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外伝 Ⅳ 入れ替わってるぅう!④

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お休みに書店に行こうと思っている方は、是非お買い上げ下さい。

美しいマリアジェラが表紙となっております。

よろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

「うんまっっっっっっ!!」


 カプソディアは食堂で思わず叫んだ。


 目の前のテーブルに置かれていたのは、マタンゴを使った冷製スープである。

 マタンゴの独特なクセとコクをそのままに、冷気の塊を飲み込んだみたいに喉を冷やしていく。

 得も言えない旨みと風味が口の中に広がっていき、カプソディアは思わず口角を上げた。


「良かったわ。お口にあって」


 当主の席を本日は主賓に譲り、嬉しそうに小躍りしたのは、風の大精霊ウィンディリア――ルヴィアナの母親だった。


 テーブルには肉料理や魚料理、山菜など、森の恵みを使った贅沢な料理たちが、宝石のように輝いている。


 魔王城一帯に広がる毒沼のような料理を想像していただけに、カプソディアはさすがに肩すかしを食らった。


 ブレイゼルも驚きを以て肉料理に手を付けているし、主賓でもなんでもないヴォガニスに至っては、テーブルに置かれた料理の半分を食らいつくさん勢いだ。最初一抹の不安に顔を青くしていた頃が懐かしく思えるほど、幼馴染みたちの態度は一変していた。


「これ……。全部、大精霊様が作ったんですか?」


「ええ……。もちろん、家臣のものにも手伝ってもらったのもありますが、概ね」


 やや謙遜気味にウィンディリアは微笑む。


 それを聞きながら、男性陣たちの思考は一致していた。


(((信じられねぇ……)))


 何せあの殺人的な料理を作り出すルヴィアナを生み、育てた母親である。もっとグロテスクなものを想像していたのだが、見た目も悪くなければ、味も悪くない。


 ならば、一体どうしてルヴィアナのような凶悪なモンスターが生まれたのだろうか。

 はっきり言って、何か突然変異のようなものが起きたとしか、思えなかった。


「私の料理の時も、それぐらい前のめりに食べてほしいものだわ」


(((それはてめぇの料理がゲロまずいを通り超して、もはや最終兵器だからだよ)))


「あらあら……。ルヴィアナちゃんもまだまだね。ところで――――」



 どちらの方をお婿さんに迎えるのかしら……。



 …………。


 一瞬、場が凍り付いたのは言うまでもないだろう。


「ちょちょちょちょちょちょちょ! ちょっと!! 母さん、何を言い出すのよ!!」


「ええ。違うのぅ~? ルヴィアナちゃんが男友達を連れてくるっていうから、お母さんとても期待していたのに」


「ち、違うに決まってるでしょ!!」


 そう言いながら、ルヴィアナは間の抜けた顔をした男性陣の方をチラリと見る。


「あ! 今、かぷ――――」


「どぅあああああああ! 余計なことを言わなくていいの! 全然そんなことないから! 断じて! まったく!! 今日はただ単純にカプソディアとブレイゼルの誕生日を祝ってるだけだから!」


「あらあら。そうなの!!」



 ちょっと待ったぁぁあああああ!



 突如、立ち上がったのはブレイゼルだった。

 親子のプチ喧嘩を遮ると、ブレイゼルは持ってきた燃えるような赤い薔薇の花束をウィンディリアに差し出す。


「大精霊様――いえ。あえて言わせていただきます。お母様(ヽヽヽ)!! どうか娘さんを我にく――――」



 ゲシッ!!



