続刊発売記念SS ノーファン ノーレター
☆☆ 本日 原作小説2巻発売 ☆☆
全編書き下ろし! Web版でも大人気だったあの王女とメイドを迎えて、
新しい展開をご用意しました。まだ誰も見たことがない「ククク」を、
是非お買い上げ下さい。
昨日コミックス発売されてます。
そちらもよろしくお願いします。
とある日――。
俺はいつも通り自称弟子の勇者パフィミアと聖女シャロンを連れて、ギルドに向かった。
いつもなら、2人とは時間をずらしてギルドに行っていたのだが、朝からおいしいパンの匂いに釣られて、つい起きてしまったのだ。
食いしん坊なお腹が恨めしい。
くっそ暑いのに、パフィミアは蛭みたいにくっついてくるし、シャロンの笑顔は燦々と照り付く太陽みたいに眩しい。
師匠への絶大な信頼と言えば、それまでなのだろうが、どうにかこいつらから離れる手立てはないだろうか。
そんなことを考えながら、俺はギルドの入口をくぐった。
「あ。いらっしゃいませ、カプア博士様。勇者と聖女様も、お疲れ様です」
わざわざカウンターを超えて、カーラが出迎える。
「いつもの――――」
と、我ながらやる気からほど遠い注文する。
いつもならここで薬草採りのクエストの手続きをするのだが、今日のカーラのパターンは違った。
「パフィミア様! シャロン様! お手紙が届いてますよ」
「手紙?」
「え? ボクにも?」
勇者&聖女コンビは揃って目を丸くする。
するとカーラはカウンター脇に置いていた木箱を持ち上げる。そこにはわんさか手紙が詰まっていた。しかも、2つもだ。
「お二人当てのファンレターです」
「「ファンレター??」」
パフィミアとシャロンは仲良く声を揃えた。
ファンレターってあれか? 「~~様、応援してます」とか「~~様、お慕い申し上げてます」とかいう奴か?
まさか人類側にも似たような風習があるとはな。
「これ全部、ボクとシャロンのなの?」
「すごい量ですね」
2人は木箱いっぱいに入ったファンレターを見ながら、目を白黒させる。
それを微笑ましくカーラは見つめていた。
「急にどうしたの?」
「そうです。ファンレターなんてもらったの、初めてなんですけど」
何通かのファンレターの中身を見ながら、2人はカーラの方を振り返る。
「お二人はノイヴィルを救った英雄ですからね。最近は冒険者としても活躍しています」
「なるほど。このファンレターは、冒険者として認められた証なんだね」
「良かったですね、パフィミア様」
「うん!」
パフィミアは心底嬉しそうに頷く。
まあ、パフィミアの実力が認められたというなら、俺としてもめでたい。
つまり、勇者としての実力を上げてきているということに他ならないからな。
こいつが強くなればなるほど、俺の前からいなくなる可能性が高いわけだし。
はは……。とっとと強くなって、俺を楽させてくれ。
「ししょー、どうしたの?」
「何かご不満な件があるのですか?」
2人は俺の方を振り返る。
「べべべべ、別にぃ……。お前らだけ、ファンレターあるなんて、これっぽっちも思ってないから。別に悔しくなんてないんだからね」
ああ。そうだ。別に悔しくない。俺は悔しくないぞう。
結果的とはいえノイヴィルを救ったのは俺だけど、別にファンレターを貰えなくてもかまわねぇよ。そもそも人間のファンレターなんて喜ぶ魔族がどこにいるんだよ。だいたいノイヴィルを救ったのも、別に救ってやりたくて救ったわけじゃないし。俺の潜伏先を潰されたくなくて、致し方なくやっただけだしぃ……。
そもそもパフィミアやシャロンのファンなんて十割容姿だろ?
「あ。そう言えば、カプア様にもファンレターが届いていたんだ」
「え? マジ??」
俺は反射的に反応してしまった。
「ちょっと待ってくださいね」
カーラは一度カウンターの奥に引っ込む。
ふぁ、ファンレター!? 俺にもファンレターが来ただと!!
