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むしかご

 ……俺はこれからどうなってしまうのだろう。このままこの得体のしれない虫たちに乗っ取られてしまうのか? そうなのか? そうなんだな? 今、おれがこうして思うことも、皆、あいつらに、あの嫌らしく忌まわしい奴らに次々と姿を変えていくんだな?


 そして、俺の不安や怯えが虫に変ずるごとに、俺の裡側で、あらゆる臓器や器官がぼろぼろと崩れては、そのひとつひとつに線のような手足が生え、触角が生え、二粒の目が付いて、その下に俺と同じ顔を模様に持つ昆虫に変じていくんだな。





 そしてその通りのことが起こっていた。しかも今度はそれらには二枚ずつの薄い透明な羽が生えていた。胃の中に虫と一緒に流れ込み、今ではなみなみと溢れているいい香りのする高級な酒が彼らを夢見心地にさせたためだった。


 虫たちはやがて力を得て、俺の内部を少しずつ食んでいった。そして一噛みするごとに力を増していった。


 彼らは再び外へ出ようと目論み始めた。内臓を食い破り食い散らし、血液を飲み、体液を貪り、髄液を啜った。そのうち骨がぼろぼろと崩れると、その小さなかけらまでがたちまち黒い虫と化して崩壊に力を貸した。


 俺の身体は段々と弾力を喪い、水分を喪って干からびていった。


 やがて奴らはスポンジのようにスカスカになった俺の組織の隙間を縫って進み、ついに外界に通じる出口を見出した。目だ。


 虫たちは俺の目を食い破り、そこからも、また鼻や耳の穴からもぞろぞろと列を作って明るい外の世界へ這い出していった。


 陰茎の先からも尻の穴からも奴らは出てきた。そして終にはそれでも足りなくて、体中の毛穴を押し広げ、押し開いて這い出してきた。


 俺の身体はすっかり穴だらけになり、空っぽになった。





 俺の身体に大きく空いた穴のひとつひとつから、反対側に空いた幾つもの穴が見えた。こちら側とああちら側の穴の間を遮るものは、もう何もなかった。


 俺はまるで、俺が幼い頃、夏の朝に捕まえて中に入れておいた大切なかぶと虫を逃がしてやった後の、がらんどうになった虫籠のように見えた。






 虫たちは既に、開け放たれていた窓から一匹残らず飛んでいってしまった。


 彼らは縮こまった偏屈な己らに命が与えられたばかりか、解き放たれた歓びの余り、神の火に焼かれたいという無謀な希みに目覚めて、さらなる高みを目指して羽ばたき続けていた。


 そうしてそのとき、飛び去った彼らの代わりに吹き込んできた一陣の若い風が、部屋の中に転がっていた干からびた俺を無造作に壁に叩きつけた。


 乾き切った俺は粉微塵に砕かれて、床に撒き散らされ、やっとその思考を止めた。


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