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外伝 Ⅵ とあるゴーレム使いの恋噺①

☆★☆★ 8月8日発売 単行本6巻 ☆★☆★


表紙は魔王様です。是非お買い上げください!


挿絵(By みてみん)

※ この物語はカプアが炎獣軍団からノイヴィルを救った直後ぐらいの時系列となります。



 薄暗い室内で、男女4人が〇テーブルを囲んでいた。


 1人はやや不安げに尻尾を振る獣人の少女。

 1人は眼鏡をかけた受付嬢。

 1人は小柄ながら筋肉を隆々とさせた老人である。


 そして、最後の1人は司祭服に身を包み、この中で誰よりも豊満な胸を持つ少女であった。


 閉め切られた室内で、明かりはテーブルの上に立てられた1本の蝋燭だけ。

 それを囲み、男女4人が神妙な表情を浮かべていた。


 最初に口を開いたのは、司祭服を着た少女である。


「それで例の計画ですが、進捗はいかがですか、マケンジー様」


「うむ。人材の目処も立った。順調といえば、順調なのじゃが……1つ問題が出てきてな」


「それはどういったものでしょうか?」


「少々ひねくれ者でな。わしから説得はしたのじゃが、なかなか首を縦にふらん」


「弱りましたねぇ……」


 司祭服の少女は下を向く。

 落ち込む相棒を見て、獣人の少女が立ち上がった。


「どうにかならないの、マケンジーのお爺ちゃん」


「どうにかしてやりたいのは山々だが、わしの力ではなんとも……」


「そんな……」


「だが、手立てがないわけではない」


「と言いますと……」


 尻尾と一緒に項垂れる獣人の少女に代わって、受付嬢がマケンジーに尋ねた。


「カプア自身に頼むというのはどうだろうか?」


「え? ししょーに頼むの! それはちょっと!」


「勇者殿、声が大きいぞ。この話は極秘事項と決めたのは、お主であろうが」


「ごめん、お爺ちゃん」


 勢いよく立ち上がった獣人少女はすごすごと自分の椅子に座り直す。


 見かねた司祭服の少女が助け船を出した。


「わたくしも勇者様と同じ考えです。今、この計画を聖者様に知られるわけにはいきません」


「ならば、別の方法でカモフラージュするというのはどうでしょうか、聖女様」


「どういうことですか、カーラさん?」


「まずギルドが依頼を出すんですよ」


 受付嬢の提案に、老人はポンと膝を叩いた。


「なるほど。そうすれば、自然とカプアとあやつを接触させることができる」


「なるほど! 本当のししょーを知れば、その人だって」


「ああ。カプアならあの者の心を動かし、我らの悲願を叶えてくれるだろう。ぬふふふ……。目に浮かぶわい、あいつの馬鹿ヅラがな」


 小柄な老人は肩を揺すり、笑った。


 空気が収束する中、再び司祭服の少女が口を開く。


「どうやら、計画はうまくいきそうですね」


「まあ、カプア次第ではあるがの」


「ししょーなら大丈夫だよ」


「ええ。カプア様なら」


 老人が腕を組んで頷けば、獣人少女は再び立ち上がり鼻息を荒くする。受付嬢は冷静に眼鏡を釣り上げた。


「それでは計画を実行しましょう。何度も言うようですが、努々聖者様のお耳には入れないようお願いします」


 司祭服の少女の言葉に、各々が深く頷く。


 最後に蝋燭の火を吹き消し、4人は外へと出て行った。



 ◆◇◆◇◆



「へっくしょん! ……へっくしょん! へっくしょん!!」


 街の真ん中で、俺は盛大にくしゃみをかます。もうすぐ初夏だってのになんだか悪寒がするのは、気のせいだろうか? もしかして風邪でも引いた? 今からギルドに行き、日銭を稼ごうと思っていたのに……。


 これはもしかして、今日は働くなという神の思し召しかとも考えたが、魔族の俺に加護や恩恵を与える変わったヤツはいないだろう。

 せいぜい憑き纏っているのは、死神か貧乏神ぐらいなものである。

 何せノイヴィルに来てから付いてないことばかりだからな。勇者と聖女のコンビにエンカウントするわ、自分の本名にかすった博物館ができるわ、徹夜で仕事した挙げ句、タダ働きになるわ。


 これが貧乏神の責任だというなら、今度見つけたら絶対即死させてやる。


「へっくし!!」


 いかん。マジで何かおかしい。

 熱もあるような気がする。

 やっぱり今日は宿に帰って、大人しく寝ていた方が良さそうだ。

 でも、今月の家賃がまだ足りてないんだよなあ。つーか、俺は街を救った英雄なんだから、ちょっとは優遇してくれても、罰は当たらないと思うのだが。

 街を救っても、あの胴上げ(?)だけじゃ、割りに合わないぞ。


 そんなことを考えていたら、突如空がキラリと光った。


「し~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~しょ~~~~~~~~~~~~!!」


 風を切り、神様が落っことした神槍みたいに迫ってきたのは、赤い稲妻――もといパフィミアだ。


 俺は避ける間もなく、そのタックルを首で受ける。普通の人間なら首の骨が折れかねない強烈な突進に踏ん張り切れず、地面に尻餅を付いた。


「ししょー、捕まえた。でへへへ」


「でへへへ――じゃねぇわ! 相変わらず殺す気か、お前。おま、普通の人間ならとっくに死んでるぞ」


「ごめんごめん、ししょー。ししょーを見つけたら、つい――――」


 つい――――ってなんだよ。

 お前ら人類には、黒ローブを着ている人間に首から突撃していく病気でもあるのかよ。


 悪びれない自称弟子を怒鳴り付けると、タタタッと足音が聞こえてくる。息を切らしパフィミアに追いついたのは、シャロンだった。


「勇者様! 早すぎです」


「シャロン、ごめん。でも、ししょーを確保したよ」


 ん? 確保?


