外伝Ⅸ カプアと幽霊船
☆★☆★ 単行本10巻 5月9日発売 ☆★☆★
単行本10巻が早くも登場です!
ついに2桁巻までやって参りました。
これも読者の皆様のおかげです。
単行本発売を記念して、短編を書きました。
是非読んでください。
のっけからあれだが、亜屍族ってホラーなイメージがあるだろ。
俺が言うのもなんだが、俺たちのような死体を扱ったり、人間の魂や精神体だったりから実体を得ている者たちは、人間からすれば怖い存在だろう。
しかし、だからといって、俺たちにホラーを求めるとなると、なんか違わないか?
見た目が怖いのは百歩譲って許すが(まあ、魔族なんて恐れられてなんぼみたいなところがあるから気にはしてないんだけどよ)、怖い話なんて求められても友達が作った料理以外の話はないんだ。
いや、あったな。1つあったわ。
はっきり言って、ホラーかどうかは知らないし、お気に召すかどうかはわからない。
でも、聞いてくれ。これはある嵐の晩の話だ。
俺たちがセイホーン王国に向かってる途中、船が転覆しちまった。
そして、俺は幽霊船と出会った。
◆◇◆◇◆
出港直後に大嵐にあって、船が転覆するって……。
一体船にどんだけゴージャスな疫病神様が乗ってんだ?
魔族圏で社宅を燃やされたぐらいから、俺の隣で寝ていそうだけどな。
気まぐれな神様は、いつになったら俺のベッドから出て行ってくれるのだろうか。
疫病神といえば、自称弟子の勇者と聖女のコンビもそうだ。
思えば、あいつらと出会ってから、色々歯車が狂っていったような気がする。
おかげで勇者の師匠認定されるわ、博物館の館長になるわ、俺が勇者になるわ、領主になるわ……。挙げ句、今――人類と魔族の和平大使だぞ。
思えば、遠いところまでやってきたものだぜ。
もうこのまま洋上でプカプカ浮いて、行方をくらませばいいんじゃないか。
あいつらもさすがに俺が死んだって思うだろう。まあ、俺は元々死んでるんだがよ。
ただこのまま魚の餌になるのはまずい。
俺の魂は生き続けるだろうが、肉体の方は別だからな。
このまま憐れな土左衛門になってしまう。
やれやれ……、と途方に暮れる中、気が付けば俺は濃い霧の中にいた。
なんか嫌な予感を感じていたが、俺にはどうすることもできない。
まるで誘われるようにして、霧の奥へと俺は流れていく。
すると、霧の向こうに大きな影があることに気づいた。
「船……」
そう。それは大きな客船だった。
俺は首を捻る。
今、人類と魔族が戦っているように、長らく人類と海の一族もまた不可侵の条約を結んで互いの領地を干渉しないでおこうという話になっていた。
海は海の一族たちのテリトリー。沖に出て漁をしたりするぐらいなら目を瞑っているみたいだが、洋上のど真ん中でこんなど派手な客船を浮かべていたら、海の一族はさぞ怒ることだろう。
俺たちみたいな国を代表する使者ならともかくとして、客船が浮いているわけがなかった。
しかし、渡りに船とはこのことだろう。
洋上でプカプカと浮いていた俺は、なんとか船に飛びつくと、甲板までよじ登った。
どんなご令嬢か、お貴族様がいるのかと構えたのだが、甲板には誰もない。
「船乗りもいないってどういうことだ? それに……」
なんとも不気味な雰囲気だ。
帆はボロボロ、あちこち縄が切れていて、甲板の床の抜けていた。
緩やかな音楽どころか、うめき声すら聞こえない。
さあ、と潮騒の音だけが妙に耳に残った。
「こいつはまさか……」
俺はもうこの時、1つの予感はしていた。
つまり、よくお伽噺の中に出てくるという幽霊船だ。
人類圏でも有名らしいが、魔族の間でも怖い話として有名である。
といっても、子ども騙し程度だがな。
社会に出たら、邪知暴虐な上司や取引先がワラワラ出てくるし、そっちの方がよっぽど怖い。
さて一難去って一難だ。
本当に幽霊船というなら、このまま乗っているのも危うい。
かといって、今俺がいるのは大海原だ。
海に飛び込んだとて、魚の餌として啄まれるだけである。
「しゃーねぇ。誰かいないか確認するか」
甲板に突っ立ってても仕方ない。
出港した当初は割と暖かったが、霧の中にいるからかちと肌寒い。
風邪を引いても困ると、ひとまず俺は甲板の下に降りていった。
中も当然不気味だった。
かといって、真っ暗というわけじゃない。
松明こそ焚いてないが、人魂みたいな青白い炎が船室のある廊下に等間隔に置かれていて、比較的明るく感じた。しかし、ここでも人気はない。代わりに強い潮の香り、懐かしさ感じる何か腐ったような匂いがしていた。
言い忘れていたが、別に俺は怖いのが苦手というわけではない。
それは亜屍族だからではない。
魔族として、普通に恐れているだけだ。
