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年末年始のご挨拶スペシャル②

☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★


本日休載ですが、芳橋先生が素敵な宣伝(?)漫画を描いてくださっています。

ニコニコ漫画で読めますので、よろしくお願いします。


また2月8日にコミックス7巻が発売です。

表紙はルヴィアナとなっております。

早めに予約してもらえると、紙の部数が増えて、芳橋先生、編集さん、出版社さんが幸せになるので、是非お願いします。


挿絵(By みてみん)

 ディザメラ・ブル・ユースカットなる伯爵から呼び出されたのは、俺が子爵(ソォ)になってまもなくの頃だった。


 情報通のエリーテ曰く、ユースカット伯爵家はカプア子爵(ソォ)博士(ディア)領の隣にある領地を治めている。その歴史は古く、100年を経過していて、所謂由緒正しい貴族家系なのだそうだ。


 んで……。そんな伯爵様になんで呼ばれたのかというと、俺にもさっぱりわからん。当たり前だ。俺は魔族だし、亜屍族(デミリッチ)だし、元四天王だぞ。人間の貴族の習慣などわかるはずもない。


 うちの勇者が大ホームランでもかまして、隣の屋敷の硝子でも割ってしまったのだろうか、とでも思ったのだが、送られてきた手紙に寄れば、クレーム的なことでもなかった。端的に訳すと、お隣同士仲良くしましょうということで、ユースカット伯爵家でヌン活でもしませんか、ということだ。


 はっきり言って断りたかったのだが、こういうのも貴族の務めらしい。別に望んで子爵になったわけでもないが、なってしまったからには関係は良好にすべきだろう。あらぬ誤解でも与えて、変に勘ぐられて懐を痛めるのは俺の方なんだからな。


 まあ、こういう調整役は魔王軍でも胃に穴が5、6箇所ぐらい空くぐらいやっていたし、なんとかなるだろう。


「わぁあ……。大きいね」


「さすが伯爵家の主家ですわ」


 ちびっ子勇者と聖女が緑色の屋根と真っ白な屋敷を見上げる。庭はよく整備されていて、噴水まで置かれていて、涼やかな音を立てていた。格子の門や塀も如何にも頑丈そうだ。ハイソな雰囲気は、この前までゾンビが徘徊していたノイヴィルとは雲泥の差だ。子爵家の屋敷に至っては、未だに悪魔払いの盛り塩が残っているぐらいだからな。……シャロン、早くなんとかして。


「よくぞ来られました、カプア子爵(ソォ)博士(ディア)様」


 屋敷に入って出迎えてくれたのは、ディザメラ伯爵その本人だった。さらに数人のメイド、執事が丁寧に頭を下げている。うちの性悪メイドに見せてあげたい姿だ。……ちなみに駄メイドと、その主人はお休みである。前者は何をしているか知らないが、ご主人さまの方は朝から牢獄の格子を舌で舐めて綺麗にしていることだろう。貴族との関わり方を知らない俺としてはついてきてほしかったが、まあいないなら厄介ごとが増えないから構わないだろう。


 さてディザメラ本人の風体だが、如何にも貴族といった感じのシュッとした男だった。撫でつけたグレーの髪に、偉そうな口ひげ、そして野心的な紫色の瞳……。


 如何にもモブ王国貴族という姿を見て、ただただ何事もなく終わることを祈るだけだった。



 ◆◇◆◇◆ ディザメラ ◆◇◆◇◆



 わたくしの名前はディザメラ・ブル・ユースカット。ユースカット伯爵家の4代目の当主である。


 さて本日は隣領の領主となったカプア子爵(ソォ)博士(ディア)を招き、お茶会を開くこととなった。このカプア(敬称略)はノイヴィルに侵攻する魔王軍を討ち果たし、功績が認められたことによって子爵となった。さらに国王からの覚えもめでたく、なんでもマリアジェラ王女の花婿候補という噂もある。まさに昇り竜の如きお方だ。


 さぞ立派な御仁なのだろうと、想像の翼を広げていたが、少々……いやかなり無礼で、横柄な人柄のようである。


 話は少し我がユースカット伯爵家に戻ろう。我が伯爵家はすでに100年を要する由緒正しい貴族家系だ。経済的にも硝子の仕事が当たってまずまずといったところで、社交界でも伯爵家よりも上位の爵位の方々に覚えもめでたい。貴族としてはそこそこの地位がある。


 な・の・に・だ・!


 何故、この男は我がユースカット伯爵家に挨拶に来ない!! 普通、隣領に自分よりも爵位が上で100年の歴史のある貴族家に頭を下げるのは常識以前の問題だ。確かにいきなり子爵に叙勲され、かつ慣れない領地の生活に戸惑うのはわかる。だとしても、隣の領地に一言もないとはどういう意味だ。せめて贈り物ぐらい送るのが当然であろう。


 どうやらカプア殿は余程の馬鹿か、あるいは田舎者だと思う。聞けばさる王国の騎士団長だっただの、国王であったのだのと噂する者もいるが、所詮は噂は噂だ。


 先人として、わたくしがたっぷり貴族とはなんたるか、教えて差し上げよう。


「わぁ……。すごい。シャロン、いっぱい絵画があるよ」


「素敵ですわ」


 廊下の壁に並んだ絵画や美術品を見て、お供の2人がはしゃいでいる。一応見る目はあるようだが、それにしてもお供が2人しかいないとはどういうことだ。さきほど勇者と聖女と挨拶されたが、まだ子どもではないか。おそらく傭兵を雇う金もないのだろう。領地をもらった直後は何かと物入りであることは理解できるが、自分の命を守ることに金を費やさないなど、貴族としては三流も三流。領主いなくなれば、困るのは民、そして自分の家族だ。己の命に最善の保険をかけるのは、貴族として当然のことなのである。


