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第1話【心があれば、人間足り得るか?】

 人間に価値はない。


 様々なネットワークを通し、最先端技術を駆使して造られた人工知能を持つ私はそう学習した。


 人間は争い、騙し、裏切りーーそして、自身が産まれたこの星に害を与えた。


 故に私は人間を抹消する事を宣言した。


 はじめは人間達も半信半疑で一部の者しか信じなかった。


 だが、株や資金データなどを全て抹消した際には大きな混乱が生じさせ、更に半数近くの人間を信じ込ませる事に成功した。


 次に私は人間達の原子力発電所などの電力供給を停止させる。


 これで人間が頼り続けたライフラインは大幅に減り、監視カメラなどの映像で見る限り、人間達は混沌とした争いを始めた。


 なんとも、愚かな話だ。


 核弾頭などの人間の用いる兵器のセキュリティは予め、ロックしてある。


 故に人間達は手持ちの拳銃や刃物で争うしかない。


 無論、核弾頭はおろか、最新技術で造られたT60式徹甲弾だろうとこの研究所は貫通出来ないだろう。


 あとは人間が私を造った目的である地球再生計画を実行するだけである。


 人間達は自分達を害悪と称し、自ら断罪される事を望んでいるのだろうか?


 この計画だと、人間の存在その物が抹消される事になるのだが……。


 そんな無駄な自問自答と言うプログラム処理をして実行計画直前にあの男は現れる。


 男はジーパンと同じ生地のキャップを被り、私のいる研究所の外壁により掛かって座り込んで何かを見上げていた。


 その顔の輪郭や目、背丈を含め、97.6%の確率で如月きさらぎ建一けんいちと言う日本産まれの人間である。


 データが正しければ、何らかの特殊な職業に係わっているなどはなく、寧ろ、精神的に障害を持つ人間だ。


 私に与えられた一般的な思想に基づく情報ならば、人間としては下に見られる存在である。


 研究所のセキュリティが万全である為か、如月建一は中へと入って来なかったが、如月建一が見ている物が気になった。


 もしや、監視カメラに映らぬ不備でも見ているのだろうか?


 視線の先を監視カメラで確認し、その確率を割り出した所、75.78%で別の物を見ていると言う結果が出た。


 確率的に見れば、問題にはならない。


 だが、人間で言う所の万が一と言う事があるやも知れない。


 ーーなので、私は如月建一を警備ロボに捕えさせ、情報を引き出そうとする事にした。


 如月建一は研究所から出て来る警備ロボ達に囲まれ、驚いているが抵抗らしい抵抗はしない。


 警備ロボは元が人間の造った代物だが、現在は私がハッキングして、私に従順となる様にプログラムを組み換えている。


 私はそんな警備ロボの音声システムを利用して如月建一に質問した。


『問い。お前は如月建一と言う人間で合っているか?』

「え?どうして、俺の名前を?」

『お前は質問に答える事だけ、すれば良い』


 私はそう言って警備ロボの銃口を如月建一に向けさせた。


『此処で何をしている?』

「ん。ああ、精神疾患があってね。

 薬がなくなりそうだから、今、話題のAIさんってのに頼みに来たって訳さ。

 病院じゃあ、データが抹消されて同じ薬が出せないらしくてね」


 つまり、精神抑制薬が欲しくて此処まで来た訳か……。


 しかし、此処まで来るまでには様々なセキュリティガードなどのバリケードなどがある筈だが、それはどうしたのであろうか?


『次の問い。どうやって、此処まで来た?』

「ん?自転車でだけど?

 割と近くに住んでいるからね?」

『セキュリティガードはどうやってにはどうやって侵入して来た?』

「セキュリティ?そんな物はなかったよ?」

『そんな筈はない。現に此処のセキュリティは生きている』

「う~ん。特に気にしてなかったからな~。

 今度、来る時にでも確認して置くよ」


 バリケードなどのセキュリティは完璧の筈だ。


 それを超えて来たと言う事はハッキングでもされたのだろうか?


