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第2話 現れたのは、勇者でした。

☆★ ☆★ ☆★ 8月7日 新刊発売 ☆★ ☆★ ☆★


『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』の第8巻が発売されます。ついに8巻目です。思えば遠くに……(ry

10巻でも、20巻でも続けていきたいので、よろしくお願いします。

~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


前回のあらすじ

吹雪が吹き荒れる雪山の温泉宿で、魔族カプソディアは宿敵勇者と出会う。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


「あの――――」


 バンッ!


 俺は反射的にドアを閉めてしまった。

 ドアの寄りかかりながら、俺は一旦深呼吸するが、動悸はおさまらない。

 おかしいな。俺、死んでるはずだから心臓とか動いてないんだけど。

 いや、そんな些細なことはどうでもいい。

 ドアの向こうで、バーディーなる女勇者が鬼連打しているが、今は無視だ無視。


「ふざけるなよ……」


 運命の悪戯? 神様のお導き? いや、絶対の悪魔の仕業だろ。

 なんでこんなところで、勇者って名乗る人類と出くわすんだよ。

 そうだよ。普通の人類なら良かったんだよ。こういう時ぐらい村の入口に立って「ここは●●村だよ」って教えてくれる暇そうなおっさんとかにしておけよ。

 こんな時に勇者って、ワーストチョイスすぎるだろ。しかも、後ろのヤツらもやべー。たぶん勇者パーティーご一行様だ。一気に4名のお客様とか、ここの主人が聞いたら泣いて喜んだことだろう。


『ちょっと! 開けてくれない? 私、勇者! 後ろのは私のパーティーなの。吹雪で遭難してしまって。一晩でいいわ。いや、吹雪が止むまででいいから、中に入れてくれないかしら』


 女勇者の声は次第に熱を帯びていく。

 叩く力も大きくなってきて、ドアを押さえておかないと、今にも吹き飛んでいきそうだ。


「申し訳ありませんが、武器を持った人の入館はお断りしております」


『なら武器をおろすから! お願い。開けて頂戴」


「ダメです。勇者様は存在だけで凶器なんですから」


『し、失礼ね。こんな可愛い女の子なのに!』


「女の子いうな! あんたどう見ても●●歳!!」


『違うわよ。●×歳よ! 人を見かけで判断しないで』


「そもそも勇者様ならこんな吹雪へっちゃらでしょ! 何年も雪山で熊とか狩ってきたんじゃないですか?」


『勇者にどんな偏見を持ってるのよ。そんな自然保護団体が手ぐすね引いてやってくるようなこと今時しないわよ!!』


「でも、似たようなことはしてるでしょ?」


『お願いよ~。勇者でもどうにでもできないことがあるのよ~。も、もれちゃ』


 はっ? 漏れちゃう?


 そっとドアを開けて、隙間から外を覗いた。

 バーディーなる勇者は下腹部を抑えている。その顔は真っ赤だ。


「もしかして、ションベン行きたいのか」


「そうなのよ。お願い! 勇者として誇りを守らせて」


「いや、その辺でしろよ。二、三メートル歩けば、ホワイトアウトして何も見えないって」


「イヤよ! 何が悲しくて、この歳になって立ちションしなければならないのよ」


 バーディーはドアノブを引っ張ってくる。

 すげー力! やばい! こいつ、マジで勇者だ!!


「別に歳は関係ないだろ。どうせ酒を飲んだ後で、寝ションベンとか垂れてるんだろ!!」


「…………。そ、そそそそそんなことないもん!」


「今、間があった。はっ! まさか勇者様が――――」


「いやああああああああ!! 何を言ってるのよ、あんた! セクハラで訴えるわよ」


「そんじゃこっちは住居侵入罪でチクってやるわ」


「きぃいいいい! ああ言えばこういう奴ね! てか、あんた何者よ。私の力に抗うなんて本当に人類???」



 ズドン!!



 バーディーは握ったドアと一緒に吹き飛んでいく。

 俺が急にドアノブから手を離したおかげで、勢い余ってそのまま飛んで行ってしまったのだ。

 その様子を仲間たちが唖然とした様子で見つめていた。


「あは……。あはははははは……。人類に決まってるじゃないですか? どこから見ても人類ですよ。あはははは……」


 根負けした俺は、自分の正体を隠すために勇者を温泉宿に迎えるのだった。



 ◆◇◆◇◆



「ふー! 生き返るぅ~!」


 暖炉に手を掲げながら、バーディーは心底嬉しそうな声を上げた

 先ほど念願叶って、お花を摘むことに成功した彼女は、先ほどまでの喜劇的な展開を忘れたかのように和んでいる。その顔はマシュマロみたいに溶けてしまいそうだ。


 しかし、今でこそ人畜無害といった感じだが、女勇者バーディーの名前は魔族圏、引いては魔王城にまで轟いていた。これまで何万という魔族を単独で葬り去り、幹部や族長クラスの魔族を50人以上斬っている。人斬りならぬ『魔族斬り』と魔族たちから恐れられていた。


 そんな奴とよもや雪山の温泉宿でエンカウントするとか。俺、なんかした?

