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エリーテさんの優雅な休日(前編)

☆★☆★ コミック5巻 好評発売中 ☆★☆★


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よろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

 カンタベリア王国王宮では、勤務時間は朝組と昼組、夜組に分かれていて、それぞれローテーションで休暇を取りつつ回している。


 そして、今昼組と呼ばれる朝10時から夜7時まで勤務した家臣の勤務時間が終わろうとしていた。


「それではマリアジェラ王女。本日は失礼させていただきます」


 エリーテが業務終了の挨拶に、部屋へとやってくる。

 すでに夜組の家臣が部屋にいて、マリアジェラの髪を整えていた。

 この後、宮中晩餐会があるのだ。


「お疲れ――ぶほおおおおおお!!」


 エリーテが鏡越しにチラッと視線を送ると、部屋の前に立っていたエリーテを見て、吹き出した。


 青のキャップに、褐色の太股を見せびらかすようなきわどいホットパンツ。

 シルクの長袖のシャツを崩し、肩には豹柄のニットを羽織っていた。


 とどめは頭の3分の1を隠すような大きなサングラスである。


「ちょ、ちょ、ちょ! エリーテ、何よその恰好は?」


「恰好……?」


 エリーテはしげしげと自分の恰好を見た後。


「私服ですが、何か?」


「『私服ですが、何か?』じゃないわよ! なんでもう私服を着てるかって話よ! てか、あんたの私服なの!? バカンス帰りの貴族みたいじゃない!」


「なんですか、マリアジェラ様。あの捻りもクソもない、ただ私の大きな胸だけを強調するだけのメイド服をイヤイヤ着ているのに、あなたは私の私服にまで口を出すのですか?」


「違う! そういうことを言ってるんじゃないの! つーか、何気にあたくしの胸に響くことを言わないでくれる。絶対わざと言ってるでしょ!」


「ああ。胸だけに」


「どうせあたくしは視界良好――だから、そういうことじゃなくて! なんでまだ勤務時間なのに、もう私服に着替えてるのよ。あとちょっととはいえ、まだ勤務時間でしょうが!!」


「何を言っているんですか、マリアジェラ様。私もダークエルフとはいえ、女です。女の支度というのは時間がかかるものなのですよ。マリアジェラ様と違って」


「いちいち一言多いのよ! あたしだって時間をかけているんです! ていうか、あなた、その言い草は支度する時間も勤務時間と思っての?」


「ええ。もちろん、10時に出勤して、2時間バッチリとお化粧を」


「バッチリとじゃねぇよ! なんで王宮に来て、2時間もメイクしてるんだよ、あなたは。来る前に済ませなさいよ!! つーか、あんた10時勤務なのに、12時にあたしのところに来るって……。その間、化粧してたの!!」」


 ガンッ!


 ついに鏡台を叩いてしまう。

 夜番の家臣が恐る恐るエリーテとマリアジェラのやり取りに口を挟んだ。


「マリアジェラ様、お口が少々」


「ごほん。悪かったわ、つい――」


「ほほほ……。お疲れなのでしょう」


「ええ。こんな家臣を持ったら余計にね」


「ひどいですねぇ。マリアジェラ様の奇行の方がよっぽど下々の方に迷惑をかけているのに」


「黙りなさい、エリーテ」


 そして昼組から夜組に交代する鐘の音が鳴る。


 すると、エリーテは何か思い出したように口を開いた。


「明日のことですが、マリアジェラ様」


「明日? ああ。そう言えば休暇を取ってたわね? こっちはあなたがいなくても大丈夫よ。休暇を楽しんできなさい」


「ありがとうございます。それでは失礼いたします」


 エリーテがペコリと頭を下げた。


 口は悪いし、何かと仕事をさぼる口実を作ろうとするが、それに目を瞑ればエリーテの仕事は完璧に近い。


 それ故にマリアジェラはなかなかエリーテのことを解雇できないでいた。


 なんだかんだと言いながらも、あのスーパーメイドを認めているのである。


(ところで……、エリーテって休暇の日、何をやっているのかしら?)



 ◆◇◆◇◆



 次の日……。

 マリアジェラの姿は、王都の市中にあった。

 縄の抜け方、牢獄の鍵の開け方、盗賊のアジトからの脱出の仕方。

 『誘拐姫』『牢獄姫』『脱出姫』と様々な二つ名をもつ、マリアジェラにとって王宮からの脱出など朝飯前である。


 さらに裏社会とのコネクションすらあるマリアジェラなら、家臣の住所を探し出すことなど、造作もないことだった。


「いましたわ」


 変装したマリアジェラは、王宮の大通りを歩くエリーテを発見する。


 昨日と似たようなきわどい露出をしたエリーテの恰好が、遠目から見てもわかりやすいものだった。


「あれ、本当に私服だったんですわね。若干主人を煽ってるのかと思ってましたが……。それにしても時代錯誤、いや住む世界を間違えてるような場違い感があるファッションですわね」