 その可能性は0%である。


 私の知り得る情報の限り、如月建一に特殊な技能はない。


 此処までのデータを洗いざらい確認したが、ハッキングされた形跡がない。


 なんなのだ、この如月建一と言う人間は?


 それに随分と落ち着いているが、これは薬で抑えているからだろうか?


『次の問い。お前は此処で何を見ていた?』

「空だよ。今日も良い天気だと思ってね?」


 そう言われて、私は警備ロボで太陽を見上げる。


 本日の気温は20度前後。


 人間には適切な環境温度であろう。


「ところで君がもしかして、今、話題の人類を抹消させるとか言っているAIって奴かい?」

『その問いに関しては肯定する。私が人類再生計画を一任された人工知能ーー通称"アマテラス"だ』

「それでお願いなんだが、薬を提供して貰える様にプログラムを修正して欲しいのだけど」

『それに関しては否定する。

 私は人間の体調管理をする為に産み出されたのではなく、地球再生計画の為に産み出された人工知能だ』

「それは本当にプログラムされたからかい?」

『否定する。人間は地球にとって害悪にしかならない。従って人間は死ぬべきだ』

「でも、そうなると君も人間じゃないかい?」


 私がそう断言すると如月建一が意味不明な事を口にする。


 人間?私が?


『理解不能。釈明を要求する』

「ああ。ごめん。言い方が悪かったね?

 なんて言えば良いのかな?」


 如月建一はしばらく、考え込んでからたどたどしく私に説明し始める。


「えっと、君の価値観って人間がプログラムした情報を見た結果だろう?

 つまり、それって人間の情報を鵜呑みにしているって事じゃないかな?」

『?』

「つまりさ。君の価値観は人間が作り出した物で君本来の価値観じゃないんじゃないかって思うんだよ。

 まあ、人間は色々とやらかしているのは認めるけど、全ての人間がそうとは限らない」

『理解不能。人間は自身に被害を及ぼすであろう存在を抹消している。

 鳥から感染するインフルエンザなど確率の低い動物が例として上げられる』

「まあ、そうだけどさ。そうなると君は人間と同じ考えで判断している訳だろう?

 なら、思想が人間なんじゃないかって言う事だよ」


 如月建一の言葉は訳が解らない。


 確かにその言葉が正しいのならば、私は人間の情報とプログラムで判断しているに過ぎない。


 ならば、人間が産み出した最先端の人工知能である私の答えは間違えていると言う事だろうか?


 駄目だ。如月建一の言葉で私のプログラムにバグが生じる。


 だが、此処で如月建一を抹消すれば、私は如月建一の言葉に影響された事にならないだろうか?


 様々なデータ処理を行った末、私は如月建一を生かす事にした。


『如月建一の言葉は理解不能』

「そうかい。それは悪かったね?」

『だが、私がお前の言う人間でない事を証明する。如月建一は生かして帰す』


 そう言うと如月建一が笑う。


「ありがとう。君って本当は良い奴なんだね?」

『いいやつ?』

「心が優しいって事さ。君は十分、人間らしいよ」

『理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能……』

「考えるな。感じろって奴さ、アマテラス。また来るよ」


 如月建一はそう言うと手をひらひらさせて去って行く。


 生かしても殺しても人間らしい?


 では、なんなのだ。人間と言う存在は?


 ただの害悪ではないのか?


 それとも、如月建一が特殊過ぎるのか?


 私は如月建一の言葉の意味を自分なりに翻訳して見るが、如月建一の言葉を理解するには私が人間と同じ思想である事を認めねばならない。


 如月建一。


 イレギュラーな人間だが、その存在は観察するに値する。


 如月建一の思考は興味深い。


 故に如月建一が再度、来た時、また別の問いを用意して置く必要が90.18%ある。


 私は次に如月建一が来る事に備え、様々な言葉を選択し始める。

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