 いくら人類圏と魔族圏の間にあるからって、悪魔の悪戯でもさすがに手が込みすぎている。しかも外は吹雪。こんな日に逃げたりしたら、見つかるのは来年の春か、あるいは一生見つからないかもしれない。


 今この温泉宿で勇者パーティーに引導を渡すことも可能だが、雪山で一気に4人もの手練れがいなくなったとあれば、何らかの捜査が入るはず。魔族の痕跡があったとわかれば、人類側は何らかの手を打ってくるはずだ。もしかしたら人類圏に潜り込ませている魔族に気づく可能性すら出てくる。

 今ここで功に焦れば、後々魔族にとって大きなマイナスとなるだろう。


「ひとまず我慢だな」


 忍ばせていた人差し指を、ソッとローブの中に隠す。


 厄介なのはバーディーだけじゃない。

 周りのパーティーメンバーも詳細は知らないが、手練れであることは間違いあるまい。そのメンバーもバーディーと同じく暖炉に貼り付き、鎧や籠手、ブーツなどを外している。雪や氷のせいで、皮膚に貼り付いていたのだろう。軽い凍傷になっていて、治癒士らしき男の治療を受けていた。


 すると、バーディーは朗らかな笑みを俺に向けた。


「助かりました。あ。そうだ。改めて……、私はバーディー・カーディス。女勇者をやってます。それであのマッチョなのが戦士の……」


「ブレッドン・ドンドンだ。助かったぜ、あんちゃんよ」


 いきなりブレッドンなる戦士は、ヘッドロックをかましてくる。

 痛い痛い。ギブギブ! なんだよ、こいつ。慣れ慣れしいというか、普通にNG行動だろうが! 初対面だぞ、お前!


「ブレッドン! 命の恩人に失礼ですよ」


「おっと。そうだった。すまねぇな」


 ブレッドンは牛乳瓶の底みたいな眼鏡をした男に諫められる。

 ひょろっとした体型に、如何にも聖職者という装備をしていた。

 僧侶――いや、おそらくこいつが……。


「申し遅れました。小生はリプト・ドーマレル。このパーティーの回復役。そしてバーディーを見出した聖人を務めております」


 勇者の側には聖女、あるいは聖人と呼ばれる人間がついている。

 リプト・ドーマレル、確かに聞いたことがある。

 魔族の間では、【千里眼】と恐れられている聖人だ。

 こいつの捕捉能力と情報処理能力で、一体何匹の魔族が殺されたやら。


 そして自己紹介は最後の人間に移っていく。

 勇者に、戦士に、僧侶(聖人)か。そうとくれば、やはりここはオーソドックスに魔法使いだろう。遠距離支援タイプはパーティーを組むなら必須だからな。


「蛇使いのスネークガールにょろ。仲良くして欲しいにょろ」


 なんでそこで蛇使いなんだよ!!

 どう考えてもミスチョイスだろ!

 あと名前! 他の名前も結構癖が強いが、『スネークガール』ってまんま過ぎだろ。ていうか、芸名だったりしないよな。


「スネークガールちゃんは、元は雑伎団のエースだったんだけど、私がスカウトしたんだよ。ちなみに本名は誰も知らない」


 本当に芸名だったよ!

 誰も知らないって……。

 本名がばれたら、弱点でも暴かれるのか?


 ていうか、エースだったの?

 蛇使いが? どんな雑伎団だよ。

 普通そう言うのって、空中ブランコとかじゃないのかよ!

 つーか、エースなのに『にょろ』ってさすがに情報量が多すぎるだろ!


「私たちちょっと極秘任務で山にやってきたんだけど……。まさかそんな日に吹雪くなんてね。驚きだよ」


 びっくり、びっくりと、バーディーは朗らかに話した。

 先ほどまで目を血走らせながら、おトイレに貸して欲しい訴えていた女勇者とは思えない。


「俺も驚きました。まさかこんなところでかの有名な勇者ご一行と会えるなんて」


「でしょ。すごい。偶然だよね。ところでさ~」


「はい。なんでしょ」


「君はなんでこんなところにいるんだい」


 バーディーの顔色ががらりと変わる。

 外は吹雪。もちろん月明かりなど望めない。

 光といえば、この部屋にある暖炉ぐらいなものだ。

 時折、チリチリと火の粉が爆ぜると、バーディーの大きな瞳に映り込む。

 まるで炎……。そういえば、こいつの二つ名って【闘炎の勇者】だったな。


 そんなことを思ってると、バーディーはスラリと剣を抜く。

 炎が噴き出し、煌々と光を放つ。

 おいおい。暖炉なんかよりもよっぽど(あった)まりそうなものをお持ちじゃねぇかよ。


「そ、それは……」


「実はね。この近くに魔族がやってくるというお告げをあったんだ。……だから、嘘はダメだよ」


 暗い目で脅してくる。

 こえぇ。これがバーディー・カーディスの本性。

 【闘炎の勇者】の素顔というわけだ。


 後ろのパーティーを見ても、助けを求められる雰囲気じゃない。

 さっきまでの和やかな空気は一変。まるで俺を異物のように見てくる。

 不味い。マジで勇者に殺されるかも、俺。


 てか、お告げってなんだよ。

 まさか聖女か聖人かの能力か。

 あいつらの能力、ちょっとチートすぎない?


 こうなったら、いっそやっちまうか。

 情報が漏れるよりも、勇者をぶっ殺す方がきっと魔王様も褒めてくれる……はず。

 だが、しくじる可能性はある。何せ相手は【闘炎の勇者】だからな。

 考えろ、カプソディア。何か打開策があるはず。

 ともかく今は時間を稼ぐ。

 一時的でもいい。この場を見逃してくれそうな肩書きを探せ。


 そんな時、俺はふと日記に目を止める。

 さっきまで読んでいた日記だ。

 表紙に書かれていた名前を俺はそのまま言った。


「ロウンド……」


「ロウンド……?」


「よ、ようこそお客様。七転温泉へ。俺――じゃなかった、わたくし主人のロウンド・ナナコロフと申します」


 こうして一世一代の大喜劇が開幕した。

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