いれば、気づくものなんですが……」
リトたちは首を捻る。
まあ、同僚や上司にいわず、抱え込む魔族もいるだろ。
……いや、そんなナイーブな魔族なんて、魔王軍にいるだろうか?
「コンコンコン……。わかりました。じゃあ、わたくしがあなたの悩みを解消してあげます」
「あたくしの悩みを……」
「コンコン……。あなたが職場に対して悩みを持っていることはわかりました。まずそれが何より大事だとわたくしは判断します。どうかあなたの悩みの種となる部分を、わたくしに除去させていただけないでしょうか? コンコン……」
おお。さすがはシャロンだ。
頭ごなしに「幽霊船から出してくれ」とはいわずに、まずゴーストの悩みを解消することから持ちかけてきた。狐憑きを払ったことがあると言ってたけど、多分本当のことなんだろうな。ちっちゃくても聖女ってことだ。
やり方は子ども騙しだけど…………。
「ならお願いがありますコン」
なんか語尾に余計なものがついたぞ。
「コンコン……。なんでしょうかコン?」
「あたくしにパワハラした上司を成敗してほしいコン」
「パワハラした上司?」
俺はリトたちの方に振り返る。
なんか可愛い見た目はしているが、こう見えてこいつらは俺の直属の部下だ。
人間ほど明確に階級が別れているわけじゃないが、こういう下っ端の上司となると、真っ先にあがるのが、この3匹である。
「ち、違いますよ!」
「断じてそんなことは!」
「むしろ私たちがパワハラを受けてるぐらいなんで」
元上司でも指差すな。
俺がいつパワハラしたよ。
とはいえ、リトたちではないだろう。
たまに悪戯が過ぎることこそあれ、下のものを踏みにじるようなことはしないはずだ。
「あたくしをパワハラした人はここにいますコン」
「コンコン……。それはどなたコン?」
シャロンが質問すると、ゆっくりと檻の中のマリアジェラの指は俺を指差した。
「え? 聖者様?」
「ししょー、パワハラしたの?」
「違う違う。俺は今日初めてこのアモーレにあったんだぞ。つーか、なんか最初から勘違いしてるんだよ、アモーレちゃんは!」
あまり認めたくないが、俺の顔がアモーレのパワハラ上司と似ているのだろう。
おそらく何かの勘違いなのだ。
「ゴーストの美的感覚は、人間だった頃と違いますからね。おそらく勘違いしているかと」
「君、さっきから思ってたけど。海ドワーフってそんなに物知りなのよ」
「アッホイ! こ、これぐらいじょ、常識の範疇だホイ!」
エスは慌てて言い訳する。
キャラぶれぶれどころか、忘れてただろ。
まあ、俺が無茶ぶりしたのだけど。
「つまり、そのパワハラ上司をやっつければいいんだね」
やっつければいいんだね(パフィミアの真似)。
おいおい。そんな簡単なことじゃないだろ。
その上司が旅行に参加してるかどうかすらわからないのに。
「いますコン」
アモーレは力強く頷く。そして指を上に向けた。
そういえば、上の方では先ほどから賑やかな声が聞こえている。
時折、激しく足音のようなものが聞こえていたのだが、幽霊船特有のラップ音というわけではないらしい。
「この上は?」
「食堂ですね?」
「今、宴会の最中かと」
「私たちを置いて、始めたようです」
なるほど。蘇生業務部とその近しい部署の連中が、一堂に会してるわけか。
ちょうどいいや。
「アモーレ悪いけど、檻から出て、そいつを教えてくれないか。辛いとは思うけどよ」
「うん。アモーレさんに教えてもらわないと、やっつけられないものね」
「ダメなの……。それがさっきから檻から出られないコン」
「出られない? それも幽霊船の呪いとか」
「身体が出るのを嫌がってるというか」
……あ~~(察し)。
仕方ねぇ。奥の手を使うか。
「マリアジェラ、俺と一緒に夕食でもどうだい? そして、その後は勿論――――」
「ベッドインですわ!!」
マリアジェラはパフィミアもかくやという勢いで俺の胸に飛び込んでくる。
檻から出てくるのを確認した俺は、マリアジェラの頭にチョップを食らわせた。
「げふっ!」
お姫様に言わせてはいけない言葉ランキング112位ぐらいに入りそうな言葉とともに、マリアジェラは蠅のように迎撃される。
むくりと起き上がってきた時には、意識がアモーレに戻っていた。
「い、今の一体……。この身体の人って」
「気にするな。きっと本当に狐に取り憑かれていたのだろう」
「そうなの?」
「と・に・か・く! まずパワハラ上司だ。そいつをぶっ飛ばして、お前の悩みを解決してやるよ!」
ついに檻から出たアモーレを連れて、俺たちは宴会場へと乗り込むのだった。