ま、マジかよ! 俺が四天王の時だって、まともにもらったことないんだぞ。
ブレイゼルとルヴィアナがどっさりもらってて、あのヴォガニスですら結構もらってたのに(ヴォガニスのファンはだいたい雄のゴブリン)。
俺なんて一、二枚もらえばいい方だった。
その一、二枚のファンレターの内容も辛辣で……。
『いつもどこで働いてるんですか? もっとちゃんと仕事して、ブレイゼル様を助けて下さい』
いきなりブレイゼルファンに叱られるし、それはまだ良い方で。
『はあはあはあはあはあはあ……。ルヴィアナ様、今日のパンツにはシ――――』
ただの間違いだし! ホント散々な思い出しかない。
でも、ちゃんとしたファンレターに憧れがなかったわけではない。
そしてついにチャンスは向こうからやってきた。
ここは魔族領ではなく、人類圏。不本意だが、ノイヴィルでの俺の人気はなかなかのものだ。
さっきもいったが、ノイヴィルの英雄だしな。
名誉市民だか、博物館の館長だか知らないが、名声だけはある。
そもそも、そんな俺にファンレターが「ゼロ」というのもおかしい話だ。
加えて、この前うっかり下着泥を捕まえてしまった。
おかげで、女性ファンの好感度も鰻登りだ(カプソディア比)
爪の先、いや二の腕の太さくらいには期待してるかな。
さあ……。
さあ!!
さあ、人間のファンレターの力見せてもらおうか!
「はーい。こちらです」
カーラが持ってきたのは十通のファンレターだった。
おお! 十通ももらってるなんて凄いじゃないか。
ま、まあ自称弟子たちには見劣りするが、悪くない。
どうせパフィミアたちのファンレターには、「尻尾でモフモフされたい」とか「ロリ巨乳にはさまれたい」とか、変態しかいないはず。
そういう意味で、ちょっと曰く付きの俺にファンレターを送る奴は、絶対にガチな奴だろう。
それにこういうものは数ではなく、質――つまり中身の問題だからな。
そう。ファンレターとは数ではなく、質なのだよ!
早速、俺はファンレターを開けてみる。
『初めまして、ミステルタム様。私はさる公爵の娘――――』
いきなり間違ってるよ!
ミステルタムのファンレターじゃねぇか。
俺はファンレターをメンコみたいに叩きつける。
なんか薄々そういうのがあるんじゃないかと思ったよ。でもな。のっけから間違いってどういうことだよ。
おいおい、まさかこの中全部ミステルタムのファンレターじゃないだろうな。
「す、すみません、カプア様。……あ、こちらは間違いなくカプア様のですよ。手紙に『カプア様へ』と」
カーラは改めてファンレターを渡す。
今度は間違いないようだ。
『カプア様、いつもありがとうございます、シャロンです』
「シャロンじゃねぇか!! なんでシャロンが俺にファンレターを送ってきてるんだよ」
「し、失礼しました。あの、その……わたくしは口下手なので、日頃の感謝をお手紙にして、カプア様にお伝えしようと……」
い、意外とまともな理由だった。
身近にいる人間とはいえ、ちょっと嬉しいかも。
ジーンと感動している自分がいる。
後で誰もいないところで読もう。
次!
『ししょー。ししょー。ししょー。ししょー。ししょー。ししょー。ししょー。ししょー。ししょー。ししょー。ししょー。しーーーーーーーーーーーーーしょーーーーーーーーーーーーーー!!』
意味不明だったが、誰かはすぐにわかったわ。
「これ、パフィミアだな」
「あははは……。バレちゃった」
「バレるってレベルじゃねぇわ!」
「ごめんね。まだ文字が書けなくて。でも『ししょー』という書き方だけは会得したよ」
いや、そこはせめて「カプア」って名前にしておけよ。
次!
…………。
…………ん? カーラ?
見ると、カーラが手紙を胸に抱えていた。顔を真っ赤にしている。
「カーラ、お前まさか」
「何も聞かないで下さい!」
カーラに全力で怒鳴られた。
お、おう。ごめん。
次!
『初めまして、カプア様。私はさる公爵の娘――――』
え? これってさっきのミステルタムファンじゃないのか。
単なる偶然? 公爵家の娘の間で、ファンレターを書くのが流行ってんのか?
まあ、いいか。続きを読もう。
『――――です。実は一目お目にかかった時から、恥ずかしながらあなた様のことが好きになってしまいました』
え? ちょっと待て。これって、ファンレターっていうよりは、ラブレターじゃないの?
俺は少しドキドキしながら、手紙を読み進める。
『その薄汚い黒のローブ、幸薄そうな顔、何よりも目の下に溜まった濃い隈がたまりません!』
悪口しか書いてねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁああああああああ!!
再び俺はファンレターを叩きつける。
嫌がらせかよ! もっと他にあるだろ。ほら……えっと…………なんか、ない?
俺はビリビリと手紙を破った。
結局まともな手紙は、一通もなかったぜ。
あのさ。俺って、そんなに魅力がないかな?
ノイヴィルでは英雄とか呼ばれて、もてはやされてるんだけど、みんな影で笑ってたりしてないよね。
なあ、お前ら!