 ブレイゼルは横から飛んできた見事な右ストレートに諸に受けると、空中で一回転し、勢いそのままに床に倒れた。


「あんたはなに問題をややこしくしようとしているのよ! ていうか、鼻血を拭け!」


 ブレイゼルの鼻血を流しながら、どこか幸せそうだった。


 そこから子どもの頃にやった遊びを久しぶりにしたりしながら過ごす。


 そして、ついにあれがやってきたのだ。


「そういえば、ルヴィアナちゃん。そろそろできるんじゃないの?」


 ウィンディリアは嬉しそうに何かを思い出す。

 魔王に匹敵する力があると言われる大精霊。

 どんな強面かと思ったが、単に気の良い優しい母親で、すっかり男性陣は絆されていた。


「あ。忘れてた」


 どこへ行くとも告げずに、ルヴィアナは部屋を出て行く。


 カプソディアたちが首を傾げていると、突然手拍子が周りから聞こえてきた。


 家臣たちが部屋に入ってくると壁際に立ち、「はっぴばーすでい とぅ ゆー(現代訳)」と、誕生日の定番曲を歌い始めた。

 如何にも誕生日会という趣向に、カプソディアとブレイゼルは、少々頬を赤らめながら照れている。


 おいしい食事と、楽しい一時……。


 この時点ですでに、彼らはある可能性を忘れていた。


「ルヴィアナの奴、どこへ行ったんだ?」


「うふふふ……。ルヴィアナちゃんはね。今日とっても早く起きて、用意していたのよ」


「「「え゛っ??」」」


 そこで3人はようやく気づく。

 自分たちが完全にキルゾーンにいることを……。


「用意って……。パーティーの?」


「ふふふ……。それもあるけど、パーティーと言えば、ほら……来た」


 聞こえてきたのは、ルヴィアナの足音だ。

 さらに、ルヴィアナの声で例の「はっぴばーすでい とぅ ゆー(現代訳)」が聞こえてくる。


 周りを家臣で固められ、さらに目の前には大精霊。もはやカプソディア一行に逃げ場などどこにもなかった。


 ついにルヴィアナが部屋にやってくる。


 手に毒――いや、もはや汚物といっていいほどの原形なきケーキらしきものを持っていた。


 心なしか和やかに祝福するルヴィアナの顔が、森の奥で暮らす魔女のように醜悪に歪んで見える。


「はっぴばーすでい とぅ ゆー(現代訳)」



 ぎぃぃぃいいいいいやああああああああああああああ!!



 男性陣の悲鳴が響く。


「おいおい。あれがケーキ!」

「兵器の間違いだろ!」

「今からあれを食うのか?」


 血の気が引いていく。

 いや、もういっそ血がなくなって失神したいぐらいだ。

 あれを食べなくていいなら、死んだっていい(死んでるカプソディアを除く)。


 男性陣が固まってる横で、ウィンディリアは相変わらず笑顔だった。


「あらあら。久しぶりにしてはおいしそうにできたわねぇ」


「ええ! 母さん。自信作よ!!」


(((どこをどう見たらそうなるんだよ???)))


「昔の母さんをもうすでに越えたかもねぇ。懐かしいわぁ。母さんも昔のように作りたいのだけど、何故か昔のようにうまく作れないのよねぇ」


(な、なんだよ!)

(つまり、あれか? 大精霊様も昔は……)

(それが突然変異みたいに治ったってことか。親子揃って、とんでもなさすぎるだろ)


 ケーキに蝋燭の火が灯る。

 部屋の灯りが消された。


「さ! 2人とも火を吹き消して」


「火、火を吹き消すだけでいいんだな。ケーキは食べなくていいんだな」


「何を言ってるのよ。あとでみんなでおいしく(ヽヽヽヽ)食べるに決まってるじゃない、カプソディア」


「ええい! カプソディア! 往生際が悪いぞ。とにかく火を消せ!!」


「むしろ、お前にはここにある兵器を燃やし尽くしてほしいんだが!!」


「カプソディア、なんか言った?」


「な、何も言ってません!!」


「ふーん。さあ。ちゃちゃっと蝋燭の火を消して」


 蝋燭の明かりに照らされながら、カプソディアとブレイゼルは同時に火を消す。


 瞬間、部屋は真っ暗になる。


 まるで2人の命運が尽きたかのようだった。




 そして、その日……。

 悲しい悲鳴が大精霊の城で響くのであった。


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