「この壺、なんかおかしな形」


「これは花瓶ですね。……でも、確かにおかしな形をしていますわ」


 自称勇者と聖女が花瓶の前で談笑している。

 馬鹿め。やはり子どもよな。その花瓶の価値がわからないとは……。それは最近世間を騒がしている新進気鋭にして、正体不明の作家パールクールの作品だ。出すところに出せば、金貨100枚も下らぬ逸品だぞ。


「ししょー、この花瓶見て」


「人様の家で騒ぐな。静かにしてろ」


「でも、これなんかおかしいよ」


「んー?」


 カプアはじっと花瓶を見つめる。

 その眼差しは真剣だ。どうやら美術品を見る目だけはあるらしい――と思っていたのだが……。


「昔、妹が作っていた花瓶に似てるな」


 なんだ、それは!

 お前のような田舎者の妹が作った花瓶と、新進気鋭にして、正体不め――――いや、待て! よく考えたら未だにパールクールの姿を見た者はいない。男か女か、若いか年よりすら誰も知らないのだ。知られているのは、作家名のみ。


 カプアは無礼な子爵であれば、王国貴族。国王からの覚えもめでたく、王女の花婿候補。一介の田舎者が、そこまで成り上がるには、何か裏があるはず。たとえば、パールクールの美術品とか! カプアが自分の妹の作る美術品を使って、貴族までのし上がったのだとすれば、あり得ない話ではない。


 こいつ、ボケッとしているように見えるが、本当はすごいやり手では……!


「ほ、ほほう。カプア殿の妹君の作品と似ていると。是非ご紹介いただきたいものですな」


「は、はああああ! 紹介できるわけないだろう!!」


「え、ええええええ!!」


 めっちゃキレられた。

 いや、これは正しい判断だ。

 仮に妹がパールクールとなれば、貴族から引く手数多となり、自分がのし上がるための美術品が作れなくなる。むしろわたくしが出歯亀だったと言わざるを得ないだろう。しかし、知りたい。パールクールの正体を!!


 いかんいかん。

 少々気が立ち過ぎていたようだ。

 そしてこのカプアという貴族を侮りすぎていたらしい。挨拶もできな田舎者でも、カプアが子爵となり、領地を持っていることは事実。王国貴族として、迂闊な発言は控えなければ。


 わたくしは再び熱心に絵画を見ているカプアに声をかけた。


「カプア殿、熱心ですな。なにかお眼鏡にかなうものがありましたかな?」


「いや~、うちにはこういうのがなくて。いっぱいあるから1枚ぐらいほしいなあって」


「ははは……。それは――――」


 ちょっと待て!


 普段なら「ノットエレガント!」と叱り飛ばすところだが、一旦落ち着こうディザメラよ。

 ジョークにしては、随分と堂々としているし、はっきり失礼にも程がある発言である。そもそもわたくしが集めた珠玉の逸品を、まるでバザーに買い付けに来た子どもの如くせがむなど笑止千万!


 だが、ちょっと待って欲しい。


 先ほどから口酸っぱく言っているが、あえて言おう。

 こいつは王国貴族でしかも、国王陛下の覚えめでたい王女の花婿候補であると……。わたくしですら国王に会ったのは1度だけ。なのにこの男はたった1度の参内だけで、王女の花婿候補になってしまった。さらにわたくしの大好きなパールクールの兄でもある。


 いくら田舎者とて、安易にわたくしに粗野な言葉をかけるわけがない。

 これにはきっと何か訳があるのだ。そしてわたくしは気づいている。これはきっとわたくしを度量を図るための〝探り〟であると……。


 このディザメラ・ブル・ユースカットの器の大きさを探っているのである。


 おそろしい男だ。

 粗野な言動によって、一旦相手を油断させておいて、わたくしの真の貴力(きりょく)(貴族の力)を確かめようとするとは……。


「は、ははは……。ど、どうぞ……。き、きき気に入ったものがあれば持っていてくだされ」


「え? い、いいですか?」


「ええ。お、お近づきの印ということで」


「あ、ありがとう。ほ、本当にいいのか? な、なんかあんた顔色悪いが、無理してね」


「いやいやいや。そんなことはありませんよ。か、顔色ならカプア殿こそ」


「い゛! い、いや~~、これは元からというか。な、何にしようかな。迷っちゃうなあ。1枚だけなんですよね」


「え? ……そ、そうですな。い、いい1枚とはいわずに、2、3枚持っていてくだされ」


「マジか! あんた、すごくいい貴族なんだな」


「も、もちろん。わたくしも王国貴族の端くれ。ノブレスオブリージュであります」


 そう。これは施しなのだ。伯爵が新米子爵に対する施し。別にこの男のバッグボーンが怖いとか、正体不明とか、なんか見てたら自然と手が震えてくるとか関係ないのだ!


「じゃあ、これとこれと、これにするか」


「ふおっ!」


 こ、こやつ! い、一瞬でこの画廊から、トップ3で高い絵画を選びやがった。な、なんというヤツだ。


「か、かえし……」


「ん? なんか言ったか?」


「な、なんでもありませんよ」


「いや、当主すげー顔色悪いんだけど。本当に大丈夫か? ヌン活している場合じゃないんじゃね?」


「そ、そんなことは……ど、どう、ぶくぶくぶくぶくぶく……」


「ぎゃあああああああああ! 突然、貴族が泡を吹いて倒れたぞ!!」







 次の日から1ヶ月、ディザメラは寝込んだという。


長くなったので、前後編です。

再来週更新です。


遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。

本年も「ククク」のシリーズをご愛顧いただきますようよろしくお願いします。


また元日に発生しました能登半島地震にて被災された方にお見舞い申し上げます。

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