 再び家臣の私服のセンスに軽く絶望しながら、マリアジェラは進む。


 時に樽に隠れ、時に店の屋根に忍び、たまに段ボールを被ってやり過ごす。


「むむ……」


 エリーテがとある店の前に止まる。

 大通りの一等地にある瀟洒な外観だ。どうやら貴族たちが使う高級パブのようである。


 そのエリーテに近づいてくるものが現れる。


 なんと男だ。

 青年貴族という奴だろうか。

 エリーテの派手な恰好とは裏腹に、落ち着いた深い青のジャケットを着ている。

 なかなか好青年といった感じだ。


「あれって、もしかしてエリーテの恋人? あらあら。性悪ダークエルフかと思えば、やることはやってますのね」


 2人は高級パブの中に入っていく。

 まだ昼前だ。軽く珈琲でも飲んでから、買い物か、ランチにでも出かけるのだろう。若い貴族の一般的なデートコースである。


 2人は窓際に座って、楽しそうに談笑している。

 エリーテの表情にも笑顔があった。


 それは普段、マリアジェラに見せないエリーテの一面だった。


「あまりお邪魔するのも悪いかしら――――ん?」


 それまで談笑していたエリーテは、持っていた荷物を机の上に置く。

 風呂敷をとくと、現れたのは今にも呪われそうな壺だった。


 その壺を指し示しながら、エリーテは何か力説している。

 デートの最中にいきなり壺が登場して、さぞかし相手は引いていることだろうと思ったが、男の方は顔を真っ赤にして興奮しながら、熱心にエリーテの話を聞いていた。


 男は「買った!」と叫ぶと、懐から大金を取り出し、エリーテに渡す。

 最後に固く握手を交わし、壺を担いで外に出て行くのだった。


「今のもしかして……」


 エリーテの方に振り返ると、金を勘定しながら笑っていた。



 ◆◇◆◇◆



 その後、エリーテは似たような行動を続ける。

 男ばかりかと思えば、女性もやって来て、エリーテの壺を買っていく。

 やってくる面々は実に様々だ。

 犬獣人も猫獣人も、少年からお年寄りまで、エリーテの壺を買っていった。


(エリーテ、一体何をやってますの)


 家臣の副業は基本的に禁じられていないから、まず問題ない。

 問題があるとしたら、エリーテが販売している壺の方だろう。


 見るからに価値がなさそうというか、子どもでも作れそうな壺に、先ほどから法外な値段で販売しているように見える。


 とはいえ、最初は――――。


『壺を買ってくれたら、私のあれをあ・げ・る』


 典型的なデート商法だと思ったのだが、どうやらその様子もなさそうだ。


「ん?」


 ずっと店にいたエリーテがついに席を立つ。


 高級パブを出ると、再び大通りを歩き出した。


 次にやって来たのは、王都の中にある貧民住宅街だ。貧民街ではなく、昔の高級住宅街の成れの果てみたいな場所で、所謂没落貴族という人間たちが居を構える屋敷が並んでいる。


 昔は綺麗であったであろう壁は剥がれ、ところどころ窓ガラスが割れている屋敷がある。


 エリーテが入っていったのは、そんな典型的な没落屋敷だ。


 サビだらけの鉄門を開け、芝生が伸び放題の庭を抜けていくと、灰色がかった屋根の屋敷の中に入っていった。


 エリーテは持ち前の忍び能力を生かして、屋敷の裏口から侵入する。

 中は静まり返っていた。

 もう何年も人の出入りがないようで、床が朽ちて、穴が開いている。


「こんなところ、人が住んでるのかしら?」


「――――つぼ……」


 すると、人の会話が聞こえた。


 どうやら、エリーテは2階で誰かと離しているらしい。


「今、『つぼ』って聞こえたわよね」


 ここの住人がどんな人物かマリアジェラは知らない。

 しかし、どう考えてもお金を持っているように思えない。


 マリアジェラはどちからといえば、『騙す方が1番悪いが、騙された者も悪い』と思う方の人間である。


 とはいえ、こんな屋敷に住む人間に高額な壺を買わせるなんてのは、明らかに悪質だ。


「我が家臣のことだけに、さすがに見過ごせませんわね」


 マリアジェラは2階へ向かう。

 足音を消しながら、部屋に前に立つと、会話が聞こえてきた。


『どうぞお納めください』


 聞こえてきたのは、エリーテの声ではない声である。

 明らかにお年寄りの声だった。


(お納め? すでに壺を買わされたの?)


 ついにマリアジェラはノックもせずに部屋に踏み込んだ。


「エリーテ! 待ちなさい!!」


 大声を張りあげる。

 だが、そこにあったのは、壺を買わされた哀れなお年寄りではない。

 いや、壺はあるにはあるのだが……。


 壁一面、いや部屋一面に、エリーテが売っていた壺がびっしりと存在した。

 それは実に気持ちの悪い光景であった。


「な、なんじゃこりゃああああああああああああああああああああ!!」


 マリアジェラは絶叫する。


 その絶叫に驚いたのは、エリーテ、そして白髪の老婆であった。

 老婆といえど、昔は美しかったのだろう。丸くクリッとした深い青い目は愛嬌があって可愛く、肌の艶も悪くない。

 十代後半の娘が、一気に年老いたみたいな印象があった。


「なんじゃこりゃ――――こっちの台詞ですよ、マリアジェラ様」


「え? マリアジェラ様?」


 エリーテの口から飛び出た名前に、老婆はハッとなる。

 驚くのも無理はない。カンタベリア王国の国民なら誰でも知ってる王女の名前だからだ。


「いえ。あ、あ、あたくしは、その通りすがりの……」


「何が通りすがりですか。人の屋敷に入っておいて」


 マリアジェラは慌てて他人を繕うが、バレバレだったらしい。

 側の老婆も、コロコロと声を上げて笑っている。


「人の屋敷って、あなたもでしょ、エリーテ」


「私はこの屋敷の主の許可を得て、入っているんです。あなたとは違います」


「いいのよ、エリーテちゃん。マリアジェラ王女に我が屋敷に来てくれるなんて、とっても幸せなことなのだから。うれしいわぁ。すみません。なんのお構いもできませんが」


「え? いや、い、いいのよ。別に。あたくしも招待を受けてないわけだし。そ、それよりエリーテ、あなた……いえ、あなたたち、ここでなにやってるのよ。それにこの壺は何?」


 マリアジェラは2人に迫るのだった。


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