「ゆ、勇者様! その発言は!」


「そ、そうだった」


 自称弟子たちは慌てて口を塞ぐ。


 なんだなんだ?

 この反応はなんだ?


 付きまとわれて、それなりに時間が経っているが、2人がこんな反応を見せたのは初めてだ。


(まさか俺が魔族だってバレた?)


 そんな感じでもないなあ。

 でも、明らかに何か俺に隠してるというか。


 まあ、ともかく警戒しておいた方がいいかもしれない。向こうがその気なら、こっちにも即死があるしな。


「ししょー、ギルド行くんでしょ?」


「い、いや……。やっぱ風邪……」


「ボクらも今行くところ!」


「一緒に行きましょう、聖者様」


「いや、だから! 俺は風邪を引いたか、らぁぁあああああああああ!!」


 パフィミアは思いっきり俺の背中を押すと、そのままギルドへと連行するのだった。



 ◆◇◆◇◆



 結局、俺は自称弟子たちとともにギルドにやってくる。


 パフィミアもシャロンも一体何を企んでいるんだ。くそ! こいつらの思考パターンが未だに読めない。

 よからぬことを計画していることは間違いないと思うのだが……。


 だが、ギルドまで来てしまった。

 何もせず帰るわけにはいかない。

 俺は受付嬢のカーラに依頼を聞いた。


「こんにちは、カプア博士(ディア)様。今日はどのような要件でしょうか?」


「いつも通り、薬草採取のクエストを頼む」


 依頼する。

 ふと横を見ると、パフィミアとシャロンがこちらを向いていた。


(ん? なんだ?)


 いつもなら『薬草クエストじゃなくて、魔物を倒しに行こうよ、ししょー』とか駄々をこねるパフィミアがほぼ無反応ってのはおかしい。

 シャロンもクエストを受ける俺の様子を見てるって視線だ。


 一体、どういうこだってばよ?


「カプア様、申し訳ありません。本日薬草クエストの依頼は切らしておりまして」


「へっ? 薬草クエストって切れるの? てか、クエストを限定の料理みたいに言うのはどうなんだ? だいたいいつも人手が足りてないから、めっちゃ助かるとか言ってたじゃないか! そもそもさっきあの掲示板に」


 ベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリ!


 ギルドに響くほどの音を立てて、掲示板の貼り紙を破いたのは、ギルドマスターのマケンジーである。


「お、おっと……。なんか間違って昨日のクエストが貼られておったようじゃ。駄目じゃぞ、カーラ。受付が終了したクエストをそのままにしておくなぞ」


「あ。ああ~。ご、ごめんなさい、マケンジー様。その……仕事がいそがしくてですねぇ」


「そ、そうか。し、仕事が忙しかったら仕方ないの~。受付嬢は激務だからの~」


「え、ええ……。これで給料も安いですから、ぎ、ギルドって結構ブラックですよねぇ。あは……あははははは!」


 …………。

 何? この茶番。

 2人とも棒読みだし、嘘吐いてるの丸わかりというか、子どもでもわかるぞ。夜の格闘興行が子どもにバレた若夫婦かよ、お前ら。


 てか、カーラ。どさくさに紛れてカミングアウトするな。


 どうやら、カーラもマケンジーのじじいも何か企んでいるらしい。うちの自称弟子といい、お前ら陰謀を抱えすぎなんだよ。俺ぐらい裏表のない魔族になれないのか?


 やっぱり今日のノイヴィルは何かヤバい雰囲気だ。いや、ヤバいのはいつのものことだが、人はおろか雰囲気も不味い。何か大きな陰謀の渦にいるような気がするのだ。


「悪い、カーラ。やっぱり今日は体調が……」


「薬草採取のクエストはないのですが、1件カプア様にオススメしたいクエストがございまして」


「はあ? 魔物討伐なら……」


「いえ。魔物討伐ではありません。その……説明が難しいのですが、所謂お悩み相談でして」


お悩み相談(ヽヽヽヽヽ)?」


 帰ろうとした俺は再びカーラの方を振り返る。

 ギルドの受付嬢の表情はプロとは思えないぐらい引きつっていた。


 よく見ると、シャロンとパフィミア、さらにマケンジーの爺さんまでこっち向いて、口の端を引きつらせている。

 向こうは平静を装ってるつもりだろうが、まったく説得力がない。ただただ異常なだけだった。


 やっぱりここから脱出するのが賢明だと思うのだが、退路はすでにマケンジーとパフィミアに断たれている。


 チッ! 仕方ねぇ。

 ここは適当にクエストを受ける振りだけして、とんずらこくか。

 ギルドの心証が悪くなるだろうが、知ったこっちゃない。強要してきたのは、向こうだしな。いやなら、とっとと街を出て行くだけだ。


「わかったよ。誰のお悩み相談をすればいいんだ?」


「はい。ローガン・ボールという方でして、ゴーレム使いでありながら……」


 バンッ!


 気が付いた時には、手の平がヒリヒリするほど、カウンターを叩いていた。


「まさか世界的石像彫刻家(アーティスト)の……!!」


「え? カプア様、知っているのですか?」


「ししょー、すごい!」


「そんな方と知り合いなんて」


「まさかのぅ」


 様子を窺っていたパフィミア、シャロン、マケンジーが驚く。


 その人類たちに囲まれながら、俺はカーラの手を取り、真剣な目で言った。


「頼む。会わせてくれ! ローガンに!!」


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