外伝Ⅸ カプアと幽霊船②
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』単行本10巻が、5月9日発売です。
ついに2桁です。
お買い上げよろしくお願いします。
おいおい。なんだ?
マジで幽霊船か? エリーテが酔っ払いながら作ったカプアランドの「超魔界村」より怖いじゃねぇか。
そりゃそうか。あっちはお化け屋敷。
こっちはガチガチの幽霊船だしな。
本物は違うぜ。あは……、あはははははははは……。
ヤベぇ。マジで気が狂いそう。
徹夜6日目で、今日も徹夜だとわかった朝並みに狂いそうだ。
もう迷いはしねぇ!
こうなったら脱出だ。
こんな幽霊船にいるよりも、洋上で鮫と戯れている方がまだ気楽だぜ。
マリアジェラ? は? なにそれおいしいの?
知らない子ですねぇ、そんな子は。
あいつなら大丈夫だ。幽霊船にまできて、檻の中で生活してて、さらに幽霊役までこなしているんだからな。
たとえ、あれが水牢になろうが生きているだろうさ。
「あった!」
甲板へと続く階段を視界に捉える。
結構めちゃくちゃ走っていた割には、ちゃんと順路を進んでいたらしい。
これで外に出られる。甲板に続くぼろっちい階段が今の俺には天国への階段に見えるぜ。
あばよ、幽霊船。
あばよ、変態王女!
俺は幽霊船を出て、自由という海原へとこぎ出してやるぜ!!
ドンッ!!
その瞬間、再び上から何かが落ちてくる。
大穴が空くとともに、甲板に続く階段も壊れてしまった。
「天国の階段んんんんんんんんんんん!!」
おいおい。フラグ回収早くない。
ちょっと展開早過ぎんよ。
コスパとかタイパとか知らんけど、フラグさん早〇すぎ!!
落ちてきたのは、先ほどの男だ。
どうやら頭だけに飽き足らず、身体ごと落ちてきたらしい。
四角い顔に、黒目のない凹んだ瞳。
体格はガッシリしているが、青白く血色が悪い。
まるで俺の身体と言いたいところだが、悪いが結構これでもちゃんとメンテナンスしてるんだぞ。対して、向こうは肌がアラフォーの男並みにがさがさだ。
「あれ……? こいつ……?」
ゆらりと大男は起き上がる。
何か訴えかけるように手を伸ばした瞬間、再び爆音が響いた。
男の上……、即ち空いた穴から何かが飛来する。
容赦なく頭を踏んづけると、ついに大男はぴくりとも動かなくなってしまった。
「げぇ……」
闇夜に映るシルエットを見て、俺は思わず声を上げる。
素早い肉食動物を想起させるしなやかな身体に、闇の中でも光る黄金色の瞳。
もっとも特徴的なのは、頭についた耳と、ふさふさした尻尾だった。
その瞳がこちらを向く。
一瞬向けられた敵意に俺は思わずビクッとなった。
「あれれ? ししょーだ?」
敵意を帯びた表情が笑みへと変わる。
俺とわかった途端、自称弟子ことパフィミアは砲弾のように俺に向かって抱き付いてきた。
「ししょおおおおおおおおおおおおおおお!!」
俺は辛くも避ける。
意地悪でも照れくさいわけでもない。
見てくれ。ローブの生地がパックリと開いている。
ちょっとかすっただけでこうなのだ。
まともに抱き付かれたら、俺は半分に切り裂かれていただろう。
「避けるなんてズルいよ、ししょー。心配したんだよ」
「何が心配だ。余計なお世話だっての」
むしろお前に殺されかかってるの、俺は!
「なんでお前がこんなところに……。ついでにさっきの大男はなんだ?」
「ボクもわからないんだ。気が付いたら近くにこの船があって。甲板に上ったら、さっきの男たちが……」
「たち? まさかさっき天井から頭が出ていたのって」
俺はパフィミアに手を貸してもらい、1度甲板に戻る。
そこには男たちが甲板の床から生えていた。
正確にいえば、顔だけ床に埋まっているような状態で逆さになっていたのである。
パフィミアの仕業かよ!!
まったくこの自称弟子め。
余計なことしかしねぇなあ。
ビビって損したわ。
「しかし、パフィミアがここにいるってことは……」
瞬間、何か身体がチリチリするのを感じた。
火の側で炙られているような感覚だ。
振り返る。
そこには真っ白は光を帯びたちびっこ聖女様が立っていた。
「邪に染まりし者よ。光の前に――――」
やっべぇぇええええええ!
マジで浄化魔法じゃないか。
シャロン! ストッッッッッッッッッップ!
お願い。冗談はその大きなお胸だけにしてくれ。
断言できないが、この船は幽霊船である可能性は高い。
仮にそうだとして、浄化魔法なんて使ったらどうする。
幽霊船の中のさまよえるゴーストやゾンビどもは浄化されて、天へと召されるだろう。
だが、この幽霊船――俺の推測が正しければ、浄化魔法で消えてしまう可能性がある。
それも最近成長著しい聖女様の一撃となれば、1発で沈むだろう。
幽霊船がなくなったらどうなる?
そんなことは説明しなくてもわかる。
このまま俺たちは海へ投げ出されるに決まってる!
さっきは恐怖でテンパっていたが、鮫の餌になるつもりは毛頭ねぇ。
そもそもこんなところで浄化魔法を使われた日には、俺まで浄化されるつーの!
「シャロン、待――――」
すとぉぉぉおおおおおおおっっっっっっっぷっぅぅううううううう!!
突如、横合いから声が響く。
それも1人だけではない。3人だ。
小さな子どもぐらいの影が、テケテケと走って行くと、シャロンに飛びつく。
その勇気のおかげで、浄化魔法は止まったが、その闖入者を見て、俺もパフィミアも、倒れたシャロンも目を丸くする。
シャロンの押し倒したのは、小さな3つの影。
それぞれ俺がつけているローブと似たもの着ていて、さらに人ではない。
真っ黒な身体と顔に、つぶらな目だけがぽつりと付いていた。
「お前ら、もしかして……」
「久しぶりですね、カプソ────じゃなかった、カプアさん」
「覚えてます。ぼくたちのこと」
「というか見分けつきます」
呆然とする一方で、向こうは久しぶりにあった知人と会って、著しくテンションが上がっていた。
「リト? ラト!? ……エス!!」
なんでお前らがこんなところにいるんだよ!
4月25日、グラストノベルス様より
『獣王陛下のちいさな料理番 ~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる〜』が発売されます!
久しぶりの小説!
『ゼロスキルの料理番』『公爵家の料理番様』に連なる久しぶりの料理番シリーズとなります!
イラストレーターは『聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました』でお馴染みのたらんぼマン先生に描いていただきました!
先生! こんなにキュートにルヴィンを掻いていただきありがとうございます!!
豪快なステーキから、繊細なフルコース料理まで、
大変お腹が空くレパートリーとなっております。
是非よろしくお願いします。