「おーい。誰かいるか? いるのか? いないのか? どっちなんだい?」
人がいないか捜す。
一縷の望みもないことはわかっているのだが、声を出していないと逃げ出したくなる程度には、俺はビビっていた。
「……ふ」
何か声がした。
それが人なのか、迷い込んだ人魚なのか、はたまた幽霊なのかわからない。
正直に言うと、そっちには行きたくなかったのだが、折角の手がかりである。
何者かわからないが、挨拶ぐらいはしておいて、相手の印象をよくするのは悪くないだろう。
気が付けば、俺は船底の近くまで降りていた。
ここはさらに空気が悪く淀んでいる。何故か霧が発生していて視界も悪い。
手で霧を払いながら進むと、再び声が聞こえた。
「1枚、2枚……」
やはり人の声である。それも恐らく女だ。
かすれた、今にも事切れそうな声に、背筋がゾクゾクする。
やっぱ帰ろうと思った時には、俺は進む方向を見失っていた。
廊下はほぼ一方通行。こんなものとにかく走り抜ければなんとかなると思ったのが運の尽き目だ。
声から離れようとしているのに、段々と声が近づいてくる。
しまいには床に空いた穴に足を取られ、転んでしまう。
こういう時にお約束をかましてしまう自分を呪った。
そもそもドジッ娘の役はシャロンだろう。
なんで260歳の魔族にやらせるんだよ。需要なんて爪の先もないだろ。
慌てていたのか、穴からなかなか足が抜けない。
遮二無二近くのものに手を伸ばすと、何か硬い棒のようなものを掴んでいた。
随分と頑丈そうな鉄の棒。ヒンヤリとして、感触から少し腐食しているのもわかる。
だが、それは妙に覚えのあるものだった。
「1枚……、2枚……、3枚……、4枚……、5枚……」
声がめっちゃ近くで聞こえる!
その時、一瞬霧が晴れた。
目の前に開けると、そこにあったのは、俺にとってお馴染み。
あまり見慣れたくないものだが、檻があった。
つまりここは船の中の牢獄だったのだ。
その牢獄に人がいるのが見えた。
隅で何かペラペラと紙幣を数えている。
(あれ? あの紙幣ってもしかして……)
俺は人が数えている紙幣を見て、あることに気づく。
すると、その枚数を数えていたと思われる声が、つと止まった。
「9枚……。おかしい……。おかしい……。おかしい……。おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかし……。1枚、1枚足りない。1万札が足りないのぉ」
もうこの時点で俺はションベンちびりそうだった。
すると、紙幣に目を落としていた女がこちらを向く。
充血し、獣じみた瞳に俺の膀胱が再び緩む。
「ねぇ……。知らない、あなた。私の……1万札……ねぇ……。しらない?」
知るわけがねぇ。俺、今ここに来たばかりだぞ。
つーか、こいつはなんだ? 死霊か。その割りには随分と貫禄があるというか。
普通に怖い。俺、四天王で死属性なんだけどな!
女はなおも俺の方に、いや格子の方に近づいてくる。
やがて、その顔が露わになってきた。
綺麗に巻かれた金髪ロールに、南の島の浜辺もびっくりな白い砂。
胸こそ残念だが、そこそこ背も高いことからスレンダーな良い体型とも言い切れる。
如何にも良い所のお嬢さん。だが、今その緑の瞳は血走り、その縁には濃い隈が浮かんでいた。
「ねぇ……。ねぇ……。ねぇねぇねぇねぇねぇねぇ……。あたしの、あたしの1万札知らない? お願い。そうじゃないと、あたし……」
オリカラデラレナイノ……。
ついに俺は格子を挟んで女と対面する。
はっきり言って、気絶しそうなぐらい俺はビビっていた。
だが、驚いたのは、そこに幽霊らしき女がいたからじゃない。
今、対面した人間に心当たりがあったからだ。
「ま、マリアジェラ?」
「あ……。 あなた!?」
ポカンとする俺に対して、マリアジェラもまた首を傾げる。
俺の顔を見れば「ダーリン!」と謎の方法で格子をすり抜けてくる変態王女様の顔が、みるみる引きつっていった。
そして――――。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
向こうの絶叫に、爆発寸前だった俺は叫ぶ。
脱兎の如く走っていた。
しかし、ことはそれだけでは済まなかった。
行く手に現れたのは、天井を突き破って現れたのは、青白い人の顔。
さらにドンッ! 爆発音にも似た音が立て続けに起きると、顔がドンドン増えて行く。
どれもひどい暴行を受けた男たちの顔だった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
俺の悲鳴が響き渡るのだった。
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