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外伝Ⅰ 家政婦は四天王の正体を知っている(中編)

初手ぺこぱ。

 時を戻しましょう。


 あれは私がショーバレーヒナー家で働いていた時のことです。

 ショーバレーヒナー家は、一兵卒からの叩き上げのご当主が武勲だけでたった1代で築き上げた武家でした。

 そう。あの最初の方で申し上げた大将軍様がいらっしゃる家柄です。


 先にお話ししましたが、大将軍アタナージウス様は、10万の兵を率いて魔族と決戦をなさった結果、すべて全滅。

 奇妙なことにアタナージウス様1人が、命からがら生き延び、敗軍の将として王都に戻ってきました。


 確かに10万の兵を失った責任は重いとは思います。

 ですが、戦に敗れるというのは、長く戦争をやっていれば、1度や2度あること。

 亡くなった兵の方にはお悔やみを申し上げますが、それでもアタナージウス様には、ショーバレーヒナー家一同、もう1度戦場にお戻りいただきたいと思っておりました。


 しかし、アタナージウス様が戦場に戻ることはありませんでした。

 それどころか、「10万の兵は魔王が殺した」「私は用を足していて、命からがら逃げてきた」と、その再起を願う私たちですら呆れるような妄言を吐き、周囲を落胆させました。


 それからアタナージウス様は抜け殻のようになり、未来がないと考えた家臣たちは、1人また1人とショーバレーヒナー家から去っていきました。


 気が付けば、ショーバレーヒナー家で家臣として残っていたのは、私1人でした。


 私の仕事はアタナージウス様のお世話です。

 お世話といっても、アタナージウス様の晩年はベッドから出て、日がな一日外を眺めているだけでした。

 まるで何かの襲撃を恐れているかのように、屋敷の正門の方を向いたまま、じっと見つめていらっしゃいました。


 ある時、私は油絵を勧めてみました。

 そうやって、外を眺めていては退屈だろうと言って。

 最初、戸惑っておいででしたが、いざ筆を取ると、何かに取り憑かれたかのように、アタナージウス様は何やら描き始めました。

 初期の頃は、うまく筆を運べず、一体何を描いているのかわかりませんでしたが、誰かのお顔であることは、かろうじて判別できました。。


 月日が過ぎ、アタナージウス様の画力はどんどん上がっていきました。

 そしてついに、ある1人の男の絵を描ききったのです。

 それは冴えない男の絵でした。

 夜の闇のように真っ黒な髪、頬の辺りがやつれ、目の下には隈がある。

 働きすぎた鉱山夫のように、何か覇気のようなものを感じません。


 私はチラリとアタナージウス様の方を見て、絵の人物について尋ねました。


 ただそれだけの事だったのです。

 なのにアタナージウス様の顔は、一変していました。

 いつもは昼の微睡みに溶けてしまいそうなほど、穏やかなお顔が、氷の海に入ったかのように青ざめ、全身がぶるぶると震え始めたのです。


 そして、絞り出すようにこう答えました。



「魔王じゃ……」



 それからもアタナージウス様は、狂ったように魔王という男の絵を描き続けました。何枚何枚も、本当に魔王が取り憑いたかのように。

 そして私に、この男と出会った時のことを話してくださりました。


 用を足しに行ったら、自軍は全滅していた。

 魔王はたった1人で現れ、アタナージウス様1人だけが事なきを得たこと。

 意外と魔王が、人を疑わない純粋な心の持ち主であったことなど。


 それでも、私は信じられません。

 こんな奴隷のようにやつれた男が、魔王の訳がないと。

 所詮は、老将の妄想だと思い、信じませんでした。


 その後、私はショーバレーヒナー家を退職することになりました。

 もうかなりの時間が経ちましたが、それでも私の心からアタナージウス様が描かれた魔王の絵が消え去ることはありませんでした。



 そして、ついに今日です。



 私は出会ってしまいました。

 間違いありません。

 今、私の目の前に、あの絵画の魔王と瓜二つの男が座っていたのです。


 いやいや、落ち着きましょう。

 落ち着け、私。


 確かに似ています。

 だが、それがどうだというのです。

 耄碌した老人が描いた絵と、そっくりだというだけではないですか。


 他人のそら似なんてよくあること。

 そうです。たいていの働いている男なんて、頬がこけてて、目の下に隈があるものですよ。


「じゃあ、面接を始めましょう。カプア様、何かお聞きしたいことはありますか?」


「いきなり言われてもな。えっと…………マルガリータ・エガントさん。とりあえずよろしく頼む。一応、ここの当主をやっているカプアだ」


「え? 魔王ではなくて?」



 …………………………!



 はううううううううううううう!!


 わわわわわわわわわわ私は何を口走っているのでしょうか。

 初対面の人に、しかも雇用主の方を疑うような発言。

 それに「魔王ではなくて?」って、どういう質問ですか?

 仮にこのカプアさんが魔王だったとして、「あ。魔王でーす。よろしく!」なんて言うはずないでしょう!


 私の馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿!!


「は、はははは……。き、きききき緊張してるのかな……」


 すっげぇ眼を泳いでるんですけど!

 なんか脂汗とかたらたら垂らしてるし。

 明らかに挙動不審というか。

 まさか、本当に魔王?


 いやいや、そんなはずがありません。

 大体、魔王がこんなど田舎にいるはずあるわけないじゃないですか!!


 バンッ!!


 いきなりドアが蹴破られました。

 そう。ドアが開かれたのではなく、蹴破られたのです。

 そこから現れたのは、真っ赤な髪をツインテールにした少女でした。


「カプソディア、遊びに来てあげたわよ」


 少女は満面の笑みをさらします。

 手足は細く、際どいボンテージ風の服装を着て、存分に褐色の肌をさらしていました。


「あら? お客様? お仕事中だったの。ごめんなさいね」


「は、ははははは……。な、なかなか元気なお子さんですね」


「あたしは子どもじゃないわ。あたしはグリザリア! 大ま――――」


 何か言いかけた時、カプア様は風のようにグリザリアという少女を攫って、扉の向こうへと出ていきました。

 しばらくして、口論の声が隣の部屋から聞こえてきます。


 ホムンクルスがどうとか。

 また作ってもらったとか。

 今度は大丈夫、安全装置がついてるからとか。


 それはもう物騒な専門用語が並ぶ、魔導についてお話でした。

 そこはかとなく危ない香りがした私は、スルーすることに決めました。

 ただスルーできない事実が1つあります。


 先ほどの少女の背中に、パタパタと翼のようなものが生えていたのを、私は見逃していませんでした。


 普通、作り物だと思うでしょう。

 でも、違うんです。

 少女の口調に合わせるように、パタパタと動いていたのです。

 あれは、どう見ても子どもが仮装のために作ったようには見えません。


 ここで、私は1つの結論に至りました。


 最初にも言いましたが、私はとてもスパイ小説が好きです。

 その経験からか、直感的にこう考えました。


 高収入……。

 秘密厳守……。

 絵画の男……。

 そして翼の生えた少女(使い魔?)……。


 間違いありません。

 ここはきっと魔王軍の諜報活動拠点なのでしょう。

 このノイヴィルという田舎町を経由して、人類軍の様々な情報を魔王軍の陣地に送っているに違いありません。


 魔王軍も、なかなかやりますね。

 ノイヴィルは、戦闘拠点としてはかなりズレた田舎町。

 まさか人類軍も、こんなところに魔王軍の諜報活動拠点があるとは思ってもみないでしょう。


 若干、ニヤニヤしていると、私は視線を感じました。

 はたと顔を上げると、エリーテさんが私の方をじっと見つめています。

 何か私を疑うように……。


「あ、あの……。何か…………?」


「いえ。別にただ――――」



 面白そうな人材が入ってきたな、と……。



 その言葉はひどく私の耳に残るものでした。


前編だから、後編で終わると思ってたでしょ。


……作者も思ってた。


前回もオススメしたのですが、再度ご連絡。

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